(気象予報士 寺本卓也)
こんにちは「農てんき予報士の寺本」です。
興味を持って下さりありがとうございます。今回も福島から天気と農業の関係を楽しくお伝えする「農てんき予報」を発信していきます。是非最後までお付き合いください。
秋の味覚に異変
雨が少なく小ぶりの「栗」に
天気による農作物の影響は遅れてやってくるものです。私は9月中旬、福島県会津若松市の栗農家さんを取材しました。
今年の栗は6〜7月にかけて雨が少なく、小ぶりの物が多くなってしまったというのです。どういう事かというと、雨によって本来なら生命力の弱い実は落ちていくはずなのですが、全然雨が降らなかったので落ちる事なく、実がなり過ぎてしまったというしくみです。
シーズンラストの「秋の桃」にも影響
その後、8月になると西・東日本を中心に雨の日が多くなりました。9月に入っても曇りや雨が多く、福島の桃リレーラストを飾る晩成品種の「さくら白桃」の生育にも影響が出ました。
福島市飯坂町の桃農家の取材では「雨焼け」という実が黒ずんでしまう症状や、傷みの出ている物が見られました。晴れても雨が降っても影響が出る農業の難しさを感じます。
秋が旬の「シャインマスカット」にも影響
福島市の8月の平年の降水量は151.3ミリ。今年は停滞する前線の影響で236ミリと、いつもよりも雨の多い8月となりました。
ぶどう農家さんでの取材では、比較的雨による病気の発生に強いと言われるシャインマスカットにも病害虫被害が発生したという事です。これら全てを温暖化による異常気象が原因と言ってしまうのは少し乱暴かもしれませんが、近年極端な大雨の頻度や、猛暑日の日数などは確実に増加し続けています。
持続可能な農業の発展にむけては、今後温暖化対策への積極的な取り組みがますます重要性を増していくものと思われます。
10月は「台風シーズン」 物流ストップで大混乱の記憶
さて、10月に入ると各地で日中の暑さも落ち着き、だんだん秋の深まりを感じられますが、私は前職での苦い記憶を思い出します。「台風」です。10月はまだまだ海面水温が高く、台風シーズンです。
前職で野菜の商社に勤めていた私は、全国のお客様問い合わせ担当として、クレームなどに対し各部署やドライバーへ連絡・指示をしていました。商社ですから、台風が接近すると交通網が麻痺し、毎回大混乱が起きます。
壮絶な一日 24時間遅れの納品
「凄い雨風だし、あちこち道路が冠水しているし、お店まで辿り着きません。」とドライバー。「まだ野菜が届かないんだけど。いつになったら納品されるの?」とお客様。このような電話がひっきりなしに掛かってくる職場で、「トイレに行く暇もないよー。」と泣き叫んでいた同僚の事も思い出します。
台風が去り、「ようやく納品が終わりました。24時間遅れでした。」とドライバーから報告を受けた時は、改めて自然災害の凄さを痛感した瞬間でした。
台風予報を事前にチェックする法人も
そんな大混乱が発生する一方で、台風予報をしっかりチェックしている法人は、荒れる前に事前に納品を済ます取り組みをしていました。
私が商社に入社したのは2010年、その後2017年の台風シーズンを経験するまでには、確実に毎年少しずつ事前納品を済ます法人が増えてきたのを記憶しています。それだけ、台風などの自然災害に対して皆さんの危機感が年々高まってきたのだと思います。
台風進路予報は年々向上 「減災」への意識を
私は1985年生まれですが、当時の台風予報は24時間先までしかなく、その進路の誤差は約230kmでした。それが2020年には24時間進路予報の精度は約70km、また5日先まで予報期間ものびました。気象災害を完全に防ぐ事は難しいですが、台風情報は以前に比べればかなり予報精度が上がってきています。
事前に台風情報を得る事で災害を減らしていく事は可能です。これは「減災」という考え方です。気象情報を上手に利用する事で、「減災」への取り組みがますます進んで行くことを切に望みます。
3400億円 台風は桁外れの大被害に
まだ記憶に新しい、2019年の大型で猛烈な勢力にまで発達した台風19号(令和元年東日本台風)は、10月12日午後7時前に伊豆半島に上陸しました。農林水産関係の被害額は3446億円と、この年に起きた自然災害全体の被害額の約7割となっており、その影響の大きさがわかります。
台風による農作物の被害
台風による農作物の被害として具体的には以下のようなことが挙げられます。
■農地の浸水
土の中の酸素が不足する事で農作物は窒息し枯れます。
■暴風
農業施設、機械の破壊、農作物を損傷、病気のまん延など。
■塩害
海から巻き上げられた塩分が付着し、農作物に生理障害が発生。
台風対策はどうしたらいい?
■台風接近前
・排水路や、ほ場内の排水溝の点検や掃除。
・溝切りやうね立ての実施(早期の排水を目的)。
・防風垣、防風ネットなどの整備。
(ビニールハウスは開口部があると、風が侵入し内部から圧力がかかり施設ごと浮き上がり破損する事があります。)
・戸締りや、補強、飛ばされやすい物を片付ける。
■台風接近・通過中
・農地、農業用施設を見回りしない。
・暴風が収まった後も、増水した水路に近づかない。
(土砂災害や河川の氾濫などの危険性は、雨風が収まった後もしばらく続くからです。)
■台風通過後
・ほ場が冠水した場合は、すみやかに排水や、病害虫の防除。
・農作物が倒伏した場合は、できる限り引き起こす。
・樹勢を見ながら施肥や摘果。
・海岸部では海塩を除去するために散水を行う。
ここだけは押さえておきたい、台風情報のポイント
ここだけは押さえておきたい、台風情報のポイントをイラストでお伝えします。
ここで表示されている、黄色の強風域や、赤色の暴風域は毎回表示される物ではありません。表示されているという事は、台風本体の勢力がより一層強い物だと捉えてまず間違いはないでしょう。ただ、表示されていないからと言って弱い台風だと言うのは間違いです。
最新1カ月予報 季節外れの暑さが続くか
最後に最新の1カ月予報も見ていきましょう。この先11月1日までの1か月間の降水量はおおむね全国的に平年並みの予想です。
ただ、全国的に暑さが続く予想となっています。 特に西日本では、10月中旬以降も暑さが長引くかもしれません。
今月は台風に気を付けなければいけない時期ですが、今年は各地で農作物の温度管理も難しくなりそうな10月となりそうです。
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