一般社団法人 全国農業会議所
新規就農相談センター所長
山村 勝廣
本連載においては、新規就農にあたり必要なステップや、農業の働き方等について、新規就農の具体的な事例も交えて、紹介していきます。
今回は農業という仕事の特徴と農業法人に就職する形で就農する、いわゆる「雇用就農」について説明します。
農業という仕事の特徴
農業という仕事の特徴とは?と言うと様々な考え方がありますが、なかでも最も大きな特徴の一つは生産する「商品」が生き物であることが挙げられます。
生き物、すなわち生産する家畜や農産物は、日々変化が発生します。そのため生産から出荷まで変化に合わせた対応が常に求められます。この変化を的確に把握できるか否か、これが生産した「商品」の質や量に影響して農業経営の成否にもつながっていきます。
長く農業を営んでこられた農家が新規就農者などに対して「観察する目を養うことだ」と言うのはこのためです。
また農作業という観点で言えば出荷に合わせた作業時間の設定が一般的です。例えば夏場の高原野菜の産地などでは、作業の開始時間が深夜の2時頃から始まりお昼頃に終了という流れです。畜産の場合は家畜の出産シーズンになると一晩中状態を見極めながら対応や措置が必要となります。
農業は生き物を「商品」とする仕事であると同時に天候などの自然条件によって農作業自体が左右される仕事です。
労働基準法第41条(労働時間等に関する規定の適用除外)
こうしたことから労働基準法第41条(労働時間等に関する規定の適用除外)により、労働時間や休日、休憩などに関する規定が適用除外となっています。
例えば農業法人の求人票などでは「毎月8日間は休日」と記載されていて、一般企業のような「土日・祝祭日は休日」という決まった曜日などが休日と表現されていません。予定する作業が行えるかはどうしても天候などに左右されるからです。
悪天候が続くと予定していた作業が行えず、やっと天候に恵まれるとこれまでの遅れを取り戻すため夜遅くまで作業が続く場合があります。このため「農家」という言葉の通り農業経営は家族経営が基本となりました。
農業経営の法人化の進展
一方で農業経営の発展にともなって新たな人手が必要となり、パートやアルバイトを雇うことから始まり、最終的に経営自体を法人化していく経営体が増えているのも事実です。これらの農業法人が会員となって設立された団体が現在の公益社団法人日本農業法人協会です。
農業経営の法人化については、1992年(平成4)に農水省が公表した「新政策」(新しい食料・農業・農村政策の方向)によって推進方策が示され、これを境に農業経営の法人化が進展しました。
「周年雇用」という課題
ただし、法人化をする、しないにかかわらずある程度経営発展した農業経営体で最も大きな課題はこれまでも「周年雇用」でした。
例えば降雪地域の土地利用型農業では春夏は夜明け前から夜遅くまで働くが、秋の収穫が終わると農業の仕事がなくなる、というものです。なかには冬場は自ら所有する機械を活用して請負で除雪作業をしたり、近隣にスキー場があればそこでアルバイトをする農家もおられます。
農業の6次産業化と雇用就農
農業の本質的な課題である「周年雇用」の解決を目指して提唱されたのが「農業の6次産業化」です。これは農業生産のみならず、農業法人が生産した農産物を加工し、販売まで一貫して行う経営のことを指し、現在の農業法人でも広く取り組まれています。
こうして農業法人に就職するという就農=「雇用就農」が始まったのですが、農業法人に就職することは一般企業に就職するのと何ら変わりはありません。ただし留意点として、農業法人で一定期間勤務して農業技術などを習得した後に独立就農しようと志望する場合、勤務する農業法人の生産部門で働くとは限らないということです。
前述のとおり農業法人の多くは生産のほか、加工や販売も行っています。実際にあった事例としては、将来の独立就農を目指し農業法人に就職したが、配属されたのが販売や営業、というものです。最近の事例では農業法人が売上を伸ばすためweb上に自社の通販サイトを立ち上げようとIT経験を有するエンジニアなどを求める場合もあります。
雇用就農を目指す場合、農業法人がどのような人材を求めているのかをよく把握して検討していくことが必要です。
また農業法人の経営者の中には、将来独立就農を目指す従業員には必要となる知識や経験を積ませようとする場合もあります。「継続勤務を希望する従業員と独立就農を目指す従業員とでは教える内容が異なる」と語る経営者もおられます。
魅力を感じる農業法人があれば、実際に会社訪問してみるのもよいでしょう。その際、独立就農を目指すのであれば、正直に自分の農業ビジョンを語れるような情熱を持つことは大事なことです。
最後に雇用就農者、独立就農者のみなさんが仕事をしていて一番うれしいと感じることは「お客さんにおいしいと喜んでもらえたこと」です。農業の魅力は過去から現在、未来までも変わらず続く「人に喜んでもらえる仕事」なのかも知れません。
シリーズ『新規就農を知る!』のその他のコラムはこちら
一般社団法人 全国農業会議所は、農林水産省の補助事業として、「農業をはじめる.JP」を運営しています。「農業をはじめる.JP」は、職業としての農業に興味を持たれた方や、農業を仕事にしたいと考え始めた方に役立つ情報を集めたポータルサイトです。
当該コンテンツは、一般社団法人 全国農業会議所の分析・調査に基づき作成されています。
公開日