コラム・事例集

公開日時
2018/08/14 00:00:00

【 農業IT 】ITとロボティックスが凌駕する篤農家の農(5)「三大環境制御技術と設備のモジュール化の必要性」

この記事の執筆者
凸版印刷株式会社 永野 武史/PLANT DATA株式会社 代表取締役CEO 北川 寛人

農業におけるITとロボティックス活用の最前線

本コラムでは、農業におけるデータ活用の最新事例や今後の動向について紹介させていただいております。5回目となる今回も、ITやロボティクスの技術、またそれらを活用した施設栽培の事例として、精密農業の先端をいくオランダの現状をご紹介したいと思います。





補光、CO2施用、細霧発生装置の合理的な活用

ITやロボティクスを活用した太陽光による施設栽培においては、それらの活用と一方で三大環境制御技術とも呼ぶべき補光、CO2施用、細霧発生装置が大きな要素となります。その合理的な活用がオランダでは進んでいます。

冬季の日射量が少ないオランダでは、天井部に設置された高圧ナトリウムランプによる補光を行うのが一般的にひろがっています。上の図は、個々の葉の光合成速度と光強度の相関関係を表したものです。夜間や雨天・曇天日の補光は光合成促進に極めて有効で、個体群の光合成は個葉光合成の光飽和点以上の光が強い条件下でも光飽和しないため、補光による光合成増大効果はオランダと日本で同様に年間最大収量を増大させます。
 
 また、日本国内で普及しつつある灯油を燃料としたCO2発生装置が想定している施用能力が1時間あたり30~80kg・CO2/ha/であるのに対して、オランダでのCO2施用の主力はCombined Heat and Power(コジェネレーション)であり、補光のための電力供給に伴って生成されるCO2を施用し、その施用能力は200kg・CO2/ha/hに達し、前述の灯油を燃料とする装置を大きく上回っています。




環境制御技術を活用した収量増大

上図は、同一のトマト葉を対象として異なるCO2濃度条件で測定した光?光合成曲線です。光強度(PPFD)が500μmol/㎡/sを越える条件下においてCO2濃度を400ppmから800ppmに上昇させることで、光合成速度を50%以上促進することができ、年間最大収量を著しく増大させることが分かります。

 光強度が強い条件下においても、CO2施用効果は有効です。既に、日本国内でも一部の先端的太陽光の栽培施設においては、換気を行っている春季から夏季にかけても液化CO2ガスを用いたオランダをしのぐCO2施用(400~600・CO2/ha/h)が行われており、大幅な年間収穫量の増大を達成しているケースがあります。

細霧発生装置は、室内に配置されたノズルから粒径10~30μm程度の微小な水滴を空気中に噴霧し、これを空中で気化させることで気温を下げたり、湿度を上昇させたりする環境調節が可能な装置です。本装置は日本では普及しつつありますが、逆にオランダでは普及していません。細霧発生装置の使用は、主に乾燥ストレスの発生による気孔閉鎖とそれによる光合成速度の低下が目的で行われます。日蘭での細霧発生装置の普及状況の違いは、乾燥ストレスによる収穫量の期待値低減の大きさによるものです。しかしながら、近年のハードウェア(ハウス資材や環境制御装置)の高度化においては、例えばセミクローズド・グリーンハウスの空調設備には加湿装置が標準装備されており、高度な飽差制御による徹底した乾燥ストレス回避が広がりつつあります。


パッケージでのオートメーションの不備と設備のモジュール化の必要性

環境制御技術の活用の一方で、オランダの太陽光植物工場においてバラ栽培などを中心に、自動移動式栽培棚、自動搬送システム、自動選別・包装システムによる生産システム全体の自動化もおこなわれてきました。植物が定植されている栽培棚を移動させることで、作業者の移動時間を省き、作業通路を無くすことで実質的な栽培面積増大などのメリットがあり、これまで一定の成功を収めてきました。
しかしながら、導入後10年近くが経過し、故障やトラブルが頻発しています。多くの生産体でシステムの更新が検討されていますが、更新後の新たなシステムには従来の固定式栽培棚を用いた生産システムの採用の検討が少なくありません。大きな要因としては、移動式栽培棚を用いた生産システムは、植物、養液、機械が一体化した極めて複雑なシステムのため、メンテナンスコストが大きいこと。また、不具合が発生した際、それが一部であってもシステム全体を修復させる必要があり、その間の労働力の大幅なロスが挙げられるためです。
この10年で明らかになったパッケージで提供される自動生産システムのオランダでの経緯は、そのメンテナンス性やトラブル発生時にも全体を停止させない運用やシステムの冗長化やモジュール化の必要性を示唆しています。


人間の栽培管理では実現不可能な生産ポテンシャル

セミクローズド・グリーンハウスなど先端的な栽培設備のスペックを活用し、トマトの生物としての生産ポテンシャルを活かせるならば、その年間最大収量は平米あたり年間200kg以上とも言われていますが、実際の収量は平米70-80kgに留まっています。これは、太陽光植物工場の潜在能力の高さと人間の経験と勘に依存した環境制御の限界を示していると言えるでしょう。
ハードウェア自体の施用能力の向上や低コスト化も、その途上で、そうした先端的なハードウェアやソフトウェアを使いこなすノウハウの情報化や事業化については、日蘭共、ほぼ未踏と言えます。
今後、IoTセンサやロボティックスの高度化や低コスト化、AI(人口知能)やAPIエコノミーの普及などに伴い、活用対象とその活用ノウハウの情報化や社会実装が進むことが期待されます。


永野 武史 (ながの たけし)
凸版印刷株式会社 情報コミュニケーション事業本部
ビジネスイノベーション推進本部 フード&アグリ バリューチェーンイノベーション担当

北川 寛人 (きたがわ ひろと)
PLANT DATA株式会社 代表取締役CEO
東京大学農学部で学士は農機自動制御、修士は気候変動対応に従事。PwCで、ICTシステム導入。 オールアバウトで、Webメディア構築。ライブドアで、Webサービス構築。 2006年に独立し、JICA予算によるカンボジアでの農業可能性調査など農業やICT分野の事業構築に従事。 2013年、エムスクエア・ラボで事業統括。2014年、アグリホールディングス取締役。 2015年、PLANT DATAに参画し、植物生体情報を軸としたグローバルでの食糧生産のプラットフォームビジネスを志向。



当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されております。


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