新たな農業経営戦略の「しくみづくり」
〜若者と熟練農業者とのコラボ〜
北海道美幌高等学校校長 鎌田一宏
先生からのエール
「知的好奇心で経営をアップさせる」
1.はじめに
農業を学ぶ高校と北海道農業
豊かな自然と広大な土地を活かした北海道の農業においても、担い手の高齢化や農村人口の減少などが大きな課題となっています。北海道の農業を持続的に発展させるためにも、農業教育と連動させ、意欲的で経営感覚に優れた多様な担い手の育成・確保することが急務と考えます。
北海道美幌高等学校
本校は、昭和14年に北海道庁美幌農林学校(農科、林科)として開校しました。この間幾度かの変遷をたどり、現在は学年4クラス(普通科2クラス、農業科2クラス)の学校となっています。
農業科の「生産環境科学科」は、畜産、畑作・野菜など飼育と栽培などを学びます。もう一つの「地域資源応用科」は、農産加工、乳加工、肉加工を主とした食品加工などを学びます。また、道内外からの遠方の生徒を受け入れるため、遠隔寮(定員30名)を設置しています。
学習内容の特徴は、トマトのASIAGAP認証、農業の六次産業化(自校による生産、加工、販売・流通)の学習体系、地域自然を守る環境教育の推進(第7回イオンエコワングランプリ内閣総理大臣賞)、多種多様な資格取得を目指すなど、幅広い学習内容とスマート農業を取り入れた学習内容で将来の農業経営者の育成などを目指しています。
2.何をつくり、どこに売るのか!
農業と各省庁、食文化
学校で学ぶ農業教育は、文部科学省をはじめ、農林水産省、厚生労働省、経済産業省、環境省などの省庁が密接に関係しています。そのため、農業の「社会的な意義と役割」について広く捉え、深く学ぶことが重要です。
魅力ある農業を推進するために、国の動向を注視しながら、今、社会が農業に期待していることに敏感になる必要があります。つまり、よりよい農業経営を実現するには、社会や時代の変化に対応することが重要といえます。
変化に対応した経営戦略を立てるにあたり、最も重要な視点は「何を作るのか」ということです。なぜなら、現代は、作れば何でも売れる時代ではないからです。
生産物の安全・安心をはじめ、品種の特性、栄養価など、豊富な情報を参考にしながら購入する消費者が増えてきています。また、例えば「旅行や移住で日本を訪れる海外の方々が増加傾向にある」という情報も、「何を作るのか」という戦略に活かしていくことが経営者には求められます。
もう一つの重要な視点は、世界のマーケットを視野に入れ、日本食や海外での食文化を踏まえた経営戦略を立てることです。
そのためには、どの国でどんなものが、どのように料理され、食卓に上がり、食べられているのかをしっかり知る必要があります。そのうえで、各国の食文化に合う生産物を、いつ、どこで、どのような方法で生産し、どういう経路で販売するかという流通の戦略を構築することが重要になります。
2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。それを「新たなビジネスチャンス」と捉え、国際市場に対応できる規格や認証制度などを整備しながら、マーケットを開拓していくことが期待されています。
3.視点を変える
活躍が期待される農業女子の視点
農業の持続的な発展に向けて、女性農業者も活躍できる環境が整備されるなか、新たな商品開発などを行う農水省の「農業女子プロジェクト」があります。
近年、農業科に入学する女子生徒が増えてきています。女性の視点を取り入れることにより、とくに「衣・食・住」に関係する領域で、農業経営に大きな環境変化や、新たな付加価値を生むことがあります。
つまり、農業女子ならではの視点によって、環境整備や改善による魅力的な職場づくりが実現し、美容と食、ファッションのように、これまでにない切り口で、新たな商品・サービスのアイディアが生まれるなど、農業女子のさらなる活躍に期待が寄せられています。
4 若者と熟練の農業職人
若者の先端技術
AI、IoT、ロボット、ドローンなどの先端技術とこれまでの農業技術を融合させたスマート農業が近年注目されています。科学的に分析したデータの活用により、労働時間の削減や栽培・飼育管理の自動化・省力化などが期待されています。
情報処理分野など農業以外の分野で高度な知識と技術力を備えた若者が、技術者として農業に従事することが増えれば、スマート農業はさらに進展するものと想定されます。そのためには、ITに強みを持つ現代の若者が一人でも多く、農業を理解し、興味を持てるよう社会全体で裾野を広げる手立てを講じることが必要と考えます。
今、消費者は「産地」、「鮮度」、「旬」などにこだわりながら生産物を買い求めています。そのようなニーズにあわせて、例えば、ブロッコリーなど鮮度維持の要求が高い野菜向けの特殊フイルムの開発、一度も人の手が入らずイチゴを収穫するロボットなど、次々と開発が進んでいます。
経験豊富な農業者の「これがあると便利」という要望に応えた開発を若者が行い、協働して先端技術を経営に活かすことが必要になってきます。
熟練農業者の匠の技
農業は、自然を相手にした産業であり、少し過言になりますが、似た物を作ることはできますが、同じ物を作ることはできないと日々思っています。農業は科学的に説明しづらい部分があります。
例えば、熟練農業者がメロンの幼果を見て、「このメロンは、将来、形、ネット、味、香りなどバランスの取れた商品になる」と話すような科学的根拠に基づいて上手く説明できない場面があります。熟練農業者は、総合的に見て、これまでの経験値から判断できることが多いのです。
気象条件、作物の勢い、肥培管理、品種の特性など複雑多岐な条件を体感で覚えていることが「匠の技」であり、その地域のブランドを維持しているのは熟練農業者です。今、この技術の伝承と発展が課題となっています。
農業の新たな雇用創出に向けて、内閣府「人生100年時代の人材と働き方」の動きを踏まえ、100歳でも主役になれる農業者の育成を目指すとともに、熟練農業者の五感で得た技術・技能と先端技術を駆使できる若き農業者との深い対話のなかから、これまでにない新たな農業経営システムが開発され、世界をリードする担い手が育っていくことを期待しています。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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