コラム・事例集

公開日時
2016/04/26 00:00:00

【 農業・社会保険 】法人化と労務管理

この記事の執筆者
キリン社会保険労務士事務所 入来院 重宏

 

S県の個人農家のUさん(67歳)のケースです。麦を中心に米、施設野菜を栽培しており、租収入は約5500万円、経営費を差し引いた所得は約1300万円です。
農業に従事しているのは、Uさんと常時雇用の労働者4名(正社員(男性・35歳)1名、パートタイマー3名(全員女性(30代と40代))で、Uさんの家族は現在農作業に従事していません。農繁期(1か月程度)にはアルバイトを4~5名雇用しています。
Uさんは、現在法人化(株式会社化)に向けて準備中です。Uさんの相談内容は以下のとおりです。
質問)
保険については、正社員とパートタイマーのうち労働時間の長い1名に民間の傷害保険を加入させている(保険料は全額経営者負担)。労働・社会保険には加入していない。正社員の給与額は、月額30万円程度を考えている。
法人化し、労働・社会保険に加入した場合の保険料の負担額はどうなりますか。また、正社員の加入は当然のことと理解しているが、3名のパートの扱いはどうなりますか。

回答)
1.法人化と労働・社会保険の加入
Uさんが法人化した場合に加入しなければならない労働・社会保険は、労災保険、雇用保険、健康保険、厚生年金の4種類の公的保険です。正社員とパートタイマー等に分けて説明します。
(1) 正社員の労働・社会保険
労働保険と社会保険の保険料の負担は、次のようになります。
・労災保険は、保険料の全額を事業主が負担
・雇用保険・健康保険(介護保険)・厚生年金保険は、労使で負担
事業主の保険料の負担は、月額給与額の16%強です。

● 保険料の計算例

月額給与が30万円(標準報酬月額30万円)の従業員(介護保険料の負担なし)の労働保険と社会保険の保険料は下のようになります。(健康保険料率は全国平均で計算)
なお、厚生年金の適用事業所は、児童手当法によって、事業所に児童手当を受ける者がいる、いないに係らず、事業主は児童手当の拠出金を納付します。これは、全額事業主負担で、拠出金額は、厚生年金保険の被保険者の標準報酬月額の総計に拠出金率1.5/1,000をかけた額です。

(2) パートタイマーとアルバイトの労働・社会保険
・労災保険は、すべての労働者が対象となります。
・雇用保険は、次のいずれにも該当する者は被保険者となります。
① 1週間の所定労働時間が20時間以上
② 反復継続して就労する者(31日以上継続して雇用されることが見込まれる者)
・健康保険と厚生年金保険は、1日または1週間の労働時間及び1か月の労働日数が、同業の業務に従事する通常の従業員の概ね4分の3以上ある場合は、被保険者となります。Uさんの場合は、労働時間が週30時間以上でかつ週4日以上勤務されるパートタイマーは加入手続きが必要となるとお考えください。
なお、農繁期のみのアルバイトは、健康保険と厚生年金保険の被保険者になりません。

2. 定期健康診断・・・正社員には定期健康診断は必須
ところで、労働安全衛生法は、労働者を使用する事業者に対して定期健康診断の実施を義務付けています。これは従業員の数や経営の規模等を問いません。個人経営であっても例外ではなく、Uさんも正社員に原則年1回の定期健康診断の実施義務を負っています。
パートタイマーも労働条件によっては、健康診断を受けさせる義務が生じます。具体的には、①1年以上雇用されており、かつ②1週間の所定労働時間が30時間以上の方については、受診させる義務があると思ってください。
定期健康診断の費用については、当然、事業主が負担します。受診にかかる費用は、労働安全衛生法が定める定期健康診断の内容を受ける場合は概ね1万円前後です。健康保険に加入している場合には、保険者(協会けんぽ、健康保険組合)が健康診断の費用の一部を補助する制度もあります。

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