一般社団法人 全国農業会議所
新規就農相談センター所長
山村 勝廣
本連載においては、新規就農にあたり必要なステップや、農業の働き方等について、新規就農の具体的な事例も交えて、紹介していきます。
本連載を通じて、「農業はどうやったら始められるんだろう?」「就農後はどういう生活になるんだろう?」といった疑問や不安にお答えし、より多くの方が「農業やってみようかな?」と思い立ち、その一歩を踏み出していただけるようになれば幸いです。
現在、新規支援する仕組みは充実してきています。全国農業会議所の新規就農相談センター(筆者)のほか、各自治体やJA、民間企業等が窓口となり、新規就農者を応援しています。農業への興味・関心が高まるなかで、各地で、最近ではWebでも、新規就農の相談会が開催されており、多くの方が訪れています。
今回は、農政と一体となり長きに渡り新規就農を促進し、「非農家の就農の道」を拓いてきた全国農業会議所の取り組みとその歴史について、初回ですので、自己紹介とあわせて、お伝えいたします。
農業人としての最初の一歩「就農相談」
「実は私よりも妻の方が農業をやりたい、農村で暮らしたいと言っているんですよ」と40代前半の男性は困惑気味に語る。隣には奥さんが意を決したように「どうしたら農業を始められるのですか」と熱心に質問を投げかけてくる。地方自治体も含めた新規就農の相談会である「新・農業人フェア」での一コマです。
コロナ禍のもと2020年度の「新・農業人フェア」は予約制としたうえで来場者には検温・消毒など感染対策を施して8回開催されました。とりわけ地方自治体は東京や大阪などの開催地への移動が制限されている場合が多く、地方自治体のブースには担当者と結ぶweb相談用のパソコンが目立っていました。
こうした中で8回とも出展した当会議所のブースは「農業、何でも相談コーナー」として、初めての相談者向けの水先案内人としての役目を果たしています。主催者からは「相談者お一人15分でお願いします」と指示されるほど多くの相談者が訪れました。
前述のご夫婦は幼いお子さんを連れての3人での相談でしたが、家族の健やかな生活環境を作り上げたいという奥さんの強い思いから地方就農のため来場されていました。このご夫婦も含め、相談者のほぼすべてが農家の出身ではない、農業経験はまったくない、あるいは家庭菜園を少しやった程度、というのが実態です。
これまで夢を実現された新規就農者のみなさんもこの最初の一歩である「就農相談」からスタートをされています。
農外からの新規参入希望者支援の歴史
新しい担い手「農外からの新規参入」
当会議所は1954年の創立以来、「土地と人」=「農地と担い手」を巡る様々な課題などに取り組む、いわゆる構造政策の推進団体として活動しています。
現在の公益社団法人日本農業法人協会の前身である全国農業法人協会もかつては当会議所が事務局を担ってきました。いわゆる「雇用就農」(農業法人に就職する就農)は同協会の取り組みによるところが大きいのですが、この「雇用就農」については次回以降の「農業の働き方」というテーマの中で説明いたします。
農地と担い手対策に取り組んできた当会議所は1984年に農林水産大臣より「中核農家を主体とした地域農業の振興方策」について諮問を受けました。1986年、この諮問に対する答申「農業構造改革前進のために」の中で初めて新規就農の促進が言及されました。
「新規就農希望者の円滑な就農と農地の有効利用、流動化の促進を図るため、農地情報等新規就農に必要な情報を適切に収集・提供する体制を早急に整備するとともに、融資の円滑化、現地における受入れ体制の整備を図る必要がある」とし、非農家出身であっても就農を希望する人たちへの途を開く提言を行いました。
同年11月には国の農政審議会が「21世紀に向けての農政の基本方向」を公表し、その中でも「農外からの新規参入について―(中略)―新しい担い手として育成していく必要がある」と結論づけました。
「担い手の確保」と「農地の確保」
これらの背景には、1985年(昭和60年)農業センサスにおいて13万5千haにものぼる耕作放棄地の存在が明らかとなる一方で、同年の新規学卒就農者は4千2百人と20年間で10分の1以下まで減少するという厳しい実態がありました。要するに新たな担い手の確保・育成を早期に行わなければ耕作放棄地が拡大するという危機感があったのです。
新規就農と言うと「担い手対策」と思われますが、当時は農地制度の所管である農政課が担当していました。それだけ新規就農希望者にとって農地の確保が最も重要課題として位置づけられていたと言えます。
結果、1987年(昭和62年)に当会議所を実施主体とする「新規就農ガイド事業」が発足しました。新規就農希望者への相談は発足当時から行われていましたが、時代はプラザ合意後のバブルの始まりであり、なぜか「農業をしたい」と言う不動産会社の社員が多数相談に来られました。また、第1回の就農相談会に有名なFⅠドライバーの方が来られたことも今では懐かしい思い出です。
就農相談は「人生相談そのもの」
当会議所による新規就農希望者の相談については、既に30年余となりました。この間、就農の実現、規模拡大して農業法人の社長となった方もおられます。なかには自らの経験を踏まえて、次世代の新規就農希望者への支援に取り組まれている方もおられます。
新規就農の相談は、農業への就業相談と思われる方が多いと思いますが、その実態は「人生相談そのものだ」と当会議所のこれまでの相談員のみなさんがおっしゃっています。「人生相談」をした人が、次の「人生相談」受ける人となる。農地も担い手も次世代に繋いでいくことが大事なことだと思います。
次回からは、新規就農にあたり必要なステップや、農業の働き方等について、新規就農の具体的な事例も交えて、紹介していきます。
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