(株式会社マイナビ 執行役員 農業活性事業部事業部長 池本博則)
こんにちは、マイナビの池本です。2022年が始まりました。本年もよろしくお願いいたします。昨年を振り返ると、前年以上に新型コロナウイルスの感染拡大に翻弄された一年でした。コロナ禍が長引く中で、農林水産省による緊急支援対策事業なども講じられ、こうして新しい年を迎えています。
いまだ先行きは見えないものの、2022年に農業界にもたらされるであろう変化に農業経営者はどう対応すべきかをお伝えしようと思います。
人と会えない状況で、「情報発信」が注目された2021年
新しいやり方への変化と挑戦
2021年は、新型コロナウイルス感染拡大により人の移動や交流が制限され、農業界も大きな影響を受けました。外食産業への販路が止まる危機に直面した生産者も多いのではないかと思います。
一方で、販売面では直売サイトが話題になるなど、新しい販路の開拓や売り方の工夫をしたり、SNSやYouTubeを使った情報発信したりするなど、新たな挑戦もあった年だったのではないでしょうか。
東京オリンピック・パラリンピックもコロナ禍での開催となりました。GAPや有機JASの認証取得に取り組んできた生産者の方々にとっては、本来であれば海外に日本の農産物をアピールする場になるはずでしたが、思うような成果には結びつかなかったかもしれません。
ただ昨年12月には、日本GAP協会が選手村で取り扱われた品目の情報開示をスタートしました。安心・安全な農産物をアピールできる機会は着実に増えていますから、商品ブランディングに繋がる機会を逃さないようにしたいですね。
このコロナ禍では、人と“対面”で会えないからこそ、「情報発信」が一つのキーポイントになりました。商品の魅力をどう伝えるか、どういう形で買ってもらうか、どういう形で集めるかが試されました。そこに挑戦された方にとっては、新しいやり方に変わることができた年になったのではないでしょうか。
いまある魅力を「伝わる魅力」へ
今回の一連のコラムのテーマでもある「農業で働く人たちを増やす」ことは、話題になっているものの、実際には人が動いていない状態が長く続いています。
農業振興では、就農イベントや説明会をオンライン開催に切り替えたケースも多かったと思います。商品の販売で取り組まれたように、求人のコミュニケーションにもオンラインの活用が必要です。
昨年、マイナビでは一次産業専門求人サイト「マイナビ農林水産ジョブアス」を立ち上げました。コロナ禍で地域に行けない、人と会えない、外国人実習生が来られないという状況もあり、慢性的な人手不足になることが予想され、求人サイトを立ち上げるならこのタイミングだと判断して予定よりも前倒しでオープンしました。
立ち上げから数か月が経ち、農業法人様からマッチングできた、人が採れたという声も聞こえています。「ジョブアス」で就農希望者と出会うきっかけをつくり、マーケットの活性化に貢献できればと思っております。
私が「ジョブアス」を立ち上げてよかったと感じるのは、生産者の方々に自ら原稿を書いて求人広告を作っていただいたことです。農園・農場の魅力を改めて言葉にしていただき、他との差別化を打ち出してもらうことで、いまある・持っている魅力を「伝わる魅力」にするプロセスを提供することができました。
人材採用は経営戦略の大事な根幹です。厳しい社会情勢の中でも、私たちにとっては、その第一歩を踏み出せた一年でした。
2022年は地域連携と情報収集がキーワード
変異株など未だに不安な点はあるものの、昨秋頃からワクチン接種が進んで行動緩和が進み、私たちは少しずつ日常を取り戻しつつあります。
就農希望者に実際に地域に来て農業を体験してほしいというニーズが多くありますので、感染症が収まれば、2022年の農業界はより人が動き始めるフェーズになると思います。
地域の動きをつかみ、地域とともに成長する!
2022年の農業は、「地域」がキーワードになると感じています。農林水産省では新規就農支援を大幅に見直して、農業次世代人材投資事業(経営開始型)に代わる新制度の運用を、2022年度から開始します。これから農業を始める方にとって、新制度は現行制度と比べ、さらに継続して農業へ取り組めるようになることが期待されます。
また、JAバンクやJA全国中央会ではコンサルティングに力を入れて地域の農業を強くする動きが始まっています。こうして地域が盛り上がるということは、採用に関してもチャンスがどんどん増えているということです。
約15年前のリーマンショックでもそうでしたが、社会不安で経済が落ち込んだとき、国や自治体の政策は一次産業に大きく舵が切られてきました。その波に乗って生産者のみなさんが経営を成長させるために、人の採用や販路の拡大を考えるのは大事なことです。
特に農業は地域の代表だと思いますので、地域がやろうとしていることや求めていることを共有しながら取り組むことで、地域と共に大きく成長できるでしょう。
「伝える」と「知る」の両面から対策を!
就農の多くは移住を伴うため、人流が戻ったらその動きが一気に活発になると予想されます。人が動くということは、すなわち地域が動くということです。
人材採用においても地域の支援を得られる可能性があります。新規就農や移住を検討する人にとって、地域は魅力的でなければなりません。その連携ができるよう、農業経営に携わるひとりひとりがコミュニティに耳を傾けることも大事なポイントになってきます。
地域では、農業体験や現地説明会の企画、農業実習のためのセンター設置などの動きも活発になってきています。弊社の営業担当にも農業振興に関する支援案件が増えており、全国で移住新規就農者受け入れの機運が高まっていると感じます。
地域の中での採用にとどまらず、全国から地域に人が来ることになります。明らかに母集団は集まってくるので、受け入れ側もその整備が必要ですし、求職者のみなさんにもぜひアクションを起こしてほしいと思います。
もし、新型コロナウイルスの流行が続いたとしても、どうか農業経営者のみなさんは止まらずに進み続けてください。
コロナ禍でたとえ動くことができなくとも、この1、2年の振り返りをし、流通計画や人材採用戦略の準備に目を向けるいい機会になると思います。追加の緊急支援もあるはずですので国や行政の情報を確認して、いずれにしても「伝える」と「知る」の両面から対策を講じていく形になると思います。
地域を代表する農業へ
新型コロナウイルスが落ち着いて日常に戻ったとき、農業にとって大きなチャンスが来ます。それは同時に他の産業や地域にとってもチャンスであるということで、競合も熾烈になると予想されます。それでも、あなたの農業があなたの地域を代表していくことを忘れないでください。
地域活性化では農業振興が大きな役割を担います。自分の農園や牧場の何が強みなのかをもとに採用戦略を考え、地域がどういう形で就農支援の取り組みをしているかを知り、自治体やJAと対話をしながら地域を盛り上げ、魅力的な新規就農者を集めましょう。他と同じではなく特色を持たせるために、自社も地域も魅力あるものにしていってください。
ここ1、2年はコロナの影響を受け、その前には豪雨や台風に見舞われるなど、この数年は農家にとって試練となるようなことが続いているような気がします。今年は1年を通して、農業をはじめ一次産業に携わる人たちにとって幸せな一年になり、日本中が元気になることを祈っています。
シリーズ『人材のプロが見る、農業の課題と光明』はこれが最終回です。半年にわたってお読みいただき、ありがとうございました。
農業総合情報サイト『マイナビ農業』 https://agri.mynavi.jp/
シリーズ『人材のプロが見る、農業の課題と光明』のその他のコラムはこちら
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されております。
公開日