(公益財団法人日本生産性本部 統括本部国際協力部 高柳 敦彦)
これまでのコラムでは、酪農の現場において活用が可能なカイゼン手法についてご紹介して参りました。
今回のコラムより数回にわたり、酪農におけるカイゼンの活用に関する調査より、現場カイゼン提案の事例を紹介したいと思います。
調査対象の酪農家の概要
先ずは、今回紹介する事例調査にご協力頂きました酪農家の概要を紹介致します。
【静岡県のA牧場】
牛の数:約450頭
従業員数:20名(うち技能実習生6名)
牧場やマネジメントの特徴:
「酪農は楽しい」というクレド(企業信条)の下、経営者と従業員が一体となって日々牧場の運営や改善活動に取り組んでいます。
作業の多くは標準化されており、作業マニュアル、安全マニュアルも整備され、必要に応じて改訂する仕組みを設けています。また、「LINEWORKS」を通じた従業員提案制度や、教育体系・制度、キャリア育成プランを策定、シフト制やジョブローテーションを導入することにより、快適で働きやすい職場づくりを目指しています。
また、乳牛に1頭ずつセンサーを装着しIoT(Internet of Things)による牛の監視を行っており、健康状態および発情期の兆候などを数値管理しています。餌の配合比率と搾乳量の関係についてもトレンドグラフで数値管理しており、これらを基に分析・議論することによって、より良質な牛乳と高い生産力を生み出すための徹底した管理体制を敷いている点が特徴的と言えます。
設備については、24頭×2列のパラレルパーラー、フリーストール・フリーバーン型の牛舎を採用しています。
在庫管理手法のカイゼン
紹介概要の通り、非常に優れた経営管理を行われており、カイゼン活動も既に行われております。このような現場環境ですので、カイゼン提案もやや細かい指摘が多くなりました。
こちらの牧場に対して提案しました5S+Sカイゼンは、配電盤の安全性、倉庫柱の管理状態、餌づくりでの安全性、パーラー内の安全性、在庫管理手法、鍵管理手法、餌保管場所、清掃用重機及び備品管理場所の8つです。
この中から、今回は在庫管理手法について詳しく紹介したいと思います。
着目した問題点
現場調査を行っておりましたある日、このような貼り紙がありました。
「ワクチンがなくなって困っています。納期は1週間から10日位かかります。最後に使った人が発注を掛けるルールになっていますが、守られていません。どうなっているのでしょうか?」
この問題はルールを守っていないから、ということでしょうか。
カイゼン案
これは在庫管理の問題です。この場合、在庫切れ及び在庫過多を防ぐための「発注点管理」の仕組みが重要となります。
消耗品、予備品に限らず在庫品はすべて最大在庫数と最少在庫数(発注点)を決めましょう。そして、在庫品が最少在庫数になった場合、新たに発注を掛けます。これにより、在庫量を確認する管理の手間が省け、適正在庫量を維持することができます。
在庫管理における留意点は、最少在庫数はゼロではなく、例えばその物品の納期が1週間で毎週10個使用するのであれば、10個に設定します。
そして、下図のように、最後から数えて10個目の物品に最少在庫数を示す赤マークや赤テープ(または発注カード)を付けます。そして赤マークまたは赤テープのついた物品を使用した人が発注を掛ける仕組みにします。万が一発注し忘れても、次に使用する人が、「あれ、赤マークの物がないぞ、変だな」と気がつくはずです。
一方、最大在庫数が30個であれば、30個並べて30個目の物品に最大在庫数を示す青いマークまたは青テープを付けます。また、物品を順番に使うように揃えることで、先入れ先出を順守出来るようになります。
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当該コンテンツは、公益財団法人日本生産性本部の分析・調査に基づき作成されています。
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