(公益財団法人日本生産性本部 統括本部国際協力部 高柳 敦彦)
前回のコラム(Vol.12)では、酪農現場におけるカイゼン事例から他の産業に視点を変えて、カイゼンの考え方の重要性をご紹介致しました。今回も引き続き他産業の事例をご紹介させて頂き、第一次産業との共通性をご理解頂ければと思います。
海外製造業でのカイゼン事例
日本生産性本部は、調査研究・コンサルティング・セミナー・研修を通じて、生産性向上を実現することで日本の潜在成長力を高めることを目指す公益財団法人です。
私が所属します日本生産性本部 国際協力部では、アジア、アフリカ、中南米の各国生産性機関、そして日本の民間企業とのネットワークの強みを生かし、日本での事業経験を基に途上国・新興国の産業振興に関する事業を財団設立初期より展開しています。私の国際協力部着任後の経験は、主にアフリカ諸国への生産性向上技術の移転業務です。
今回のコラムでは、アフリカ生産性機関への技術移転OJTとして、現地製造業で行ったコンサルティング事例をご紹介します。
ケニア大型車両車体製造企業の事例
ケニア生産性機関コンサルタントのOJT先として、日系企業が製造・販売するシャシー(台車)をベースにバス・トラック車体を年間約1,500台製造・販売している、従業員250名の企業が選出されました。
当該企業では、既にカイゼン活動を行っており日本的な経営手法に理解がありましたが、社内にカイゼン活動が定着しておらず、製造過程で経営課題を抱えていました。
社員全員がカイゼン活動に日々取り組むために
カイゼン活動が社内に定着し、これを継続するために重要な要素の一つとしては、社員全員がカイゼン活動は従業員のメリットとなることを肌で感じることです。
これは、業務環境の安全性向上や、整理整頓された働きやすい作業現場や部材倉庫など、従業員全員に見えるカイゼン成果や、経営者がカイゼン活動を行う従業員の貢献を認知して褒めることが大きなモチベーションとなります。
今回のような中規模の企業は部署も多く、カイゼン活動が散漫となりがちです。カイゼン活動に従業員全員が日々取り組む状況を維持するためには、企業が抱える課題別に小集団活動を行う「カイゼンサークル」を設立し、課題へのカイゼン活動を管理・運営する手法が一般的です。
今回は5つの課題を対象としたカイゼンサークルを関係部署に設置し、それぞれ5〜7名の活動管理メンバーを任命しています。
カイゼン活動の士気を高める経営者の「本気」
カイゼン活動の士気を高めるためには、キックオフも重要なイベントです。出来れば全職員を巻き込んだキックオフ・ミーティングやカイゼンイベント・交流会等を会社全体で実施し、企業経営者のカイゼンに対する本気度と姿勢を示し、チーム結成の盛り上がりを演出します。
途上国では5Sのうちの整理・整頓・清掃の3Sが出来ていないケースがほとんどですので、先ずは「5Sデー」と称し、課題箇所の整理・整頓・清掃を行います。今回の企業では、倉庫内、屋外資材置場、製造現場の3Sを以下のように行いました。
カイゼン専門家による半年間に渡る4回のコンサルティングの成果としては、以下の通りです。
定量 | ■ 5S評価(チェックシート)点数:13点(第1回派遣)⇒84点(第4回派遣) ■ 屋根への明かり窓設置により屋内照明節約(電気使用料削減最大で約40万円/月) ■ 切り代の購買方法変更による工程内ムダ削減、それによる材料購入費削減 (「Cチャネル材」購入費コスト削減最大で約45万円/月、「ゲルコート」購入費コスト削減最大で約7万2千円/月、他) ■ 大型バスの製造リードタイム短縮(1台あたり60日⇒3台まとめて60日) |
定性 | ■ 委員会設置等による社内の課題洗出しとカイゼンの実施体制構築 |
広範囲に渡る3Sを実施し、この状態を維持するためには、「5Sデー」のような一日限りのイベントのみでは到底成果を上げられませんし、この状態を全社的に維持される仕組みが機能していなければなりません。
上記の定性的成果により、3S実施以降の5Sに含まれる「清潔」「躾」が担保されます。また、5Sが日々機能することにより、本来の目的である日々のカイゼン活動へと繋がっていきます。
カイゼンを導入し、維持する仕組みの実践
以上が海外製造業での事例となります。国内の製造業において5Sやカイゼンは広く認知・実施されている状況ですが、他の業界や海外製造業では「KAIZEN(カイゼン)」を言葉として知っていても、実際に導入した事例が少なく、歴史も浅い状況にあるかと思います。
どのようにカイゼンを導入し、維持していくかという仕組みがカイゼンの要点の一つです。第一次産業においても、カイゼン活動に全員が参加し、全員にメリットがある環境を作るノウハウが共通しており、実践につなげるご参考になるのではと考えています。
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当該コンテンツは、公益財団法人日本生産性本部の分析・調査に基づき作成されています。
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