コラム・事例集

公開日時
2018/05/16 00:00:00

【農業IT】ITとロボティックスが凌駕する篤農家の農

この記事の執筆者
凸版印刷株式会社 永野武史/PLANT DATA株式会社 代表取締役CEO 北川寛人

大規模施設栽培におけるデータ計測、分析、活用プロジェクト「ai tomato」

本コラムでは、農業におけるデータ活用の最新事例や今後の動向について紹介しています。第1回目は、農業ITという言葉が広がっていく中で、具体的なデータ活用とはどういうものなのか、実際に生産者の方々に提供しているサービス事例とともに紹介しました。今回は、より具体的な最新の取り組み事例として、私たちが取り組んでいる「ai tomato」というプロジェクトについて、具体的なデータ計測技術とその活用事例を紹介します。
 前回のコラムでも、簡単に紹介しましたが、本プロジェクトは、農水省「人工知能未来農業創造プロジェクト/AIを活用した栽培・労務管理の最適化技術の開発」に採択された、私たち2社を含む参画機関7社のコンソーシアムで推進しています。また、5カ年計画で『単位収量当たりの雇用労働時間を10%以上削減』を大目標としています。多元的な植物生体情報、作業記録や各作業者の作業品質、従前から取得されている環境情報など、植物を取り巻く要素をデータ化し、網羅的にAIで分析。管理者の判断支援、環境制御システムへの自動化や省資源化に向けたフィードバックや生育制御による経営リソースの効率的な活用など複数のテーマを内包しています。


活用① 植物の不可視ストレスを検知する「クロロフィル蛍光画像計測装置」

クロロフィル(以降、Chl)蛍光画像計測装置は、AgriweBの過去の記事「【 農業IT 】 ロボットのいる営農生活(3)」でも紹介している植物の光合成機能を評価するロボットです。この計測装置により植物の生育状況について、従来の目視による篤農家の観察と主観による判断によらず、データから客観的に植物の環境ストレスを検知することができます。既にトマト、パプリカはじめ、複数の品目および栽培施設に導入され活用されています。
一方、この計測装置は、画像情報の取得と解析方法を変えることで、葉や茎といった植物の日単位の生長の把握も可能です。これにより、葉の量から「葉かきなどの作業が適切におこなわれているか」といったことや、茎の生長点の高さより「つるおろしがしっかりと高さを揃えられているか」といった“作業の質”の可視化にも活用できます。“作業の質”とは、作業者の熟練度を表すもので、これを理解することにより、作業者の効率を高める教育を適切に行うことができます。“作業の質”に関する情報を、計測装置を使わずに作業管理者が把握することはかなりの負荷となります。また、ロボットによる自動計測と解析の精度を人間が目視と主観による判断で行うことは不可能です。「Chl蛍光画像計測装置」などのロボットは、作業管理者に代わり、施設内を見て回り、管理者が判断に必要なデータを適切に可視化します。これにより、管理者は状況の観察や考察による判断に追われることから解放され、実際にデータを活用した経営判断などに集中することができるようになります。



活用②_植物の光合成蒸散速度をリアルタイムにモニタリングする「光合成蒸散チャンバー」

植物の光合成蒸散速度をリアルタイムにモニタリングする「光合成蒸散チャンバー」は、内外の環境差を小さくできるオープンチャンバーで植物を覆い、CO2とH2Oの気体の収支差から光合成と蒸散速度などを実測します。植物は光合成によって得た光合成産物である炭水化物を葉、茎、花、果実などの器官に分配します。光合成量を把握することで、固定された炭水化物量を算出し、成長状況の把握ができます。植物栽培をする管理者にとっては最も重要なデータのひとつと言えるかもしれません。


活用③_作業者の熟練度向上を促す「作業管理ソリューション」

最後に紹介する技術の計測対象は植物ではなく、作業者の動きや作業品質を正確に捉え、作業品質を向上する仕組みです。この仕組みは、BLE(Bluetooth Low Energy)とネットワークカメラを使い作業者の動線と作業品質などを高い時間分解能および空間分解能でデータ化し、労務管理の効率化や熟練度の見える化を通じたスキルの底上げを図るシステムです。
 オランダの農業作業者は、個々の作業に特化したプロフェッショナルです。一方、日本国内の大規模栽培施設の作業者はパートタイムの労働者がほとんどであり、作業に従事している時間やワークスタイルが異なるため、オランダの作業者とはスキルやモチベーションが異なります。
 日本の大規模施設園芸の運営は、労務など人に関することが最大の外乱要因になっているため、労務の効率化が与える経営上の影響は非常に大きいものとなっています。
「ai tomato」では、熟練度が高い作業者の作業記録をそのまま動画マニュアルとして活用することでスキルの底上げを実現、また、作業者ごとに得意な作業種類や気温など外的環境に応じた作業状況を可視化することで、予想される環境に合せたシフト管理を実現します。



個々のシステムで得たデータ活用と、システム連携による更なる活用の未来

今回、我々が進めるプロジェクトに関する3つのデータ活用の取組を紹介しました。これらの取組は、単体でも栽培効率をあげるものであり、既に生産者の方々にサービスとして利用頂いているものもあります。
 生産者ごとに栽培管理上の課題や経営上のKPIが異なるため、「あるべき姿」は生産者ごとに異なっています。課題に合せた技術の選定と現場業務への落し込みができれば、限定された農業IT技術だけでも十分に生産性向上が実現できます。これらのシステムは、栽培環境における要素をデータ化するための計測手段、AI活用のためのデータフォーマットの整備と適した分析手法の選定、分析結果を活用するためのシナリオと活用方法、個々の視点で精査を続けています。
 農業におけるデータドリブン型の生産体系の構築は、「ai tomato」以外にも多くのプロジェクトが並走しています。将来的には、個々のプロジェクトやシステムが多様な接点で繋がり、データを連携することで、新たな活用法やシナジーが生み出せると考えています。
第1回、第2回と私たちの取り組みを紹介いたしました。次回は、データ活用先進国のオランダではどこまで進んでいるのか、オランダにおける施設栽培のデータ活用の最新動向をご紹介したいと思います。

永野 武史 (ながの たけし)
凸版印刷株式会社 情報コミュニケーション事業本部
ビジネスイノベーション推進本部 フード&アグリバリューチェーンイノベーション担当

北川 寛人 (きたがわ ひろと)
PLANT DATA株式会社 代表取締役CEO
東京大学農学部で学士は農機自動制御、修士は気候変動対応に従事。PwCで、ICTシステム導入。 オールアバウトで、Webメディア構築。ライブドアで、Webサービス構築。 2006年に独立し、JICA予算によるカンボジアでの農業可能性調査など農業やICT分野の事業構築に従事。 2013年、エムスクエア・ラボで事業統括。2014年、アグリホールディングス取締役。 2015年、PLANT DATAに参画し、植物生体情報を軸としたグローバルでの食糧生産のプラットフォームビジネスを志向。


当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されております。

カテゴリ

税務

労務

法務

経営

事業承継

6次産業化と地域活性

マーケティング

流通・販売

気象

生産管理と営農

国内外農業情報

農業イノベーション

顧客満足(CS)

法人化

ニュース