（(一社) 農業利益創造研究所 理事長 平石 武）
はじめに
「農業利益創造研究所」は、全国約10万件もの農業会計データを扱っている農業簿記ソフトのトップメーカーである「ソリマチ株式会社」から、統計利用を承諾してもらった会計ビッグデータを提供してもらい、分析した「所得向上の気づき」を情報発信しています。
このコラムでは、2020年度の16,500件の個人事業農家データを集計し、高所得農家の経営に着目した３回の連載を提示させて頂きますので、農業者の方はご自分の経営と比較しながらご覧ください。
２回目の今回は、高所得農家の経営内容の特徴を分析してみたいと思います。
高所得な経営とは
所得を増やすにはどうしたらよいか、それを考えるには所得構成を分解するとわかりやすくなります。
所得＝収入（農産物売上＋雑収入）― 経営費（生産原価＋販売・管理費＋雑費）
収入を上げるためには、収量アップ（地域に合った作目と技術）と単価アップ（品質、加工、ブランド化）を追求し、継続的にお付き合いできる販売先を見つけることです。
経営費を下げるには、規模拡大による固定費分散、ち密な管理による変動費低減、効率化による人件費低減などが考えられます。
しかし、農業生産は地域や気象、農地など様々な要因に影響されるため工場内での工業製品のように計算通りの生産は困難です。地域別に作目別に優良経営のパターンを分析し、参考にし、気づいて、やってみて、課題解決しながら成長していく、ということが重要と思われます。
今回は、会計データからすべての地域、すべての作目の優良経営の特徴を分析して提示することはできませんので、高所得の「野菜経営」に絞って分析してみたいと思います。
高所得な野菜農家の特徴
全国の野菜農家5,283件のデータを分析し、全体平均と、世帯農業所得率（農業所得＋専従者給与を収入金額で割った率）が低い（10〜15%）農家324件と、高い（50%以上）農家346件の経営費と所得額を、収入金額計を100とした比率にて比較分析してみました。
グラフを見ると視覚的に所得率50%以上の高所得率農家がいかにすごい所得なのか驚いてしまいます。低所得率農家の収入金額の平均は2,421万円、所得金額は307万円、高所得率農家は1,417万円と794万円なので、経営規模が大きい農家の所得額が高くなるわけではない、ということが把握できます。
もう少し掘り下げて、販売金額と費用金額の構成を見てみましょう。
所得率50%以上の農家は、ほとんどすべての費用が少なく抑えられていることがわかります。
なかでも、減価償却費(5%)、雇人費(2%)、荷造運賃手数料(8%)が低く抑えられています。
収入金額に1,000万円の差があるので単純に金額をそのまま比べることはできないのですが、低所得率農家の減価償却費は256万円、高所得率農家は77万円であり、雇人費は192万円と23万円、と差が顕著に出ています。
さらに、販売金額では、低所得率農家の稲・麦・大豆の売上が150万円、高所得率農家は38万円です。
もしかすると、低所得率農家は稲などの作目を作付けしていることにより、農機具を買いそろえて減価償却費が高くなっているのではないか、そして色々な作目を作付けることで人を多く雇っているのではないか、そして結果として売上額は高くなったとしても費用が余計にかっかっているのではないか、と想像できます。
もしそうであれば、規模拡大や複合化によって売上を上げることを目的とするのではなく、所得を上げる経営を考えるべきです。
高所得露地野菜農家が多いNo.１都道府県は
露地野菜農家の世帯農業所得率のNo.1都道府県はなんと山形県（44.2%）でした。第2位は埼玉県の39.9%なので、いかに高いかがわかります。
さらに山形県の野菜農家の中で、メロン農家の世帯農業所得は970万円、所得率が46.4%と高く、メロン農家が儲かっているのではないか、という実態が見えてきました。
メロンの産地と言われている北海道と熊本県を比較してみましたが、所得率46.4%は本当にすばらしいです。
なぜ、このように所得率が高いのか経費の分析をしてみました。すると、以下の表のように、生産原価が低く抑えられていることと、収入金額に対する荷造運賃手数料が異常に低くなっていることがわかります。
荷造運賃が低いのは、通販による販売が少ないのか、直売所での販売が多いのか、ＪＡ出荷が多いのか、など詳しい理由はわかりませんが、なんらかの工夫があるようです。
山形県のメロンは、庄内地域が有名であり、強い風から守る防砂林に囲まれた砂丘地にて栽培されています。 水はけの良い砂丘地はメロンには好都合です。そして日中の強い日差しと、夜の涼しさ、そして地下水、いくつもの条件が合致しているようです。
高所得農家は、栽培に適した立地、気候などとマッチした農産物を作付けて、産地をブランド化しながら経費を抑える工夫をし、効率的に生産しているということがわかりました。
まとめ
高所得の経営は、こうすれば良い！ と一言で言えるほど農業経営は単純ではありません。しかし明らかに言えることは売上額を上げることが目標では無く、所得を増やすための経営をする、ということです。その方法は地域や作目によって変わってきますが、それを判断する時に重要なのが経営のデータと、それを見て判断する経営能力です。
今回提示したデータを参考にし、自分の経営と照らし合わせながら経営計画を立ててみてください。
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当該コンテンツは、一般社団法人 農業利益創造研究所の分析に基づき作成されています。
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