(株式会社マイナビ 農業活性事業部中央営業部長 佐々木 康人)
こんにちは。株式会社マイナビの佐々木です。前回は、私が営業活動を通して感じた、農業界の人材採用・定着の課題と解決策についてお話しました。
今回は、採用した人材をどのように育成するべきかについて、多くの生産法人様や農家様との面談を通して感じたことや、私自身がマネージャーとして部下と関わる際に意識していることをお伝えします。
明確な評価指標が社員の成長を促す
人材の定着には心理的安全性が高い職場をつくることが重要である旨、前回記事でもお話しさせていただきましたが、これは人材の育成でも然り。従業員が不安や不満を感じることなく安心して働ける環境が社員のモチベーションになり、自発的な行動と成長につながってくると言えます。
仕事や成果が正当に評価される環境
この心理的安全性が高い職場を作るには、単に従業員のストレスを取り除く働きかけをするだけでなく、こなした仕事や成果が正当に評価される環境であることも重要です。
特に農業分野では、手順が固定化されたルーティンワークが主で、個人の工夫や取り組みが見えづらく、貢献度を推し量ることが困難でした。そんな中、私が北海道エリアの営業を管轄していた当時、ユニークな方法で従業員の貢献ぶりを見える化していた農場の取り組みに感銘を受けたことを、つい昨日のことのように覚えています。
この農場では平素の業務内容を細分化し、独自に作成した「成長支援シート」を活用しながら、それぞれやるべき業務に対してどれほど貢献できたか、前年と比較してどう成長できたか等を数値化する取り組みがなされていました。
従業員自身が今年1年に手掛けた業務の自己採点をし、上司との面談を経て、点数(評価)が決まっていく仕組み。毎年の「成長支援シート」を見返すことで、自身がどのようにスキルアップしているかが一見してわかるようになっています。
明確な評価指標の重要性
このように「やるべきこと」と「できたこと」を明確化することは、スタッフを正当に評価し、さらなる成長を促す上で非常に重要。人は評価が見えないことや、評価の背景が見えないことに不安や不満を覚えます。
満足度の低い職場の最たる例は、賃金や労働時間等の条件面ではなく、評価が正当になされていないことにあります。対して、何かを達成したことで承認が得られ、正当に評価されることで従業員の満足度はぐっと上がります。仕事を通じて、自己の成長が実感できる環境であればなおのことでしょう。
前出の農場では、スタッフが真剣な面持ちながらも、エネルギッシュに仕事に打ち込んでいる姿が印象的でした。スタッフを長期的に育成し、地域の担い手として育て上げるという観点でも、重要な指標となると言えます。
私がマネージャーとして大切にしていること
私自身、農業活性事業部の営業部長として部下を育てる立場にいます。指導育成は、営業部の目標管理と並ぶ重要な任務。部下を育て上げるにあたり、私は以下の2つを意識して接するように心がけています。
(1) その人の特徴をよく知る
(2) 求めていることの言語化と時間軸を設定する
それぞれのポイントについて、解説していきます。
(1) その人の特徴をよく知る
相手を理解するためには「観察」と「対話」が不可欠。ここで最も重要なのが、綿密にコミュニケーションをとることです。適性を見出すとともに、その人に合った指導を行うことにもつながるためです。
私が部下とコミュニケーションをとる中で大切にしているのが、1対1での対話を指す『one on one』。目標の達成に向けて、その人に合ったやり方、その人がやりたいやり方があるからです。その人にどういう言葉を投げかけるかで、その人のパフォーマンスが変わってきます。
この人とは何でも話せるという信頼や安心感は、コミュニケーションの中からしか生まれません。みんなでワイワイするようなコミュニケーションではなく、1対1でどれだけ腹を割って話せるかが、その人の特徴や考えを知るために最も有効な方法だと考えています。
(2) 求めていることの言語化と時間軸を設定する
その人がどういう人で、どんな考えを持っているのかを知った後は、それらを踏まえた上で求めていることを言語化し、どれくらいのスピードで目標にたどり着いてほしいのかを明確にします。
人によって経歴や年齢はまばらで、成長のフェイズもさまざま。そこで私が心がけているのは、部全体で同じ目標を追っていても、相手によって話題や話し方を変えることです。その人の特徴だけでなく、置かれている状況にも合わせるのです。
例えば、将来的に内勤を希望しているAさんには、部内での新しい施策や企画の相談をすることもしばしば。平素の業務では、営業エリアの特性を踏まえて「営業予算は何がなんでも〇〇までに必達ね!」と伝えることが多いです。
一方、営業職としてキャリアステップしたいと考えているBさんとは、営業メンバーの育成や部の方針等を議論することが多く、営業予算をクリアするために求める役割も異なります。
このように、その人のキャリアビジョンを踏まえれば、当然アプローチの仕方やコミュニケーションも違ってきます。加えて、目標に到達するためにクリアすべき課題等も明確にして伝える必要があるでしょう。
コミュニケーションは、意見の押し付けではない
ここまで、人材を育成する上ではコミュニケーションが不可欠である旨、お話してきました。ここからは、ついついやってしまいがちな失敗例をご紹介します。
まず、自分ばかりが話をしてしまっている人は要注意です。特に1対1で部下と話す際は上司ばかりが意見を述べるだけでなく、部下が自発的に話すことが大事。一方的に話をしている人は、トップダウンの押しつけに終わってしまっている可能性があります。
評価する側がどれだけ仲良くしていると思っていてもされる側から見ると、対等の関係はあり得ません。上に立つ人や評価をする人は、よほど気を遣って相手が話せる環境をつくらなければならないと思います。
もう一つが、実務を通して業務を学んでもらう「OJT」と、単なるコミュニケーションの不足を混同してしまうこと。特に「見て覚えろ」、「体で覚えろ」という言葉が浸透している環境は要注意です。
こうした例は農業の現場でよく目にしますが、いささか乱暴な話だと私は思います。雇用した以上はどうやって育てるかを計画して実行していくのが、経営者(雇用者)の責任です。
コミュニケーションの厚さは、よい組織や会社をつくっていく基本にもなります。経営者自身が、これから会社をどうしていきたいか言葉に落とし込んで従業員に伝えていくことも、人材育成には必要な要素だと思います。
次回、シリーズ『人材のプロが見る、農業の課題と光明』VOL.4では、「人材採用とデジタル」というテーマでお話させていただきます。
農業総合情報サイト『マイナビ農業』 https://agri.mynavi.jp/
シリーズ『人材のプロが見る、農業の課題と光明』のその他のコラムはこちら
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されております。
公開日