今回は、いわゆるスマート農業と言われる新しい技術を取り入れた栽培方法/収穫方法等(以下単に「生産方法」といいます)について、外部のメーカーやAIベンチャーなどと共同で開発していく場合の留意点について説明していきます。
生産者の方の中には、従来の生産方法に縛られず、AI、IoT、ロボット、ドローン等の最新技術を取り入れた新しい生産方法の開発に取り組みたいと考える方も少なからずおられるのではないでしょうか(例えば、画像センサーとAIを用いた○○の自動収穫ロボットなど)。
そして、そのような開発を進めるためには、生産者の方の独自のノウハウだけで行うことは難しく、外部のメーカーやベンチャー企業などと共同で開発に取り組むことが必要です。
そのような共同開発の場面においては、一般的な売買契約などとは異なる様々なリスクが潜んでいます。
1 秘密保持
生産者がメーカーやベンチャー企業等が持つ最新技術を求めているとともに、それら企業は生産者が持つ独自の生産方法等のノウハウ、アイデア、データ等を求めています。生産者が持つ独自の生産方法のノウハウ等は、それ自体、貴重な価値を有する財産であるといえます。
共同開発は、当事者双方がもつそれぞれのノウハウ等を提供し合いながら進めていくものですので、お互いが相手方のノウハウ等の秘密を守らなくてはなりません。
従って、実務上、共同開発に取り組むに際しては「秘密保持契約」という契約を締結します。但し、ここで気を付けて頂きたいのは、企業が持つ秘密を守らなければならない生産者の義務のみが定められており、生産者が持つノウハウや秘密を守らなければならない企業側の義務が定められていない場合があることです。
生産者が持つ独自の生産方法のノウハウ等はそれ自体が価値を有するものですので、相手方の企業にもこれを守らせる義務を負わせられるよう交渉することを忘れないでください。
2 役割分担とリスク分担
共同開発においては、当事者相互の具体的な役割を定めなければなりません。実際の共同開発契約書においても、通常、具体的な役割が定められます。
生産者としては、「企業に開発を任せたのだから自分は何もしなくてよい」と考えてはいけません。共同開発である以上、当事者相互が協力して開発を進めていかなければいけません。後日、開発が頓挫した場合に、生産者が必要な協力をしなかったから開発ができなかったとして損害賠償請求されるリスクもあります。
また、契約には、通常、相互が負担する費用やリスクの範囲(開発中に生じた事故に関する損害賠償責任など)についても規定されることがあります。生産者としては、契約上、どのようなリスク、責任を負うことになるのかしっかりと理解しておかなければなりません。
3 成果物の権利帰属
無事に開発が成功し、生産者が期待した通りの成果物(例えば、画像センサーとAIを用いた○○の自動収穫ロボット)が完成したとします。
では、このロボットは、誰が使うことができるでしょうか。共同開発の当事者である生産者が使えることは当然でしょう。では、共同開発に携わった企業はこのロボットを自由に他の生産者に対しても販売することができるのでしょうか。その販売利益は共同開発に携わった生産者には分配されないのでしょうか。
このように、開発された成果物を巡る権利関係をどのようにするかということは、共同開発契約を結ぶ上で一番の重要ポイントです。
これは企業にとっても非常に重要な点ですので、生産者ばかりが有利な条件にすることはできませんが、開発費用の負担等との兼ね合いも含め、誰がどのような権利をもつかということは十分に確認しておかなければなりません。
そして、契約で条件を定めた以上、相手方の権利を侵害してはいけません。「自分が開発したのだから自由に使っていい」と思っていると、共同開発者から損害賠償請求されるというリスクもあります。
なお、このような権利関係に関する定めは、無事に開発が成功した場合のみならず、途中までは出来たが完成に至らなかったという場合にも生じます。途中まで出来た物にも価値がありますので、その権利関係を定めておかないと、後日、紛争になることもあります。
4 生産者のデータで賢くなったAI
皆さんもご存じの通り、AIはたくさんのデータ(いわゆるビッグデータ)を読み込めば読み込むほど、その精度が上がり価値が増加します。
栽培や収穫の状況、植物の育成状況などのデータは生産者が提供することになりますが、このようなデータによって価値が増加したAIについて、生産者は経済的権利を主張できるでしょうか。
ここは難しい議論があるところですが、結局は、契約で定めることになります。
AI技術の発達した現代では、生産者が持つ多くのデータ(特に、独自の生産方法を行っている場合等)も貴重な財産になりますので、このようなデータを活用した共同開発契約を結ぶ際には、その価値を見極めておくことも必要だと思います。
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