(テラスマイル株式会社 代表取締役 生駒祐一)
前回もご拝読頂き、ありがとうございました。今回は、データ基盤RightARMを導入し、農業経営のデジタル化・高度化に取り組まれている3カ所の農業法人・経営者のご紹介を通じて、データ基盤導入の目的と、経営戦略にあわせたデジタルデータの活用方法について解説いたします。
データ基盤(デジタル基盤)導入の目的
2021年、お問合せ頂く皆様の目的を以下にまとめました。
数年前は「反収の向上」や「所得の向上」という言葉が主でしたが、スマート農業実証プロジェクトやデジタル化の波を受け、目標がより明確になってきていると感じています。また、GFP(農林水産物・食品輸出プロジェクト)に取り組まれる経営者・経営陣からの問合せが多いことも特徴としてあります。
【データ活用の目的】
■ 経営力強化
■ 産地指標
■ 労働力適正配分
■ 圃場評価
■ 出荷予測・有利販売
■ 労働力傾向予測
■ 投資効果測定
■ 配車最適化
■ 作業工程管理
引用:農林水産省 GFPグローバル産地づくり推進事業
資料「令和3年度 GFPグローバル産地づくり推進事業における採択産地」より
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/gfp/gfpglobal_saitaku.html
実績分析と収穫計画のデジタル化による品質の安定
ホウレンソウを中心とした業務加工用の野菜を生産・加工する(株)ジェイエイフーズみやざきでは、より品質の安定した農作物の生産加工を目的に、令和元年度のスマート農業実証プロジェクトに参加し、今まで蓄積したデータの見える化と、営農支援につながる実績分析BIの構築、出荷予測を活用した収穫計画シミュレーションの進化に取り組んでいます。
完全契約栽培により、収穫後新鮮なうちに冷凍加工された宮崎県産のほうれんそう
契約栽培におけるデータ活用にてRightARMを活用
作業工程管理のデジタル化による戦略立案と社内教育の高度化
大崎農園では、創業から100haを超える西日本最大級のダイコン生産法人まで育て上げ、かつGlobalGAPも取得した経営力と品質管理を体系化すべく、RightARMを導入し、戦略立案と社内教育の高度化を行っています。今後は、組織での段取りの向上を目指し、作業工程管理のデジタル化にも取り組んでいきます。
山下義仁さん・中山清隆さん・小迫剛さんが目指すのは、デジタル化が、農業経営者の『勘と経験』の“パートナー”となり、品質の高いダイコンをシーズン通して消費者に届けること、そして働く社員が安心して子供の運動会に参加できることです。
大崎農園が、自信を持ってお客様にお届けする、みずみずしく新鮮な大根
RightARMを用いて戦略と社内教育(人材育成)をデジタル化
実績分析と摘採計画のデジタル化による戦略的な摘採
3代目の堀口大輔さんを、小牧健太郎さん、堀口俊さん、入来浩幸さん、山迫祐太さんという専門知識を持つ将が脇を固める鹿児島堀口製茶では、300haの圃場をデジタル化し、戦略的な摘採を行うべく、摘採計画支援(シミュレーション)に取り組んでいます。
一度飲んだら止められない堀口製茶のお茶輸出にむけたスマートフードチェーンの確立と、海外から求められる品質・コスト・ロットでの生産や海外の規制等に対応し続けるためにRightARMを導入
デジタル基盤を導入した産地から見える農業経営の課題・目標
ジェイエイフーズみやざきさん、大崎農園さん、鹿児島堀口製茶さんの導入目的を整理すると、以下の課題・中期計画が見えてきます。
●蓄積してきた履歴情報を活用したスマートフードチェーンの仕組みの構築
●新たな販売先(輸出先)との関係強化を見据えた情報の体系的な整理
●組織で力を発揮するための中核人材の育成
●勘と経験を活かしたコストリーダーシップ戦略(生産性向上)の更なる追及
●進化するJAグループとしての(実践的営農指導という)役割の創出
魅力的な社員を採用し、農業と産地を支える中核人材へと育てていく。そのために、情報(データ)を活用できる人材を育て、輸出という新たな販路の拡大も目指し、共に未来を盛り上げていく。
30代から50代のデジタル基盤を導入する農業経営者には、武力だけではない、智力を組織で養い、組織力で未来へのバトンをつなげていこうという想いがあります。
具体的にどのようなデータを記録・収集したことが、デジタル基盤の導入・成果へと結びついたのか?
コストと売上に紐づく情報を収集しておくことが、データ活用には重要と考えています。コストは反収・歩留まり・工程管理、売上は単価・ロット・荷姿です。
また、圃場の予測やシミュレーションを行いたいのであれば、絞った生育調査情報を収集しておくことが望ましいです。生育調査は勘と経験(現地インタビュー)で補完も可能ですが、定量的にとっているほうが、特徴を把握しやすいでしょう。
仕組み以上に、“データで試算できたときに、その仕組みを現場で実践・定着・浸透させるためのコミュニケーション”という運用が重要です。統率力(リーダーシップ)という言葉にも置き換えられるでしょう。
次回は、行政機関との連携によるRightARMの活用シーンについてご紹介します。
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当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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