コラム・事例集

公開日時
2018/11/09 00:00:00

【農業ICT・農業データ】食・農エコシステムに向けて①

この記事の執筆者
三重大学教授 亀岡孝治

はじめに

モノのインターネットのIoT(Internet of things)が整備され、日々産み出されるビッグデータをAIが処理するデジタル社会において、地域の生活を豊かにしてくれる「デジタル農業」と「フードシステム」の構築が求められています。一見地域のシステムに見えても、その利益は中央にさらわれるということも多い中で、この是正のためにも「食・農エコシステム」の確立は急務とも言えるのです。弱者のツールとしてICTをとらえ、地域がノードとなり農業起点で消費者まで「おいしい食」をつなぐ、農業が儲かり,消費者に地域の食が届く理想の「食・農エコシステム」を実現させたいものです。

精密農業からスマート農業へ

日本では「スマート農業(Smart Agriculture)」一色ですが、欧米では「精密農業(Precision Agriculture)」、「スマート農業」から「デジタル農業(Digital Agriculture)」さらに「フードエコシステム(Food ecosystem」という言葉も多く見かけるようになってきました。
精密農業という概念は欧米で生まれた概念ですが、EUの動きを見てみたいと思います。欧州の農業は、欧州連合(EU)レベルで決定した共通農業政策(CAP:Common Agricultural Policy)を各加盟国が実施するという仕組みで成り立っています。1962年当時はCAPの主目的は欧州の人々に十分な食糧を安定的に供給することに置かれていましたが、現在は気候変動緩和や自然資源の持続的利用に果たす農業の役割にも重点が置かれるようになってきました。欧州では,図に示すような変遷を経て2020年に向けた最新のプロジェクトIoF(Interenet of Food and Farm)2020に繋がっています。その流れを簡単に説明します。

次世代インターネット技術における欧州の競争力強化と、社会・公共分野のアプリケーション開発の支援を目的に、EUでは2011年から5年計画のFI-PPP(Future Internet Public-Private Partnership)プログラムが3億ユーロ(約390億円)の予算の下で実施され、農業分野でも2011年から2013年にかけてSmartAgriFood、2013年から2015年にかけてSmartAgriFoodとFINEST(物流プロジェクト)が一体となったFIspaceが実施されました。このFI-PPPの特徴は、データ管理、IoTデバイス管理、ビッグデータ分析機能などの基盤ソフトウェアの研究開発を行うFIWAREにあります。この基盤ソフトウェアはスマート農業プロジェクトなどでの実証を支えるとともに、オープンソースソフトウェアとして世界中で利用可能です。この流れの中で、精密農業は、ICT(Information and communication technology:情報通信技術)を核とし消費者起点のマーケットイン型のスマート農業にコンセプトが移行すると共に、FI-PPPは後継プログラムのHorizon 2020に引き継がれ、食・農業分野では2017年に開始されたIoF2020により欧州各地でスマート農業とフードシステムの実証実験が始まっています。

日本では世界に先駆けて1996年から2005年まで圃場での生育環境の計測やその結果生まれるビッグデータ(当時は増殖データと呼んでいた)の活用のための研究が二宮先生と平藤先生(この連載の1回と2回の担当)のリーダーシップの元で推進され、図に示すようにさまざまな要素技術が生まれました。この図の研究の後を受けて,現在戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の次世代農林水産業創造技術(アグリイノベーション創出)の研究開発が行われ、スマート農業の要素技術開発と実証実験が行われています。

精密農業とスマート農業の目的は農家が農業機械を用いて、あるいはスマートデバイスも援用して農作物の栽培管理を精密に行い、最大収量を確保することにあります。近年のIoT,AI(Artificial Intelligence:人工知能)、無人農業機械、ドローンなどに搭載される高度に進化したデジタル技術(光技術を含む)のおかげで、光センシングで農作物の様々なレベルの機能に関わる情報を得ることで人間が農作物と擬似的に会話することがある程度可能になってきています。図に現時点での光センシング技術を示しました。ドローンを用いれば、人間では不可能な広域圃場の栽培管理を適当な時間間隔で定期的に実施することが出来ます。また、収穫機に光センサなどを搭載することで、サイズ、色彩、糖度などの計測を行いながら収穫選別を行うことも可能になるわけです。

【農業ICT・農業データ】食・農エコシステムに向けて②に続きます。

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