先日、IFAJ(国際農業ジャーナリスト)主催のインターナショナルカフレンスがオランダにて開催された。これは毎年、世界各国の農業ジャーナリストが農業ジャーナリス間の意見交換や開催国における農業の実情を理解することなどを目的に毎年、各国で開催されている。今年は、参加国50カ国で参加者200名だった。
Sustainability
今回は、オランダの農業事情を知るために開催されたオランダ国内のツアーをもとに記事を書きたい。このツアーでは、参加者は自分の関心がある分野を選ぶことができる。僕は「Sustainability cropping」を選択し、オランダの慣行農家・有機栽培農家・種苗会社を視察した。
この「Sustainability」という言葉は、今回のカンファレンス4日間を通して、度々使用された。世界人口が際限なく増加していく中で、どのように限られた資源を活かして食糧供給を行っていくか。世界で、今まさに議論されている農業の在り方だ。日本では「持続可能な農業」と言われている。
約束された土地 “Flevoland”
現地のツアーで訪れた場所は、オランダ北部Flevoland。かつて海底だった場所だ。1940年代から1968年ぐらいまでに開発が進められた。海抜マイナス5メートルに位置する。土をよく観察すると貝殻が混じっている。世界でも有数の肥沃な土壌だと言われている。この土地の値段は1ヘクタールで1万ユーロ(現在:1ユーロ=約130円)ぐらいだ。当時、たくさんの若い農家がこの「約束された土地」であるFlevolandに憧れた。政府は、ここに移り住むことを希望した農家の土地に実際に、訪問し、綺麗に整頓されているかなども良い農家の条件として考慮していたという。また、この土地には至る所に風車が見られ、これらは各農家が所有し、収入源の一つとなる。
オランダの慣行農家
さて、初めに訪れたのは、そんな恵まれた大地を活かし、大規模に農業をやっているJonge夫妻が運営する農園を訪問した。170 haの農地で、穀物・じゃがいも・テンサイ・チューリップ・牧草・穀物などを栽培する。
1980年代に父親が政府から60 haを購入したことから始まったこの農家。Leoさんがあとを継いだ1997年以降、約10年ごとに規模を拡大している。土地の健全性を重視し、牧草などを意図的に植え、輪作もしている。Flevolandは世界有数の恵まれた土地と言われている分、農家にかかるかるプレッシャーは大きい。Leo氏も土地の健全性を維持するための情報交換を行うグループに入り、その管理には細心の注意を払っている。また、6つの農家と共同で土地や従業員を行き来きさせ協力しながら、農業経営を行なっている。さらに、2015年には近所の酪農家がやめたため53haと73頭の牛も引き継いだ。牛糞からつくった堆肥は農地に利用できる。
倉庫の屋根には太陽パネルが敷き詰められ、農業に必要な電力はそこで賄い、自ら保有する風車から得られる電力を売ることで収入源の一つになっている。
5月から7月にかけての約2ヶ月間、オランダでは、ほとんど雨が降っていない。これだけ広大な土地だから、潅水をするのに、25000ユーロ(約300万円)かかっているそうだ。ちなみにオランダの施設栽培の多くは雨水を利用したタンクから水を供給しているが、それも枯渇したため、地下水や水道水を利用するなど。現在、水の確保には、どの農家も苦戦している。やはり、このように資源が枯渇している中で、どう農業を営んで行くか。「sustainability」は大切なキーワードになってくるだろう。
様々な工夫を凝らすオランダの有機農家
次に、「Bio Brass」が運営するショールームを訪れた。
おしゃれな雰囲気の飲食スペースに有機農業の仕組みをデモンストレーションした1ヘクタールのサンプル農地がある。
有機農家は消費者と直接繋がることが大切だと、自らのストーリを丁寧に話し、お客に自分たちがなぜ、わざわざ有機農業をやっているのかを理解してもらうことの重要性を説いていた。
Bio Brassは、250 haの農地でカリフラワー・ブロッコリー、レタスなどを栽培している。それぞれに違った専門品種を持つ他の3社の有機農家とともに土地を共有し、共同経営者が得意な野菜をそれぞれ割り振り、単一な野菜を効率よく栽培できるような仕組みを作っている。また、土壌の健康に配慮して、6年周期で輪作を行う。1年目はクローバ、2年目は大豆、3年目はブロッコリー、4年目は玉ねぎやかぼちゃ、5年目はテンサイ、6年目はジャガイモやキャベツといったところだ。
また包装や仕分けは収穫の際に同時に行い、また、GPSトラックターなどの積極的に最新技術を利用するなど時間削減や効率化を図り、どうしてもコストがかかってしまう有機栽培のコスト削減に努めていた。生物の生態系はあらゆるものが複雑に絡み合って成り立っている。例えば、一つの害虫を駆除したからといって、それで全てよしといった単純な因果関係で成り立っていない。有機農業自体にこだわっているのではなく、数ある農法の中で自分たちが合理的に農業を行うための手段の一つとして考えているようだった。
世界の種子を作る「Seed valley」
最後に、世界的なオランダの種苗会社のSygenta社を訪問。
「Seed valley」の中間に位置する。Sygenta社は、世界の野菜の30種類の作物2500の品種について研究開発を行なっている。2017年度の収益は126.5億ドルで、そのうち研究開発費は13億ドルにのぼる。世界28箇所に研究機関を設け、品種改良する期間は10年から15年。農家だけでなく、消費者や小売業者のニーズなども分析し、様々なニーズに対応した品種の開発に取り組んでいる。Sygenta社が考える「Sustainability」は顧客の繁栄。ミッションとして、“One Planet. Six Commitments. The Good Growth Plan.”を掲げ、自然環境を保護しながら農業生産性の向上に取り組んでいる。
紹介したように、オランダの農業は「Sustainability」という共通の目標に対して、それぞれの農家や企業が自分たちの考えをしっかりと持ち、異なる登り方でそれを実現しようとしている。
「このやり方が正解だ」という絶対的なものが無い中で、自分たちが何を信じ、それをしっかりと実行していくことが非常に大切なことだと感じた。グローバル化し、地球規模で考えることが必要になった昨今、日本の農業の未来はどんなことをスローガンとして掲げていくのだろうか。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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