日本農業経営大学校は農林中央金庫が中心となり、JA全中、JA全農、JA共済連をはじめとする農業界や産業界のリーディングカンパニーの団体・企業の支援で2013年に開校した次世代を担う農業経営者と、地域農業のリーダーを育成する教育機関です。
本連載では全国各地で活躍する若き農業経営者である本校の卒業生をご紹介します。
自分で農作業をしない農業経営者の道を選んだひとがいます。井上隆太朗さん、日本農業経営大学校での学びからオランダ研修を経て、いちごの観光農園の経営と新規就農者を支援するプラットフォームづくりを手がける現在について紐解きます。
【本編の最後にインタビューに関するYoutube動画へのリンクがあります】
<プロフィール>
氏名:井上隆太朗(日本農業経営大学校第2期生)
就農地:長野県佐久市
経営内容:大学の農学部で4年間学び、農業に特化した経営を学ぶために日本農業経営大学校に入学。在学中に小さな土地で収益を上げる施設園芸に関心を持ち、卒業後に施設園芸先進国のオランダでの研修を決意。帰国後は企業の農業参入のサポートを経て、2020年から株式会社井上寅雄農園として長野県佐久市初のいちごの観光農園事業を展開している。
また、生産だけにとどまらず、農家と新規就農者を繋ぐスキルシェアサービス「アグティー」を開発。信州ベンチャーコンテストにてグランプリを獲得したほか、日本経済新聞社が主催する「AG/SUM(アグサム)アグリテック・サミット2021」の事業モデルを競うピッチコンテストで書類審査を通過しファイナリスト(8社)に選ばれ、同サービスのプレゼンテーションを行う。
きっかけは祖父のリンゴ園
祖父母のやっているリンゴ農園を、いつか自分がやるんだろうなと思っていました。大学生のころ、収穫や作業の手伝いをしていた際に、祖父の農園の経営面積が小さくて、今後生活していくには大変だと知りました。「このまま引き継いでも駄目なんだ」と気付き、経営の勉強が必要だなと考えました。
小さい面積だったらどうやるか。例えばですが、無農薬のリンゴが出てきた時期だったので、一つのリンゴを高い値段で売ればいけるんじゃないかとか、そのためには経営的な知識やブランディング、マーケティングが必要なのかなと。
それらを学べるMBAや経営学科の大学院も検討していたのですが、日本農業経営大学校は農業の経営に特化した学校であることが決め手になり日本農業経営大学校に進学しました。
日本農業経営大学校での学び
在学中の経験では、外部の講師の方や農業経営者の生の声を聞けたことが大きかったです。
一番面白いなあと思ったのは、施設をほぼ完全自動化していた花農家さんです。その花農家さんはオランダに視察に行って、自動化を参考にしたそうです。初めて見たとき、かなり衝撃的だったのを覚えています。
はじめは祖父母が経営するリンゴをブランディングして経営を成り立たせていこうと思っていたしたが、講師の方のお話を聞いたり、農業に関する学びを経ていく中で、施設園芸に関心を持ち始め、これを事業としてやっていくと決めました。
大学校で学んだことは、現在の農業事業でも活かされています。外部講師の方がハウスで農業生産をしており、機械により半自動化を実現して栽培の生産性をあげていることがとても刺激的だったので、参考にして経営しています。極力、人の力を使うのではなく、しっかり周りを制御して経営をしていくことに関心を持っています。
また、大学校卒業後に施設園芸を学ぶために訪れたオランダでは、経営者は作業をせずに経営とマネジメントを行っており、栽培の設備だけでなく経営面での発見が多々あり、とても勉強になりました。
新しい農業経営の体現と新規就農者を支援する取り組み
長野県佐久市でいちごの観光農園「株式会社井上寅雄農園」を経営しています。井上寅雄農園は、長野県佐久市初のイチゴ狩り農園として2020年12月にオープンし、日本最大級の遊びや体験・レジャーのチケット予約サイトasoview! (アソビュー)週間ランキング(2021年2月24日から2021年3月2日まで)で全国2位を記録し、初年度は3,784名に来園していただきました。
7月からはポストコロナを見越し、キッチンカーを導入し、6次産業化を行っています。キッチンカーではイチゴ甘酒スムージーをかけたソフトクリーム「イチゴ甘酒ソフトクリーム」と井上寅雄農園の冷凍イチゴ100%使用した「イチ氷」を販売しています。
一般的なイチゴ栽培は6月に収穫が終了すると、12月までは収益を得ることができません。しかし、イチゴを冷凍することで夏場に加工品をつくることができ、年間を通じて収益をあげる仕組みができます。年間を通じて収益をあげることで周年雇用を実現することができ、限られた農地しかない農業者のモデルケースを目指します。
スキルシェアサービス「アグティー」
信州ベンチャーコンテストで、農業界初の画期的なサービスとしてグランプリを獲得したスキルシェアサービスの「アグティー」は、新規就農者や家庭菜園者などの方が日頃抱えている栽培から経営まで、農業に関わる困りごとに対して、プロ農家から直接、ビデオチャットなどでアドバイスが受けられるお悩み相談サイトです。
これは自身が新規就農で農業を始めたときに、失敗して苦労した経験から起案し、運営しています。栽培管理上の課題を解決することで、新規就農者の離農を防ぐことにも役立てたいと考えています。
アグティーで農業に関わる困りごとやお悩みを、どんどん蓄積していき、その内容を動画にして、農家さんのインプットに役立てていけば、農家さんが農業経営に活かせるような仕組みができるのではないかと思っています。
農業版DXのようなことが井上寅雄農園で体現できたら面白いと思っており、それが農業を通じて実現したい夢です。
【インタビューに関するYoutube動画へのリンクはこちら】
- 高度な農業経営者教育を提供する日本農業経営大学校-
次世代を担う農業経営者であり地域のリーダーとなる人材の育成を目指し、2年間・全寮制教育により少数精鋭の経営者教育を行います。
本校は、平成25年4月に開校し、定員20名を対象に全国から意欲のある学生を募集し、「経営力」、「農業力」、「社会力」、「人間力」の4つの力を、講義・演習(ゼミナール)や現地実習(農業、企業)、寮生活を含めた幅広い活動を通じてバランス良く育み、将来の事業計画を確立します。
アグリフューチャージャパン会員ネットワークを通じて、産業界・農業界・学界等多方面の講義・実習の展開や、卒業後のネットワークづくりなどをはかれることが、本校の大きな特徴です。
■ 詳しくは、本校のホームページをご覧ください。
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