(株式会社ルートレック・ネットワークス)
前回のコラムでは、20世紀末における国内の環境制御技術や環境制御機器について、ご紹介しました。21世紀に入っても国内の状況にはさほど変化はみられず、一方でヘクタール規模の大規模施設の建設が20世紀末より徐々に始まっています。
そこにはオランダ式のハウスや栽培技術、環境制御技術など、オランダの施設園芸の影響が色濃くありました。第二回では、オランダの施設園芸の影響について流れを追ってまいります。
大規模施設の建設とオランダ施設園芸の影響
トマトにおける主な大規模経営の導入経緯
文献1)には「トマトにおける主な大規模経営の導入経緯」として、1991年から2006年までに導入、トマトを生産開始した大規模施設が紹介されています。
前回ご紹介した栃木県のグリーンステージ大平や、岐阜県のサンフレッシュ海津、福島県の新地グリーンファームなど、施設園芸生産者の経営もの、オムロンやカゴメの関連会社など、企業参入によるものが示されています。
多くはフェンロー型と呼ばれるガラス被覆の高軒高ハウスを建設し、トマトを高い位置から誘引して光環境や作業性を向上させるハイワイヤー栽培を行っていました。
▼写真‐1 オランダ型の大規模施設(高軒高ハウス)によるトマトのハイワイヤー栽培
ハウスの資材や栽培装置などもオランダからの輸入品が多く、環境制御装置もオランダPriva社の製品が多く使われていました。
Priva社の環境制御装置は、広大なハウスをいくつかの区画に分割し、おのおのに独立したセンサー類と換気やカーテン等の制御系統を持つものでした。
またハウス内環境だけでなく、暖房用の複雑な温湯循環系統の制御や、液肥混入機、潅水装置の制御も行えるものでした。
こうした様々な制御機能は国内製品にはなく、かつヘクタール単位での大規模施設の制御を行える製品は、オランダ製のものしかなかったと言えます。
また制御装置の価格や工事費も高く、大規模施設でなければペイできなかったでしょう。
そのオランダでは、施設の大規模化に伴い環境制御装置が普及したものと思われます。
環境制御装置の黎明期
文献2)には1970年代のオランダのコンピュータによる環境制御装置の黎明期の様子が紹介されています。
当初はアナログ式制御装置が利用されていたものが、「最近の大規模温室の環境調節にはアナログ式では原価が高くつきすぎ、温室規模が1ha以上であれば、小型コンピュータを利用するほうが安価であることが多いという。」とあります。
オランダにおける施設園芸の推移
文献3)には「オランダにおける施設園芸の推移」として、野菜における平均規模が1980年の0.59ha/戸から1998年には1.05ha/戸と、拡大が示されています。
同文献には、1999年において「温室における主な野菜の生産品目はトマト(施設野菜の約27.4%)、パプリカ(同26.2%)、キュウリ(同16.2%)である。」とあり、また「現在ではこれら果菜類のすべては養液栽培によって生産されており、施設栽培のうち養液栽培の占める面積は71.3%に達している。」とあります。
このような規模拡大や特定品目での養液栽培化への流れは、環境制御装置の導入による自動化省力化や、データにもとづく栽培管理などとともに進んだものと推察されます。
一方で国内の大規模施設園芸については、2000年代にカゴメやその関係先により3〜10ha程度の施設が建設され、2010年代の植物工場のブームや2016年頃からの農林水産省による次世代施設園芸などもあり、年々増加してきました。
大規模施設園芸とオランダ製環境制御装置
文献4)では、2021年2月における太陽光型植物工場(おおむね1ha以上で養液栽培装置を有する大規模施設)として170箇所をあげています。
大規模施設園芸として取上げられることの多い次世代施設園芸では、文献5)によると10箇所のうち5箇所でPriva社やHoogendoorn社のオランダ製環境制御装置が使われており、いずれもフェンロー型の大規模ハウスが建設されています。
残り5箇所ではネポン、JOP、富士通などの国産装置が使われていますが、単一の大規模ハウスではなく、複数の20a〜30a程度の小型ハウスごとの制御を行うものが多いとみられます。
オランダの環境制御技術と日本での適用例
以上のように、国内の大規模施設の増加にともないオランダ製のハウスや資機材の導入も進み、同時に養液栽培や環境制御などの技術導入も進んだと思われます。
これらはパッケージ化されたものでもあり、国内の中小規模の施設園芸にそのまま適用できるものではありませんでした。
東京大学・長崎大学名誉教授の高倉直氏は文献6)で、TPP加入後の日本の閣僚のオランダ視察を踏まえ、「オランダの施設園芸の個別技術に関してはまだまだ学ぶところは多いが,最先端の現場を視察することだけでは,その本質がややもすると見逃される危険性がある.まず,学ぶ際の出発点はオランダと我が国の違いを十分理解すること大切であることは言うまでもない.」と述べています。
これは自然災害が少ない平坦な国土に施設園芸地帯が集積しているオランダと、毎年多くの自然災害が発生し、多様な気象条件や地理的条件の施設園芸産地が全国に分布している日本の違いを認識すべきものと考えられます。
また気象条件、立地条件の違いにより施設の構造や内部環境にも違いが生じるため技術導入も慎重に行うべきである、ということもあるでしょう。
そうした違いを踏まえた上で、積極的にオランダの施設園芸技術、特に環境制御技術を導入する動きが近年高まりました。
高知県における事例
文献7)には、施設園芸が盛んな高知県とオランダの施設園芸地帯にあるウエストラント市との友好園芸農業協定締結、およびそこでの人材交流、技術交流が紹介されています。
同文献では環境制御技術に関し「オランダと比較すると、本県の気候は、年較差、日較差が激しく、ハウス構造そのものも桁違いの簡素さであり、それらの環境要因をオランダのように完璧にコントロールしようとしてもできるものではない。」としています。
さらに「ハウス内の環境データを、もう少し詳細に「見える化」した上で、今の基本的な栽培管理を、できるところから改善することにより、高知の環境に応じた環境制御技術を確立、普及できるのではないかと考えている。」としています。
また同文献では、高知県農業技術センターが県内主要野菜7品目についてのハウス内環境データを測定し、「厳寒期においては、日中のハウス内のCO2濃度が不足」していることを認識、そして「CO2施用の実証試験を行ったところ、15カ所全ての実証ほ場において、5〜37%の増収効果を得ることができた」としています。
生産者がハウス環境の計測データにもとづき改善を行なうことで成果を得たということです。その後、高知県ではCO2施用装置や環境制御装置などの導入を補助事業により推進しており、オランダの最先端の現場とは異なる形で、環境制御技術が最も普及した地域になったと言えます。
▼(写真‐2)通常の軒高のハウスによる群落内にダクトを設置してCO₂施用を行うピーマン栽培
文献一覧
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