- 新連載『農×エネルギー活用による未来志向の地域デザイン』。第1回目の今回は、営農型太陽光発電など、農地における創エネの現状と今後の課題について、解説します。
(はじめに)グリーンエネルギーファーム構想
グリーンエネルギーファーム構想とは、農業に技術とエネルギーを融合させ、農業の情報産業化だけでなく、環境負荷低減と収益性向上を図り、地域社会の活性化につなげるという構想です。
これを実現するため、株式会社NTTデータ経営研究所と京都大学農学研究科を事務局とし、幅広い分野の様々な法人が集い、2017年にグリーンエネルギーファーム産学共創パートナーシップ(GEFP)が設立されました。
本シリーズでは、世界規模の環境変化・環境問題が顕在化し、「持続可能性」「サステイナビリティ」が叫ばれるなか、地域・農業、そして経営者に期待される役割について、NTTデータ経営研究所をはじめ、GEFPに関わりのある多岐に渡る分野の専門家が解説します。
農地における創エネの意義
農地の生産性
農業の生産性を考える場合、農地当たりの生産性、労働時間あたりの生産性、投資額当たりの生産性など、様々な指標が考えられますが、今回は農地に注目した生産性を見てみたいと思います。
米、麦、野菜、果実、花きなど、耕種による農業総産出額は平成29年に約6兆円となっています。一方で、耕地の作付面積は平成29年に407.4万haであり、これらから作付面積あたりの農業総産出額を算出すると、1haで146万円の農作物を産出している計算になります。
また、概算としての試算となりますが、農業総産出額における生産農業所得の割合をかけあわせて作付面積あたりの農業所得を計算すると、1haあたりの農業所得は約59万円であることが分かります。
荒廃農地における発電ポテンシャル
一方、耕作放棄地の中でも作物の栽培が不可能なほど荒れている荒廃農地は、約28万haで推移しています。再生利用困難などほど荒れてしまう土地は年々拡大しており、平成29年には約19万ha(大阪府の面積と同等)となっている状況です。
日照時間等の気象条件、日当たり、電力系統との接続可能性などの立地環境によって、変動はありますが、この土地を有効活用して再生可能エネルギーを発電することができれば、農家の収入向上につながる他、温室効果ガスの削減にも大きな貢献ができるのではないかと考えられます。
例えば、千葉県のある農地で導入されている「営農型発電(農地への遮光率33%)」の例を見ると、0.1haで発電出力49.5kW、発電電力量5万3千kWh/年となっています。
この割合で再生利用困難な農地全面に営農型発電を導入すると、1千億kWhの発電量となり、日本で発電されている電力の約10%に相当するのです。また、すべて14円/kWhで売電できたとすると1.4兆円の売電収入が得られると想定されます。
イニシャルコスト、環境アセスメントの手続きや電力系統への接続の問題、不在地主等様々な課題はありますが、荒廃農地だけでこれだけの発電ポテンシャルがあることは、農村地域における所得向上や、地域運営組織の自立化、エネルギーを活用した新たな産業創出などの大きな可能性を持つと考えられます。
営農型発電の今後の方向性
営農型発電の主であるソーラーシェアリングは、農業を継続する農地の上に太陽光パネルを設置する形で発電をします。
畑の上部に隙間を開けてパネルを設置するタイプと、ビニールハウスや畑の上に透過型のパネルを設置するタイプがあります。
発電設備の設置に当たっては、支柱の基礎部分についての一時転用について、農業委員会や都道府県知事による許可が必要です。また、毎年、農業委員会への報告も必要となります。導入方法の詳細や取り組み事例は、農林水産省のWEBサイトに多くの情報が出ているので、ご参照ください。(農林水産省再生可能エネルギーの導入促進)
FIT制度による買取価格が高かった時に注目されましたが、現在は買取価格が下落してきていること、電力系統への接続に関する障壁も生じていることなどから、自家消費、あるいは地域での消費などの地産地消のエネルギー利用の可能性も検討していくことが必要です。
農山漁村再生可能エネルギー法により、市町村が設置する協議会において、地域住民や農業関係者、設備整備者が合意形成を行ったうえで市町村基本計画を作成、市設備整備計画を作成すれば、農地法・森林法等の手続きのワンストップ化や、市町村による所有権移転等促進事業の実施等のメリットが得られることになっています。
しかし、基本計画作成市町村数は61市町村(2019年3月末時点)にとどまっています。農林水産省では、2023年度に再エネを活用し農林漁業の発展を図る取組実施地区の再生可能エネルギー電気・熱に係る収入等の経済的な規模600億円と、2016年度の3倍以上にしていくことを目標にしており、発電の拡大、エネルギーの地産地消による農業生産の効率化、エネルギーを活用した地域活性化などが期待されます。
営農型発電の今後の方向性
農業×エネルギーを活用した地域デザインイメージ
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※株式会社NTTデータ経営研究所では、京都大学との連携協定の下で、グリーンエネルギーファーム産学共創パートナーシップ(GEFP)を実施しています。様々な大学や、スマート農業、エネルギー、農業者、IT企業が垣根を越えて、新しい技術開発や地域づくり・地域デザインに取り組む活動を行っています。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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