(公益財団法人日本生産性本部 統括本部国際協力部 越後 比佐代)
酪農業に限らず全ての業界において、労働人口減少による人員の多様化が進んでいます。
これまでのように「仕事は先輩の背中を見て学ぶ」や「従業員はみな同等のレベルである事を前提とした教育や運営ルールを設ける」ということだけでは人員の多様化に対応することが難しくなるかもしれません。
そこで今回と次回においては、そのような人員の多様化に適用可能なカイゼンのための5つのヒントをご紹介します。
【5つのヒント】 1.見える化 2.マニュアル化 3.作業分担 4.提案制度とPDCAサイクル 5.経営者のリーダーシップ |
1.見える化
見える化とは、必要な情報を現場でリアルタイムに見えるようにすることで、誰もが異常や問題にすぐに気付き、迅速に問題を解決し、再発防止策を打てるような仕組みをつくることです。すなわち「問題発見・問題解決・再発防止・仕組み化」がキーワードとなります。
「見える化」を推進するためのポイントとして、以下3点があげられます。
●必要な情報を必要な人が必要な場所で見えるようになっているか?
●生きた情報か?情報が古くないか?
●分かりやすい見せ方になっているか?(グラフ化などの工夫)
また、見える化の推進にあたり、ITの活用は1つの手段となります。しかしすべてをITに依存するのではなく、入力者の手間も考慮して絞った情報入力からスタートし、実感を得ながら段階的にIT化を進めるのがポイントです。
(各牛の健康状態を共有)
(記入式搾乳チェックシート)
(電子化した搾乳チェックシート)
(電子化した搾乳チェックシートのデータをグラフ化)
2.マニュアル化
マニュアル化のメリット
前項の「見える化」で述べましたように、従業員が多様化している環境では、作業の手順やルールを定めるマニュアル化がカイゼンの1つの手段として有効であり、熟練者、若手従業員、経営者(あるいは管理者)それぞれにとって、以下のメリットを生み出します。
熟練者にとって 若手従業員にとって 経営者にとって
●現状の作業にムダがないかを精査できる
●若手従業員の教育に係る労力を節約できる
●基本となる作業の方法を理解できる
●何度も読み返すことができる
●慣れてきた時も振り返りができる
●作業が統一化され、不正や誤謬を発見・回避できる
●作業が統一化され、品質の担保・レベルアップが図れる
●教える人による作業のバラツキが減る
●作業ノウハウを継承できる
一方、デメリット(留意点)は、マニュアル作成の手間です。日々の業務に追われることが多いですが、環境変化が著しい昨今では、マニュアル作成は避けて通れない作業と言えます。まずは熟練者の動きを映像に撮り、それを見ながら皆で議論する事から始めるのも1つの手段です。
マニュアル作成のポイント
作業の手順やルールを詳細に記述したマニュアルは、誰でも同じ作業ができるようにすることを目的としています。
そのため、経験の浅い従業員でも熟練者と同じように作業ができるようにわかりやすく作成する必要があります。特に、その作業における留意点・注意点は、具体的にはっきりと記述することが大事です。「誰がいつどこで何をする」のかという点を時間軸で記述することが大切です。
作業マニュアル以外に、事故防止と安全についてのマニュアルがあります。これも非常に重要なため、ぜひ職場で揃えていただきたいと思います。
マニュアルは一度作成したらそのまま永続的に使うのではなく、カイゼンなどで作業が効率化された場合、それを順次反映して改訂します。
例えば、一年に一度マニュアルを見直す時期を定めるなどして、現場とマニュアルに乖離がないかを定期的にチェックし、必要に応じてマニュアルを改訂することが重要です。
3.作業分担(シフト)
酪農業は、「3K(きつい、汚い、危険)」要素が高い傾向にある職業のため、従業員が快適で働きやすい職場環境の整備が、従業員の確保と定着につながる鍵となります。特に、長時間労働を減らし、休暇を取りやすい仕組みをつくることで従業員満足をもたらし、チームワークや業務品質の向上(牛のストレス低減も含む)も実現できます。
誰もが満足して働きやすい職場を作るためには、1日のタイムスケジュールに沿った形で人の配置を決め、各人の一日当たりの労働時間が平均して8時間を超えないように調整することです。残業をできるだけ発生させないように、また従業員間で不公平にならないように配慮します。
(タイムスケジュールの例:従業員A〜G、従業員Dは休暇と仮定)
(従業員の月間スケジュール)
このように作業分担をしつつ従業員が計画的に休暇を取得できるようにするためには、それぞれの従業員ができるだけ多くの作業をできることが前提です。一つの作業に固執することなく、いろいろな作業を覚えてもらうことで、この仕組みを確立できます。
ヒントに基づいてカイゼンを実施し、労働生産性を向上させ、快適な職場づくりを目指しましょう。
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