一般社団法人 全国農業会議所
新規就農相談センター相談員
門脇 圓治
前回は、非農家出身者にとって悩ましい「就農地の決め方」について、紹介しました。今回は、それとも密接に関係する「自治体やJAグループによる新規就農受け入れ支援策」について、紹介します。
自治体やJAグループの新規就農受け入れ支援策
募集から研修、就農、定着までの「パッケージ」が主流に
近年、自治体の新規就農受け入れ支援策は県単位から各市町村単位まで、すそ野を広げつつあり、市町村段階でも研修体制の充実が散見されます。
例えば、長野県富士見町は、2010年4月から指導者による技術指導、住居、農地・施設を1つのパッケージとして新規就農者の受入れ体制を構築。町が支援を認めた新規就農者を対象とし、「就農の高い壁」を可能な限りとりはらい、町が地域や農家、JAと新規就農者をつなぐパイプ役となっています。
この「新規就農者支援パッケージ」制度は「3年で一流農業者に」を目標に掲げて取り組んでいて注目されます。
自治体や関係機関と連携したJAグループの新規就農支援
一方、JAグループも農業の担い手の高齢化や後継者不足が日本農業の直面する大きな課題であるという危機感から、2015年の第27回JA大会の決議で、新規就農について「募集→研修→就農→定着までの一貫した支援体制」を関係機関と連携して取り組むことを打ち出しています。
実際、全国的に多くのJAでは自治体や関係機関と連携して新規就農者に対する経営・栽培技術研修から資金面、農地や住居、施設・機械、販路、地域への溶け込み等の支援に取り組んできています。
静岡県:具体的な支援内容と成果
例えば、静岡県では、各関係機関が連携し、就農の検討・準備段階に応じて「相談」「体験」「就農に向けた実践研修」「農地、施設、資金の確保」の面で新規就農者の支援を実施しています。
就農に向けた実践研修「がんばる新農業人支援事業」(実施主体:県)では、県内9つのJA単位で地域受入連絡会(JAが窓口、市町、県農林事務所、研修指導農家で構成)を組織し、研修生はそこでの1年間の研修を通じて栽培技術や農業経営を学びます。研修終了後は、研修受入地域に就農してもらうことで、研修指導農家や先輩農業者から引き続きアドバイスを受けることができます。
県内でいち早く受入を開始したJA伊豆の国においては、2020年2月末現在で管内に独立就農した新規就農者がミニトマト57人、イチゴ23人の計80人となり、特にミニトマトではJAの作物部会員の9割を非農家出身者が占めるなど、中心経営体として活躍しています。
長野県:具体的な支援内容と成果
また、長野県の「信州うえだファーム」は担い手不足や耕作放棄地の増加に苦しむ地域農業を守るため、JA信州うえだの子会社として2000年に設立されました。
事業としては、水稲、野菜、果樹などの作物の栽培や耕作放棄地の再生・利用、農業を新たに始めたい人を育成する新規就農者育成事業など、地域の農業振興に役立つことを積極的に行っています。
新規就農者育成事業では、新たに農家になりたい人を2年間直接雇用する形で給与を支払いながら研修生として受け入れています。農地の確保支援策として、研修農場ののれん分けやJAなどによる農地の賃借の斡旋も行っています。
これらの取り組みにより首都圏や関西などからのIターン者も多く、卒業生は地域の農業者として活躍しています。経営作物は露地野菜、施設野菜、果樹、ワイン用ブドウで、2021年4月までに47名の研修生が独立を果たしています。
なお、JAグループの新規就農支援情報については、全国新規就農相談センターHP(農業をはじめる.JP)で検索することができます。
【今後の課題】研修先のミスマッチ解消と農業経営の第三者継承の充実を
新規就農希望者の受け入れ支援策は、既存の主産地まで巻き込んで全国的に市町村段階まで充実が図られてきたのは大変喜ばしいことであります。こうした成果の一方で、研修先の受け入れ作目の理想と現実の乖離や研修先の生活・環境条件のミスマッチに関して、研修生からメール相談等が寄せられといることも事実です。
このミスマッチをいかに減らしていくのか、については、研修に入る前の「お試し就農(お試し移住になぞらえた)の実施や、研修終了者の他地域への移動斡旋が課題になりつつあると思います。
また、「農業経営の第三者継承」については、かつて全国新規就農相談センターが10年間ほど、農林水産省の補助事業として取り組んだ経過がありますが、最近はとりわけ都道府県段階での関心が非常に高まっているように思います。具体的には、茨城県や熊本県で物件情報が掲載され始めたほか、相談者の相談件数も日々増加し、ニーズも高まっているように感じます。
コロナ渦の長期化に伴い、農業に対する国民の関心が高まっているのは事実であり、その期待に応えるべく、私もその一助として新規就農相談活動に取り組んでまいりたいと思う日々であります。
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