(YUIME株式会社 取締役 江城 嘉一)
第2回目の今回は、これからの日本の農業に欠かせない外国籍人材の活用・育成とその意義について、実際に日本の農業現場でリーダーとして活躍している外国籍人材の例も交えて、紹介させていただきます。
外国人初の現場リーダー誕生
愛媛県八幡浜(やわたはま)市のミカン選果場。カンボジア人のケン・チャンナラー(25歳)が朝一番で、自ら率いる同胞の15名の体調や様子を日本人スタッフに報告しています。YUIMEと雇用契約を結んでいる彼は、2020年秋、外国人として初めて現場リーダーに抜擢されました。
(外国人初の現場リーダーに抜擢されたケン・チャンナラー(前列中央))
第1回目の連載でも触れましたが、現場リーダーの育成こそ、農業の人材支援をするうえで私たちが重視していることのひとつです。
経験を積み重ねて、現場を熟知したリーダーが、新しく加わったスタッフに手取り足取り作業のやり方を指導・管理しながら、スタッフ全員の仕事ぶりから体調まで気を配っています。
リーダーがいるからこそ、クライアントの農家は、これまで労務管理に割いていた手間と時間を省くことができるようになります。そのぶん播種計画や農地の拡大など、経営基盤の強化に専念できるようになりました。
こうした取り組みが高く評価されて、クライアントからの信頼を勝ち取り、長期的な人材支援に結びつくようになりました。
「技能実習生制度」が抱える課題
スタッフのまとめ役となるリーダー人材を輩出するためには、収穫や選果などの現場作業に勤しむ熱心な働き手の層を厚くする必要があります。
(愛知県のみかん農園で現場リーダーとして働くチャンナラーは、カンボジア人スタッフのまとめ役として、クライアントからの信頼もあつい)
しかし、給料がほぼ同じなら農業よりもっと楽な仕事がたくさんあるため、日本人の労働力は慢性的に不足しています。人手が足りなければリーダーもスタッフの一員として、ひたすら現場作業をこなすしかなく、管理者としての資質を磨く機会には恵まれません。
そこで目をつけたのが外国籍の人材です。
日本には「技能実習生制度」があります。他の産業と同様に、農業でも作業を通じて技能を学び賃金を得て自国で生業を立てたい外国人の技能実習生を貴重な労働力としてきました。
しかし技能実習生制度にはさまざまな課題があります。失踪、途中帰国、病気、金銭トラブル……など、報道されることも少なくありません。
こういった事件が起こる背景には、一部でみられる低賃金、劣悪な就労・住環境などが原因のひとつとして挙げられます。あくまでも技能実習生は労働者ではなく実習生としての受け入れですから、職種ごとに決められた作業計画の規定があり、繁忙期だけの作業や残業、休日作業などは原則として認められておらず、労働基準法に従う必要があります。そのため、年間を通じて受け入れられる農家しか、この制度が利用できないことになっています。
「特定技能1号」即戦力となる人材
技能実習生制度が抱える課題を解決する手段のひとつとして、2019年にできたのが、就労を主な目的とした「特定技能」制度です。
これは技能・知識・経験を活かして働く特定の外国人を対象とした2種類の在留資格で、農業分野は「特定技能1号」にあたります。これまでの技能実習生は実質的には労働力として活用されてはいましたが、表向きはあくまでも社会貢献という位置付けでした。
それに対して、特定技能1号は適切な労働力として認められたビザで日本人と同等の給与が義務づけられる一方で、繁忙期だけの雇用や、厚生労働省が認可した「特定技能所属機関(人材派遣会社)」と雇用契約を結んだ派遣人材の受け入れなど、日本人と同様のフレキシブルな雇用形態が可能になりました。
(特定技能外国人と技能実習生の違い)
弊社は特定技能所属機関として認可を受けました。そこでIT人材の育成事業で過去に雇用実績があったカンボジア、ベトナム、インドネシアなどの「実習生送り出し機関」におもむいて、「特定技能1号」の枠組みでの人材を送り出してくれるよう交渉を重ねました。
欲しいのは技能実習の修了生
海外には、怪しげな会社も少なくありませんから、私が必ず最初に出向いて、そこの社長や担当者に会い、採用面接を行いました。
YUIMEが採用したいのは、日本ですでに技能実習を修了した働き手です。「特定技能」者として認定されるには、ふたつの条件のいずれかをクリアしなければなりません。
ひとつは日本で技能実習を2年10か月以上経験した修了生か、もうひとつは該当分野の技能評価試験と日本語能力試験(N4以上)に合格した人であるかのどちらかです。このうち、技能実習修了生ならば、即戦力になることが期待できます。
(鹿児島県の農園でピーマンの収穫作業を行うYUIMEの特定技能外国人)
「日本人ではなく外国人を派遣してほしい」
ここで改めて外国人で初めて現場リーダーに抜擢されたケン・チャンナラーについてご紹介しましょう。カンボジア南部タケオ州で、姉と弟2人のきょうだいがいるコメ農家に生まれたチャンナラーは2016年、20歳のときに技能実習生として来日。大分県豊後高田市の白ネギ農家で3年間就業した後、滞在期間が終わって帰国しました。
「もっと日本でお金を稼ぎたい。日本で農業技術を習得して、故郷カンボジアの農場を大きくしたい」と母国に帰ってからも日本の農業に対する思いを捨てきれなかったチャンナラーは特定技能1号の資格を取得して再び来日し、YUIMEの通年雇用スタッフになりました。
(ブロッコリーの収穫作業に携わるYUIMEスタッフ)
夏は北海道でブロッコリー、秋は愛媛でミカン、冬は沖縄でサトウキビと、人手が足りない生産現場に駆け付けて、経験を積み重ねた末、昨年早くもリーダーに昇格しました。
業務に取り組む姿勢はもちろんですが、課せられた作業に対して受け身ではなく、自分から積極的に意図を尋ねて、もっと良い方法を提案する場面も多く、クライアントからも日本人スタッフからも、常に高く評価されています。
また同胞のカンボジア人スタッフに対しては、悩みごとの相談にのるなど、公私の別なく面倒をよくみていて、優しく思いやりがある人柄です。現場リーダーにしたらどうか?と提案した際、誰もが「彼ならふさわしい」と両手をあげて賛成したことを覚えています。
外国籍の特定技能者を派遣するようになってから、まだ日は浅いのですが、クライアントからは「日本人ではなく外国人を派遣してほしい」とリクエストされる場面も増えています。
技能実習を終えて農業経験が豊富な外国籍人材は、即戦力で働いてもらえますし、本人にとっても、母国で働くよりもたくさんの給料がもらえますから、モチベーション、やる気、学ぶ姿勢、タフさ————どれをとっても日本人に勝るとも劣りません。これからの日本の農業は外国籍人材の活躍なくして成り立たないのです。
次回の連載で、農家が直接雇用する特定技能1号登録支援サービスも含め、外国籍人材の活用方法について、さらに掘り下げてご紹介しましょう。
シリーズ『「人材支援」が結ぶ 経営と就農の新しい道』のコラムはこちら
YUIME(ゆいめ)は、農業の人材派遣・農作業受託を中心に第一次産業をサポートする企業で、産地間連携を基軸に作られた農業人材支援体制、サービスを提供しています。私たちは、全国の農家・事業者の必要な時に、必要なだけの労働力を支援します。また、登録支援機関として外国籍人材を受入れる企業が行うべき義務的支援を受入企業に代わり行うことも可能です。労働力不足でお困りの方は、コチラよりお気軽にお問い合わせください。
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