前回までのコラムでは、営農型太陽光発電に関しての科学的根拠について解説しました。今回は、営農型太陽光発電に関して制度的な課題と今後の展望について紹介します。
営農型太陽光発電の課題
ソーラーシェアリングによって作物栽培と発電が両立できるとの科学的根拠が弱いことは前回のコラムで書きました。つまり、作物は強い光が当たっていても、光が葉を透過したり、あるいは、葉の表面で複雑に反射して、作物の全体の隅々まで行き渡り、利用されるので、ソーラシェアリングで誤解されているような明確な光飽和現象は必ずしも起こりません。
また、作物ごとに光応答が異なるので、個別に科学的な検証が必要になります。作物は光が弱いと病気が出やすいので、そのような検証も必要でしょう。
ソーラーシェアリングの安全性に関しては、十分に考慮する必要があります。
田畑は軟弱土壌なので、ソーラーシェアリングを支える支柱の固定が不十分だと強風時には倒れる可能性があります。また、大容量の電気が流れている中で農作業をするので、漏電などの安全対策も必要になります。一般のメガソーラ発電施設が安全面も考慮しているように、ソーラーシェアリングも同様の対策が必要でしょう。
一方、営農よりも発電所にした方が農家の収益が大きく向上することになり、健全な農業が行われていない事例が認められます。
筆者が確認した例では、ある大規模ソーラシェアリングで、建前とは裏腹に、作物が雑草の間に埋もれていました。この場合、ソーラシェアリングでの高収益が営農意欲を削いでいるとしか思えません。
このような本末転倒が起こっている原因は、農業における再生可能エネルギー導入について十分な検証や議論が不十分なままにソーラシェアリングが広がったことにあると思います。
農地は太陽光発電のポテンシャルが高く、営農型太陽光発電は農業に再生可能エネルギーを導入するという重要な役割を担っているので、健全な形での継続が望まれます。
営農型太陽光発電での売電
太陽光発電の固定価格買取制度は、その時点での太陽光発電設備の導入コストを勘案して、売電価格が決められ、年度毎に価格が見直されています。
設備投資を促すために、申請時点での売電価格が20年間は法律で保証されています。
2012年度に制度が始まった時は、買取価格(事業用)が海外に比べてかなり割高の1キロワット時当たり40円に設定されたために、多くの発電事業者が参入しました。営農型太陽光発電の場合、土地取得のコストが掛からないうえに、通常のソーラー設備に比べて架台設置コストが安いこともあり、設備投資ができる余裕がある農業者にはメリットがありました。
2020年度の売電価格は50~250キロワット未満の場合は同12円にまで下がっています。
10〜50キロワット未満の場合は、これまでのような全量売電は適用されず、自家消費を前提として、余剰売電に限れば同13円で売電できます。
ただし、50キロワット未満が多い営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)では、特例として、自家消費を伴わない案件であっても、災害時の活用が可能であれば、地域活用要件を満たすとして、全量売電が認められています。
固定価格買取制度は、初期投資が難しい再生可能エネルギーの導入を国民負担によって後押しする制度であり、いずれは終わることを前提に設計されています。制度の終了後は、営農型太陽光発電を農業にどのように位置付けるかが大切でしょう。
本稿は、私が書いた総説論⽂「脱炭素社会のための持続可能な農業– 作物⽣産と再⽣可能エネルギー⽣産の両⽴ –」⽣存圏研究 第15号p.44-52 2019年をベースにしたものです。参考⽂献などの詳細は、この総説をご覧ください。
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