コラム・事例集

公開日時
2018/05/02 00:00:00

【 産地・産品 】地域ブランドの新制度「地理的表示保護制度」をどう活用するか ②

この記事の執筆者
株式会社結アソシエイト 代表取締役 松田恭子

地域性と切り離されて発展してきた農産物ブランド戦略

前回の「地理的表示保護制度」コラムでは、この制度が「品質保証」の仕組みを持っていること、「特性と産地の結びつき」を重視していることを簡単に紹介した。今回は、産品のブランド戦略のなかでこの制度をどのように活用できるかを考察する。
地理的表示保護制度のポイントとなる「産地の特徴との結びつき」を聞かれても、答えに詰まってしまう場合は多い。これまでの農産物ブランド戦略が「地域ブランド戦略」といいながら、地域性を希薄化しながら発達してきたためだ。
1960年代前後より、戦後復興と都市への人口集中により増加した都市の食糧需要に対応するための大量生産大量出荷体制が作り上げられた。スーパーマーケットの棚にはだいこん、キャベツ、たまねぎ、トマト、ばれいしょ等の主要野菜が一年を通じて並び、消費者の利便性は大いに向上した。他方、地域性や季節性は希薄になり、「どの産地でも作っている」作物の価値を決めるのは、選別により均一化した品質や出荷の量・時期だった。野菜産地は、新品種を導入し作型を変えることで、自然環境に適応して作物を作りこなし、卸売市場に評価を受けながら高単価、有利販売を追求した。
その後、食の外部化や簡便化の需要を背景として発達した外食・中食産業の加工業務用需要に対応した産地の形成が始まった。加工業務用産地では企業との契約のもと、加工調理に適した品種を導入し、栽培・出荷行程の生産性を高めることにより安定した収益を追求した。
1990年代半ばから始まった産地直売においても、「顔の見える」作り手のこだわりや栽培方法が新たな付加価値を生む源泉であり、地域性が前面に出ているわけではない。それでは、地域性を追求することは戦略上どのようなメリットがあるのだろうか?

地域性は、新たな価値を生む強いストーリーの源泉となり得る

産地直売が盛んになった1990年代から30年経ち、最も劇的に変化したのは情報インフラの発達だ。1991年に最初のウェブページが誕生し、1999年には携帯電話向けインターネットサービスが開始、2004年にはソーシャルネットワークが誕生すると、生産者個人でも気軽に情報を発信し、口コミで集客ができるようになった。他方、単に情報発信するだけでは情報の波に埋もれてしまう。モノだけでなく情報も溢れる世の中では、高機能や新奇性をうたってもあっと言う間に均一化・陳腐化する。商品だけでなく、サービスや商売の仕方も同じで、「顔の見える」産直だけは持続的な利益をもたらすことはできない。価値を提供するために新たな戦略性を持ってブランドをつくる必要が出てきた。
新たな戦略性とは、地域ならではの強いストーリーを作り、消費者の共感を追求することだ。同じモノであってもこの地域が良い理由を明示的に整理することで、強い発信力をもってグローバル市場に対応していけるのだ。地理的表示制度は、そのストーリーを整理する上での優れた道具になる。

結びつきと基準の考え方

農林水産省のウェブページで公表されている地理的表示保護制度の審査要領(http://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/process/pdf/doc10.pdf)では、生産地・生産の方法と特性との結び付きがある場合として、3つのタイプを例示している。
一つ目は、生産地の地形、土壌、気候、降水量、緯度等の自然条件により他地域に比べ差別化された特性が得られるタイプ(自然条件タイプ)である。二つ目は、生産地に伝統的に伝わる製法により他地域と比べて特性が際立つタイプ(伝統製法タイプ)である。このタイプの例示として、伝統的な発酵方法や漁港における伝統的な魚の処理方法が挙げられている。三つ目は、生産方法の産地での独自の組合せにより他地域の産品と差別化が図られるタイプ(生産方法組合せタイプ)である。生産方法組合せタイプの例示としては、品種・栽培方法・選別基準の組合せが品質や社会的評価に影響を与えている例が挙げられている。地域で生産している産品は、自然条件タイプ、伝統製法タイプ、生産方法組合せタイプのいずれに当てはまるだろうか?
ここで留意すべきなのは、地理的表示保護制度が品質を保証する仕組みを持つことだ。産地の特性と結びつく特徴的な生産方法については、生産者団体が基準を設けて管理すべき対象となる。例えば、砂地の土壌だからこそ産品の際立った品質が生まれると定義づけて産品を地理的表示保護制度に登録した場合、「砂地の土壌で栽培すること」は産地が守るべき基準となり、生産者団体はこれが守られているかを管理しなければならない。このように考えると、自然条件タイプで結びつけを考える産地は限られているかもしれない。また、伝統製法タイプについても、産地の各生産者が異なる製法でオリジナルブランドを作り競争している場合は共通の基準に統一することが難しい場合がある。恐らく、生産方法組合せタイプのなかで品種、生産方法、選別のどこに重点を置くかを整理することが多くなると推察される。品質を保証する対象として何に根拠を置くのか、その基準をどうするのか。産地の戦略と連動してこの結びつきを整理できれば、地理的表示保護制度は十分メリットを発揮できる。

注)本コラムは農水産物のブランド戦略から制度を考察するもので支援窓口(GIサポートデスク)の公式見解ではありません。







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