((一社) 農業利益創造研究所 理事長 平石 武)
はじめに
「農業利益創造研究所」は、全国約10万件もの農業会計データを扱っている農業簿記ソフトのトップメーカーである「ソリマチ株式会社」から、統計利用を承諾してもらった会計ビッグデータを提供してもらい、分析した「所得向上の気づき」を情報発信しています。
2020年農林業センサスによると、正規の簿記による青色申告を行っている農業経営体数は20万8千経営体(全体の19%)であり、まだ少ない状況です。簿記は申告をするためだけでなく経営分析や地域全体の動向を把握するなど、農業経営を改善するデータとして有効活用できます。
このコラムでは、2020年度の16,500件の個人事業農家データを集計し、高所得農家にはどのような特徴があるのか、所得アップするにはどうすれば良いか、というヒントを3回の連載で提示させて頂きますので、農業者の方はご自分の経営と比較しながらご覧ください。
会計データで農業経営や農業情勢がわかる
会計データから農産物販売金額別・地域別に農家数を集計しました。
2020年農林業センサスによると販売金額1,000万円以上の農家が全体の12%なのに対して、農業簿記ソフトを利用する農家は55%(14,915件のうち8,000件)であり、中〜大規模農家が多いこと、それから、北海道は大規模農家がかなり多いことが把握できます。
当研究所では、個人農家の利益を「青色申告特別控除前所得+専従者給与」という「世帯全体の農業所得」と定義して分析しています。
世帯農業所得別の地域別農家数は以下のようになりました。
厚生労働省による2019年の「国民生活基礎調査の概況」では、日本全体の平均世帯年収は552.3万円だそうです。平均年収より多い所得700万円以上の農家が全体の30%もいる(特に北海道はその割合が多い)ことがわかります 。
営農類型別の世帯農業所得
普通作(稲作+大豆・麦)、野菜、施設園芸、果樹、酪農、肉用牛、の6つの営農類型別に一農家平均の世帯農業所得額と世帯農業所得率を分析してみました。
(世帯農業所得率は、所得を収入金額で割った率であり、高いと費用対効果の効率性が良いということです。)
土地利用型の普通作と野菜は所得額が高く、労働集約型の施設園芸や果樹は所得額が若干低くなっていますが、果樹は所得率がかなり高くなっていて、付加価値が高い効率的な作目であることがわかります。また、酪農(北海道の農家が多い)の所得がとても高く平均で930万円というのは驚きです。
年代別の世帯平均年収
全データの事業主の平均年齢は56歳です。2020年農林業センサスによると67.8歳ですから農業簿記ソフトを利用する農家は中堅クラスが多いことがわかります。
年代別に世帯農業所得と所得率を分析してみました。
一番所得が高いのは40代の610万円です。30歳の経営者はまだ経験が浅いからなのか所得額も率もこれから、という実態です。但し、30代の所得率が高いのはなぜなのか、興味をそそられます。そして、60歳以上は経営を徐々にフェードアウトしているのかもしれません。
前述したように、日本の平均世帯年収は552.3万円ということですので、30〜59歳までの働き盛りの農業簿記ソフト利用農家は他産業に負けない世帯年収であり、たのもしい限りです。
所得率が高い都道府県トップ3
ビッグデータを分析すると都道府県別にも分析することができます。地域でブランド化し付加価値を高めて高収益を目指す都道府県は、作目が競合するライバル産地は気になるところです。
農業所得額の大小でランキングするのは、たまたま所得額の大きな大規模経営のデータが存在するだけで平均額が大きく変わりますので、今回は農業所得率で判断し、収益性が高く効率の良い経営を行っている農家が多い都道府県のトップ3を算出しました。
(あくまでも農業簿記ソフトユーザーの集計であり、農家数がごく少数の都道府県は有効なデータでは無いと判断し集計からはずしました。)
なるほど! と思う都道府県もあれば、意外な所もあるかもしれません。具体的な理由は掘り下げることはできませんが、何かしらの要因があるのだろうと思います。
例えば、普通作の所得率3位がなぜ京都なのか?
データを調べると他県と比べて、減価償却費と地代賃借料が低いことがわかりました。
野菜の1位が山梨県?
もしかしたら、野菜メイン+少しの果樹との複合経営が多くて儲かっているのかもしれません。
まとめ
農業会計ビッグデータを使って、営農類型別、年代別、都道府県別の分析を行いました。農業はまさに天候と地域と作目と技術、を最大限に組み合わせることで利益を生み出すものだと思います。それらの要素を最適に組み合わせるのは、経営を計画し創意工夫する経営者です。
データを活用し、儲かる要因を知り、自分の経営と照らし合わせながら良い所を取り入れることで確実に優良経営になっていくのではないかと思います。
次回からは、全国の農業経営データを分析し、儲かる農業経営はどんな特徴があるのかを探ってみたいと思います。
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