- 農業ビジネスに潜む損害賠償リスクについて、大場弁護士が事例を交えて解説します。
ため池・水路等の農業水利施設の管理責任
ダム、用水路、ため池などの農業水利施設は、国、県又は市町村などが管理しているものや、地域の土地改良区が管理しているものの他、末端用水路など、地元農家の任意団体や農家個人が管理しているものがあります。
これら農業水利施設を巡っては、転落事故等の人身事故が少なからず発生しています。どういう場合に誰が責任を負うことになるのかについて、かいつまんで説明します。
どういう場合に責任が生じるか
民法では、「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵」がある場合、これにより生じた他人の損害について賠償責任を負うこととされています(民法717条)。「瑕疵」があるというのは、簡単に言うと、本来備えているべき安全性を欠いていることをいいます。
よく問題になるのが、ため池にフェンスを設けていなければ安全性を欠くことになるのかということです。例えば、「よそのため池でもフェンスで囲っていないところがたくさんある」から「うちのため池もフェンスで囲っていなくても問題ない」と考える人も多いかと思いますが、必ずしも裁判では通じません。
回りに人通りが多いか、子どもの遊び場になっていないか、(足を滑らせやすいなど)転落しやすい形状になっていないか、過去に転落事故が起きたことはないか、安全策を講じることが容易であるかなどの諸事情を勘案して、そのため池が必要な安全性を有しているかどうかについて、個別具体的な判断がなされます。
誰が責任を負うか
民法では、まずは当該設備の占有者(≒管理者)が責任を負います。また、当該設備の所有者が責任を負う場合もあります。
ため池などの水利施設の管理形態には様々な態様があるため、一概には言えませんが、過去の裁判例では、土地改良区が責任主体とされているケースが多いようです。但し、末端用水路等、管理形態によっては、土地改良区ではなく、地元の水利組合や農家個人が責任主体になる可能性もあります。
土地改良区が賠償責任を負った場合、賠償金はどこからねん出されるのか
土地改良区が賠償保険に加入していれば保険金で賄うことができるでしょう。但し、過去の実例を見ても、賠償保険に加入していない土地改良区に賠償責任が認められた事例も見受けられます。
この場合、当該土地改良区に事故に備えた積立金があればそこから賠償金を賄うこともあります。しかし、このような積立金がないケースでは、土地改良区の役員や地区内の農地所有者が賠償金を負担したという事例もあるようです。
なお、土地改良区ではなく地元の水利組合や農家個人が責任主体になった場合、一農家の負担割合はさらに大きくなるでしょう。
以上のように、土地改良区が管理しているから自分に負担はないと思っていても、意外なところで負担が回ってくる可能性もありますので、ご注意ください。
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