(株式会社マイナビ 農業活性事業部中央営業部長 佐々木 康人)
こんにちは。株式会社マイナビの佐々木です。本シリーズでは農業経営の要となる人材戦略の考え方を述べてきました。今回は採用意欲があるにもかかわらず、人が集まらない理由を深堀りしたいと思います。
第2回でお伝えしたように、農業法人様も他産業と同じ採用マーケットという土俵で戦う必要があります。その戦術に欠かせないのが、デジタルの活用です。
採用マーケットはインターネットの世界にある
スマート農業やEコマースなど、農業の生産や流通、販売にはデジタルが浸透してきました。
一方、採用に関してはどうでしょう? 他産業や一般企業と比べるとかなり遅れが目立ちます。その背景には、これまでの慣習として、求人がハローワークや知人の子息でまかなえてきたことがあると思います。
しかし少子高齢化や過疎化が進んだ今、どこも深刻な担い手不足に直面しています。もはや地域だけで十分な人材を確保することが難しくなり、より広いエリアから人材を集める施策を考えなければなりません。その基盤となるのがインターネットです。
ホームページがない・古いでは戦えない
以前お話させていただきましたが、私が農業活性事業部で営業していて驚いたことの一つが、有力な農業法人様であっても採用サイトを持っているのは少数で、ホームページ自体がない法人もあったことです。
今の時代、インターネットを使わずに就職活動をしている求職者はほぼいません。若い人であればなおさらです。ホームページを持たない会社は採用マーケットに存在しないことと同じなのです。
ホームページがあっても、長く更新されていない「古い」印象を受けるものもあります。デザインのトレンドもそうですが、ページの「魅せ方」がターゲットにマッチしていないと、法人が伝えたいメッセージは正しく伝わりません。
せっかくホームページを訪問してもらっても、時代遅れで古い体質なのかと思われたら逆効果です。さらに言えば、デバイスがパソコンからスマートフォンにシフトしているので、発信する側はスマホの中での見え方を意識することも大事です。
HPはメッセージを伝える場所
弊社が提供しているような求人サイトを利用してくださる農業法人様も増えていますが、そこに掲載すれば自社のホームページがいらないわけではありません。求人サイトを見た人が応募を検討する際、必ず一度は法人のホームページを検索して情報収集しようとします。
商売上で必要としないのなら無理もありませんが、採用マーケットで戦うのであれば、法人のメッセージや情報を伝えるためにホームページを整えておくことが先決です。そのために、プロの手を借りることも選択肢の一つだと思います。
私たちがお手伝いした事例を一つご紹介しましょう。北海道のある農業法人では、ホームページはあったものの、長年更新されておらず、先代が考えたメッセージが掲載されたままになっていました。
経営を引き継いだ新しい代表が挙げた課題として、人材を募集してもなかなか集まらないということがあったため、先代のメッセージをブラッシュアップしていま現在訴えたいことを明確に打ち出すことにしました。
さらに、そのメッセージに紐づいたロゴマークを制作して法人を象徴するアイコンとしてページ上で活用し、イメージを刷新。その後は、若い人材を採用できていると聞いています。
採用に繋がるSNSとオンラインの使い方
ホームページを作ったけれど採用が振るわないという悩みをよく聞きます。ホームページを作ったということは、ただ土俵に上がったというだけのことです。採用マーケットで勝ち残るためには技を繰り出さなければなりません。
全員に情報やメッセージが届く必要はありませんから、届けたい人に届ける方法を一緒に考えていきましょう。ポイントは、求職者の目線に立って考えることです。
求職者にホームページを見てもらうには、求人サイトなどの広告媒体を使う方法もあれば、合同説明会などのイベントで認知してもらう方法もあります。
特に若い人材にリーチしたいのなら、時代に合ったツールを選ぶ必要があります。それは、SNSとオンライン面談です。
求職者は日常を知りたがっている
若い求職者には職場の雰囲気を知りたいというニーズがあります。SNSは日常を手軽に発信できることから、そのニーズに応える手段として活用することができます。また、画像や文章を効果的に使って現場の雰囲気を伝えることは、採用のミスマッチの防止にもつながります。
ただ、SNSと一口に言ってもさまざまな種類があり、用途やターゲットによって使い分ける必要があります。
たとえばFacebookはホームページとして活用している農家さんも多いと思いますが、Facebookのユーザーは40代が中心なので、若い人を採用したいと考えた場合はターゲットに訴求できない可能性が高いです。一方で、写真や動画が中心のInstagramは若いユーザーが多いことが特徴です。
若い人たちは就職にあたり「どういう人と働くか」「自分が働くイメージが持てるか」の2点を重要視しています。働く環境や雰囲気を伝えるために、ぜひSNSに人の写真や動画をアップしてください。
写真に抵抗がある方は、Twitterでおもしろく興味をそそるコメントをつぶやくのもありです。SNSを活用して採用ホームページに誘導しましょう。
オンライン面談がハードルを下げる
オンライン面談をどれだけうまく使えるかも鍵です。一般企業でも、今どきオンライン面談もできないようでは、求職者から敬遠されてしまうと聞きます。
ましてや遠方の農場こそ、求職者がいきなり訪問するにはハードルが高いはずです。最終段階として農場に足を運んでもらうまでの、情報が目に留まり、興味を持ち、働きたいと思ってもらうプロセスに、デジタルをうまく活用してほしいです。
SNSを含めオンラインをうまく使って求職者と繋がっていくのが、今の時代に効果的なやり方です。
若い世代ではYouTubeやInstagramを検索エンジンのように使って情報を探す人も増えています。これらのSNSで求職者の興味を引いて、ホームページに誘導することを考えたいです。
興味を持ってくれた人には随時Zoomで相談を受け付けるなど、コミュニケーションが取りやすい環境作りにもデジタルを活用することができます。
ツールを積み上げてコミュニケーションをデザイン
採用におけるデジタルの活用とは、自社のホームページをベースに、そのほかのアプローチを積み上げていくイメージで考えましょう。ベースの上に、情報発信や求職者とのタッチポイントとして各種SNSやWebサービス、オンライン面談を加えていきます。
コロナ禍でコミュニケーションのオンライン化が進み、誰もがその便利さに気づいています。適切にオンラインを活用して、求職者とのコミュニケーションをデザインしていきましょう。
農業法人こそ積極的にデジタルを取り入れるべき
コロナ禍で全体の求人倍率は下がりましたが、コロナ後の日常を取り戻そうと各産業で採用の動きが活発化しています。他産業と競争が激しくなる中で人材を獲得するためには、まずデジタルの世界で土俵に上がらなければ始まりません。
デジタルの世界はもはや日常です。ホームページを整えて土俵に上がったことで満足するのではなく、そこからどうやって抜きに出るかを考えたときに、最も身近で即効性を感じやすいツールがSNSです。
動画や写真を毎日アップするのは大変ですが、手間とお金を惜しんだら人は採れません。毎日、作物に水をあげるのと一緒だと思ってください。
デジタル化の進展に地域差はないと感じています。地域に拠点を構える農業法人にとってこそ、デジタルは採用マーケットで戦う有効なツールになるはずです。
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