(テラスマイル株式会社 代表取締役 生駒祐一)
前回の第一回から今回まで、『みどりの食料戦略』、『知の集積/「スマート農業新サービス創出」プラットフォーム』、『オープンAPI整備』と3つの政策について議論する場に参加いたしました。スマート農業の流れが政策面からも加速していることを感じます。
今回は、2021年5月末現在、どんなサービスが開発実証もしくは普及展開されているのかについて、ご紹介していきます。
(現在弊社で把握している農業支援サービスのラインナップ(テラスマイル作成))
調達工程で普及が模索される “シェアリング”
調達工程において、従来は所有・購入が中心となっていました。今後、業界の高度化に向け “シェアリング” という機能が普及するかが、一つのカギとなります。
シェアリングには、従来の共同購入の手法から切り口を変え、『受託生産(インテグレーション事業)』、『農機シェアリング』、『人材シェアリング』というサービスが立ち上がってきています。図からベンチャーだけでなく、大企業の新規事業としても参入が進んでいることが分かります。
「所有」から「シェア」という経営判断をするためには、第三者的な判断基準を持つことが重要です。営利目的だけではなく、“地域を守る” や “閑散期に雇用機会をつくる” といった考え方も必要でしょう。この分野では、(株)シェアグリや(株)おてつたびといったベンチャー企業が参入し、農林水産省の事例では、JA三井リースやYUIMEの取組が紹介されています。
“生産管理” や “収穫予測” による経営管理の高度化
生産管理
生産計画を立てる準備工程では、農業経営の高度化を目指すべく、サービスが投入されています。この10年で、シーズンを通じた契約出荷/安定出荷を行うための手段として、栽培履歴やGAPを取得する生産者グループも増えました。今後は生産計画やコスト設計に重きを置き、かつ入力の手間を無くしたサービスが投入されていくことが期待されます。
生産管理は、大手企業の撤退も起こる中で、アグリオンとアグリノートが認知を確立しています。ウォーターセル社は商社が経営に参画しました。今後は、「活用できる情報を、いかに手間なく、自動的に収集するか」が鍵になり、アグリハブなどが近しいコンセプトで参入しています。
収穫予測
収穫予測(出荷予測含む)については、この数年で一気にプレーヤーが拡大しました。NTTデータ/NTTアグリテクノロジーや、日立ソリューションズ東日本といったITベンダもこの領域に参入してきております。
特に私が注目している取り組みとしては二つ。一つは監査法人の参入、もう一つは農研機構の攻めの戦略です。
前者は、事業監査の観点から多くの事業の報告書を見てきた監査法人(PWCあらた監査法人)が、サービス提供企業として進出してきたことが興味深く、後者は、スマート農業180カ所の統括としてきた農研機構が、民間企業と組んで取り組みを始めたことを興味深く見ています。
農業経営において、予測は手段であり、目的ではありません。最終的な加工・需要までを見据えたデータの活用を期待したいところです。
投資が集まる新たな農機領域
生産工程において、環境モニタリングや炭酸ガス発生装置が浸透する中で、自動潅水・ドローン・収穫ロボットといった新技術に過去5年間ベンチャー投資が集中しました。
自動潅水ではルートレックネットワークスや笑農和、HappyQualityが、ドローンでは、ナイルワークスやスカイマティクスが、収穫/搬送ロボットではinahoや銀座農園、アグリスト、レグミンが資金調達を行い、市場を創り出そうとしています。
5年後、この起業家のチャレンジが良い結果を生むことを願うばかりです。今後の展開として、衛星サービスを始めるベンチャー企業(天地人、サグリ)に注目が集まっています。
サプライチェーンの出口を担う出荷工程のデジタル化
出荷工程(集出荷手法)では、エムスクエア・ラボが仕掛けたやさいバスに注目が集まっています。農作物だけでなく、情報を消費者に届けるというコンセプトをもち、JA全農の新規事業コンペ「zennovation」でも、やさいバスと連携した「Z-BUS」を提案したチームが最優秀賞を受賞しました。
このほかにも、出荷工程には九州の地域商社であるクロスエイジや、市場のデジタル化を提案するkikitoriがいます。
人材育成や流通を含め総合的にサービスを行うマイファームやアグリメディア、坂ノ途中、日本農業は大きな調達を行っており、今後国内だけでなく海外でも新たなサービスを展開してくる可能性があります。
また、オイシックス・ラ・大地は、Future Food Fundを立ち上げ、フードサプライチェーンのベンチャー企業への投資を加速しています。
弊社が行う “データ分析/営農支援” の分野は、学術的なアプローチだけでなく、現場感が必要とされることから、弊社のようなサービス事業者の創出が課題となっています。
次回は、「実際にRightARMが導入されている事例」についてご紹介します。
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当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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