基礎知識

第3章 家族経営や数戸共同組織の法人化

(1)家族経営の法人形態は株式会社が基本

 株式会社や合同会社には、事業の制限がないのが大きなメリットです。これに対して、農事組合法人の場合、実施できる事業は、農業及び農業関連事業に限られます。このため、農事組合法人の場合、本来、農作業以外の作業を請け負うことができないなど、事業の発展に制約があります。また、畜産経営については、農事組合法人としても法人事業税が非課税とはなりませんので、農事組合法人にするメリットはありません。

 株式会社や合同会社は出資者が1人でも設立できますが、農事組合法人の場合、出資者が3人以上必要となります。家族経営であっても家族従事者が3人以上いれば、3人以上の家族従事者が出資者となって農事組合法人を設立することができます。農事組合法人には「特殊支配同族会社の役員給与の損金不算入」が適用されなかったため、かつては農事組合法人を選択することもありましたが、この制度が廃止されたため、家族経営で農事組合法人を選択するメリットはほとんどなくなりました。

 数戸共同で法人化する場合には、農事組合法人はお勧めできません。なぜなら、農事組合法人の一人一票制が迅速な意思決定を妨げることが多いからです。また、数戸共同の場合、設立当初は経営目的などについて共通認識ができており、参加意識も高いが、数年もすると構成員の間で協業経営に対する温度差が生まれてくることがあります。このとき経営者が新しい事業展開などをしようとしても、組合の意思決定としては保守的な判断になりがちです。さらに、資本充実のため、経営者が増資を引き受けようとしても、一人一票制のもとでは増資しても経営のイニシアティブを取ることは難しいのが現実です。これに対して、家族経営を法人化する場合、経営者が誰であるかは明確になっており、農事組合法人にしたからといって意思決定が問題になることはないでしょう。

 農事組合法人として設立した場合であっても、株式会社に組織変更することができ、組織変更に伴って法人税がかかることはありません。一方、株式会社は農事組合法人に組織変更することができないため、どうしても農事組合法人にしたい場合には、新規に農事組合法人を設立する必要があります。この場合、旧経営体である株式会社は休眠させるか解散することになりますが、解散した場合には清算所得に課税されて法人税の負担が生ずることがあります。

表5.法人形態の違いによる制度の違い

農事組合法人

根拠法 農業協同組合法
事業 ①農業に係る共同利用施設の設置・農作業の共同化に関する事業,②農業経営,③付帯事業
構成員 資格 ①農民,②農協・農協連合会,③現物出資する農地保有合理化法人,④物資供給・役務提供を受ける個人,⑤新技術の提供に係る契約等を締結する者
3人以上
構成員である従事者への分配
  • 1 給与(確定給与)
  • 2 従事分量配当
    のいずれかを年度ごとに選択可
意思決定 1人1票制による総会の議決
役員の人数
  • ①理事1人以上(必置・組合員のみ)
  • ②監事(任意・組合員外も可)
役員の任期 3年以内
雇用労働力 組合員(同一世帯の家族を含む)外の常時従事者が常時従事者総数の2/3以下
資本金 制限なし
決算広告義務 なし
法人税 税率
  • 1 構成員に給与を支給しない法人(協同組合等に該当)
     年所得800万円以下 15%
     年所得800万円超  19%
  • 2 上記以外(普通法人に該当)→右と同じ
その他 同族会社の留保金課税の適用なし(会社でないため)
事業税 農地所有適格法人が行う農業(畜産業,原則として農作業受託(注)を除く)は非課税特別法人年400万円超4.6%
上記以外の普通法人は右記に同じ注.一定の場合は非課税
設立時の登録免許税 非課税
定款認証 不要
組織変更 株式会社に変更可
合同会社への直接変更は不可

合同会社

根拠法 会社法
事業 事業一般
構成員 資格 制限なし(農地所有適格法人の場合は,農地法により,農業関係者(常時従事者,農地提供者等)以外の議決権を2分の1未満に制限)
1人以上(上限なし)
構成員である従事者への分配 給与のみ
意思決定 1人1票制による多数決
役員の人数 業務執行社員(原則,社員が業務執行)
役員の任期 制限なし
雇用労働力 制限なし
資本金 制限なし
決算広告義務 なし
法人税 税率 資本金一億円超の法人      23.4%
資本金一億円以下の法人
 年所得800万円以下      15%
 年所得800万円超       23.4%
その他 同族会社の留保金課税の適用あり(平成19年度税制改正で中小企業を対象から除外)
事業税 資本金一億円超の法人   外形標準課税
資本金一億円以下の法人
 年所得400万円以下       3.4%
 年所得400万円超800万円以下  5.1%
 年所得800万円超        6.7%
+地方法人特別税 事業税×81%(外形標準課税所得割148%)
設立時の登録免許税 資本金の7/1,000(最低6万円)
定款認証 不要
組織変更 株式会社に変更可
農事組合法人への変更は不可

株式会社(非公開会社)※

根拠法 会社法
事業 事業一般
構成員 資格 制限なし(農地所有適格法人の場合は,農地法により,農業関係者(常時従事者,農地提供者等)以外の議決権を2分の1未満に制限)
1人以上(上限なし)
構成員である従事者への分配 給与のみ
意思決定 1株1票制による株主総会の議決
役員の人数 ①取締役1人以上(必置・株主外も可)②監査役(任意・株主外も可)
役員の任期 原則:取締役2年・監査役4年,10年まで延長可(特例有限会社は制限なし)
雇用労働力 制限なし
資本金 制限なし
決算広告義務 義務あり(特例有限会社はなし)
法人税 税率 資本金一億円超の法人      23.4%
資本金一億円以下の法人
 年所得800万円以下      15%
 年所得800万円超       23.4%
その他 同族会社の留保金課税の適用あり(平成19年度税制改正で中小企業を対象から除外)
事業税 資本金一億円超の法人   外形標準課税
資本金一億円以下の法人
 年所得400万円以下       3.4%
 年所得400万円超800万円以下  5.1%
 年所得800万円超        6.7%
+地方法人特別税 事業税×81%(外形標準課税所得割148%)
設立時の登録免許税 資本金の7/1,000(最低15万円)
定款認証 要(5万円程度)
組織変更 合同会社に変更可
農事組合法人への変更は不可
※特例有限会社を含む。

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