(公益財団法人日本生産性本部 コンサルティング部 平澤 允)
コラムVol.7〜10にわたり、静岡・北海道の2つの牧場の事例を紹介してまいりました。
今回は、これら2牧場とは別の2,000頭以上を飼育する牧場や、ロボット搾乳を採用する牧場など規模の大きい牧場の事例に中心に取り上げてカイゼンの事例を紹介します。
大規模農場に見られる特徴
規模が大きい農場では従業員の数も多く、組織的に運営(成牛部・幼牛部・飼料部のように担当業務別に組織を分けるなど)をされ、休暇・休養を加味したシフト組みをされている事例がみられました。
一方で、分娩の介助・餌づくり・生まれたばかりの幼牛の世話など特定のスキルが必要な業務があり、その方々のやりくりをするために一部苦労しているという点も共通してみられました。
また、設備においては、大規模な搾乳作業を効率的に行うために搾乳ロボットやロータリーなど、作業の省力化・効率化が図られる設備を利用されていることが多く、一見すると現場作業におけるムダは少ないように感じられました。
ただし、効率化を図る設備の活用や、継続的な規模拡大に伴い発生しうる共通の改善点も見受けられましたので、本コラムではその点について紹介いたします。
設備特有の改善点
パーラーが回転することで作業が効率化されるロータリー型や、作業の自動化を実現するロボット搾乳の設備において発生するムダとして、「設備が稼働していない状態」が挙げられます。以下の図はロータリーパーラーにおいて、搾乳牛がいないまま回転している状態です。
ロボット搾乳においても、設備が稼働している限り搾乳作業(=酪農における生産活動)が行われる一方で、ロボットが稼働していない時間が見られるという状態がありました。
設備の稼働が生産活動に直結する場合、可能な限り設備を稼働させ、尚且つ空の状態での稼働を避けることが重要です。
ただし、設備に関しては一定の操作スキルが求められるため、次に述べる技術的習熟についても併せて考慮する必要があります。
利用設備の技術的習熟に伴い発生する改善点
上記に “ 可能な限り設備を稼働させることが重要 ” と述べましたが、私たちが調査したロボット搾乳を行っている牧場においては、運用管理に不安があり、ロボット搾乳の稼働は業務時間中のみとしており、尚且つそのロボットの運用・管理を行えるのがごく一部の人員という状況でした。
特定スキルを有する人しか対応できないという設備や作業がある場合、その人の代替が効かず過度の負担をかけてしまうほか、万が一の場合に稼働できないという状態に陥ってしまいます。そういった状態を避けるために、特定の作業者しか管理・運営できない作業を抽出し、教育訓練の計画策定・実施をすることが必要となります。
これは、本コラムの冒頭にも触れている特定の作業でも同様のことが言えます。
規模拡大・施設増設に伴い発生する改善点
持続的に規模の拡大を続けていった場合、牛舎等の設備については、空いている(利用可能な)エリアに増設するという対応になりがちであり、レイアウト上「運搬のムダ」につながるという事例が幾つか見られました。
例えば、とある牧場においては牛追い作業を短縮するためにロータリーパーラーから近い位置に搾乳牛の牛舎の増設を繰り返した結果、幼牛舎はパーラーとは遠い位置になっていました。この場合、絞ったミルクを幼牛舎へ運び込むために長い距離を運搬することに加えて、運搬後に空の状態で戻るという運搬のムダが発生していました。
ただし、レイアウトに関しては工夫で容易に変更できるものではない為、建設・増設時に「そこでどのような作業がされるか」「そこから何をどのように運ぶのか、作業全体の導線はどのようになるか」を想定し、設計することが重要となります。
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