(YUIME株式会社 取締役 江城 嘉一)
私がかつて営業に伺った九州の農家さんで、こんなことがありました。
「別の派遣会社と、すでに外国人労働者の雇用手続きを進めているんです」と断られました。そこで「なんという会社から派遣されるご予定ですか」と尋ねたところ、聞いたことがない社名でした。農業人材の派遣を業務とする会社は、今のところ全国に10社程度しかありませんが、どの会社でもなかったのです。
(偽造パスポートの外国人を働かせていた場合、雇用主である農家も責任に問われることがある(写真はイメージ))
入管に確認してみると……
「これは違法スレスレのグレーゾーンかもしれない」
そう思った私は、「ご迷惑がかからない範囲で、私から入管(出入国在留管理庁)に確認してみます。問題ないようなら、そのまま雇用手続きを進めてください」と申し出ました。
その結果、本来なら就労してはいけない資格で働こうとしていたことがわかりました。おまけに、前の職場から失踪していて捜索願いが出されている人物であることも明らかになったのです。
たとえ知らなかったとしても、そのような人物を雇用したとなると、農家にもペナルティが課せられ、この先、外国人材を5年間は雇用できなくなります。幸いにも、正式な就業前だったので入管に相談して、事なきを得ました。
雇用していた農家さんにしてみれば、まさか?の事態です。特にこのケースでは、ふだん世話になっている信頼できる相手から紹介された派遣業者だったこともあって、わざわざ確認は取っていませんでした。
紹介した人も、違法業者とは露ほども疑っていませんでした。そもそも一般人にとって、入管に連絡したり、在留カードを確認すること自体、ハードルが高いものです。
悪質な違法業者ではないか見極めるのが大切
この連載でもたびたび述べてきましたが、YUIMEは沖縄でのサトウキビ事業での実績が評価されて、2019年に国家戦略特区の「特定機関」として認定を受けました。その結果、技能実習生を3年間経験した外国人を、「特定技能1号」の在留資格を持った労働者として派遣することが認められたのです。
従って、入管とのコンタクトは日常業務のひとつですから、在留資格を確認する作業もなんでもありません。
農家さんが取引していた業者からビジネスチャンスを奪おうとしたわけではありません。派遣単価が安いからと言って、そうとは知らずに違法業者を使っていると、そのあおりで農家も被害を受けるし、そんなことになれば、地域全体にも悪影響が及びます。
当初、その農家さんは私たちのほうを疑っていましたが、電話アポイントで営業にやってきた初対面の業者なので、無理もありません。でも、農家さんご自身と地域のためを思って、入管への確認作業を代行し、真相が判明するとすっかり信頼してくださるようになりました。今も変わらず、人材派遣の依頼をいただいています。
また、別の大手外国人派遣業者は、派遣先の農家に作業がない場合、近隣の農家の間で、勝手にひとりの外国人スタッフを持ちまわりしてもいいと推奨していました。しかし、委託や請負契約を結ばずに進めた場合、労働者派遣法などの法令に抵触する可能性があります。
昨今、コロナ禍で仕事が減った在留外国人の苦境につけこむ悪質な業者が後を断ちません。人材派遣会社の選択では、まず注意すべきことです。私たちは、人材派遣サービスを受ける農家への啓蒙活動も担う責任を感じています。
(北海道の農業法人のジャガイモの選果場で働くYUIMEのスタッフ)
短期ではなく長期でつきあえる会社かどうか
では、どのような観点で人材派遣会社を選べばよいのでしょうか?ひとことで言えば「短期ではなく長期でつきあえる会社かどうか」だと思います。
当初の見積もりでは一人あたりの外国人の派遣単価は安いけれど、管理費その他もろもろの諸経費が上乗せされると、結果として高額な請求をされた——————これはよく聞く話です。
このような派遣業者は一時的な収益を上げることのみ固執しており、クライアント農家の先行きなどはまったく考えていません。農家にとって長くつきあえる会社でないことは明らかです。
逆に標準価格を下回る設定の派遣会社もあります。一見、農家にとって良心的です。しかし、本当にその粗利の範囲内で、派遣社員の有給休暇などをカバーできているのでしょうか?
強固なバックボーンの資本を背景にして、当初は赤字覚悟で事業に乗り出しているケースもあるでしょうから、軽はずみなことは言えませんが、そのような破格の設定をいつまでも維持できる保証はありません。
万が一、その派遣業者のブラック企業的な体質が広く明らかになった場合、コンプライアンス違反などで農家も地域も多大な不利益を被ります。
(YUIMEでは外国人スタッフがその地域に早く馴染むためにも、自治体に挨拶する機会を設けることもある。写真は北海道の豊頃町訪問のようす)
派遣スタッフと正社員が共に農作業をしているか?
ある農家さんがYUIMEの農業人材派遣サービスを選んでくださった理由として、次のようなことを挙げておられました。
「YUIMEでは、派遣スタッフと共に社員も農場に来て一緒に作業をしてくれる。だから仕事の内容が、スムーズに派遣スタッフに伝わりやすい」
たいていの人材派遣業者は、スーツを着た正社員と農作業をする派遣スタッフは完全に別部隊です。派遣スタッフが変わるたびに、作業手順をいちいち教えなければならないので農家の負担も大きいのです。
派遣会社の枠におさまらないYUIME
その農家さんは、もともと「派遣では農業はできない。けれどもやむをえず使っている」という考えの持ち主でした。なぜなら農業は長期戦です。毎年毎年同じことを繰り返しながら、ノウハウを蓄積しなければいけません。次の年にまた来るかどうかわからない派遣スタッフに対して、じっくり根底から教育をしても無駄なことです。
その通例を打ち破ったのがYUIMEです。派遣スタッフを統率する現場リーダーの社員にノウハウが蓄積されています。
(リーダーが現場についてくるので、ノウハウが蓄積されていく)
「YUIMEは派遣会社の枠にはおさまらない」。農家さんのこの言葉は、弊社が「人材派遣」ではなく「人材支援」と呼んでいる事業の内実を裏打ちしてくださいます。短期で終わる「派遣」ではなく、長期で農業を「支援」する会社として信頼いただいている証です。
次回はいよいよ最終回。人材支援サービスの提供を通じて第一次産業の未来をどう切り拓くか、YUIMEの描くビジョンについて語ります。(聞き書き:佐々木聖)
シリーズ『「人材支援」が結ぶ 経営と就農の新しい道』のコラムはこちら
YUIME(ゆいめ)は、農業の人材派遣・農作業受託を中心に第一次産業をサポートする企業で、産地間連携を基軸に作られた農業人材支援体制、サービスを提供しています。私たちは、全国の農家・事業者の必要な時に、必要なだけの労働力を支援します。また、登録支援機関として外国籍人材を受入れる企業が行うべき義務的支援を受入企業に代わり行うことも可能です。労働力不足でお困りの方は、コチラよりお気軽にお問い合わせください。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されております。
公開日