(株式会社ウェザーマップ 寺本卓也)
こんにちは。気象予報士の寺本です。
早いもので、このコラムを書き始めて一年が経ちました。これまで続けてこられたのは、読者の皆さんのおかげです。本当にありがとうございます。コラムを執筆するにあたり、これまで多くの福島の農家さんを取材してきましたが、私自身学ぶ事がほとんどだったなと感じます。
2年目は、さらなる密着取材と最新の気象情報をどんどん盛り込み、よりパワーアップした「農てんき」を読者の皆さんにお届けできればと思います。ぜひ応援の程よろしくお願いします。
では、今回も「農てんきスタート」です。

台風の発生しやすい状況続く
先月は台風14号の襲来で、鹿児島、宮崎で大雨特別警報が発表され、その翌週には台風15号が本州に接近。静岡では線状降水帯が発生し、大雨による大きな被害が出ました。また28日には台風18号が発生。今年は9月に入ってから、台風が7つ発生(9月の平年の発生数は5個)と多くなっています。気になるのは、10月に入っても台風が発生するかどうかという事ではないでしょうか。
では、今後の台風発生のカギとなる海面水温の予想をみていきます。すると10月後半にかけて、北西太平洋の海面水温は高い状況が続く見込みです。どうやら、今月も台風襲来に警戒が必要です。

台風発生の条件は海の暖かさ
なぜ海が暖かいと台風が発生しやすいのでしょうか?
台風の発生の仕組みについて、簡単におさらいです。
台風が発生する一つの要因は海面水温が高いかどうかです。台風は26〜27℃の海面水温で発生するとされています。海面水温が高ければ、それだけ台風のエネルギーとなる水蒸気が多く、活発な雨雲を作る仕組みができるのです。

台風は天災の総合商社
台風が接近すると、大雨による土砂災害、河川の氾濫、暴風、高波、高潮、塩風など多くの気象災害を引き起こします。そんなことから、台風は天災の総合商社なんて言われたりします。しかし、台風が去った後も、影響を及ぼしている事はあまり知られていません。それは「気温の変化」です。
今回は知って得する豆知識「台風と気温の変化」について覚えておきましょう。

台風が北を通ると気温上昇
実は、台風が進むコースによって、気温が上がったり下がったりする事があります。台風が日本海を北に進む時は、日本海側で気温が急上昇する事があります。太平洋側の地域は湿った空気が流れ込み、曇りや雨となる一方で、日本海側には、山越えによる乾燥した高温の風「フェーン現象」が発生します。気温が急上昇する事で、収穫前の稲に高温障害を引き起こす事が危惧されます。

台風が東を通ると気温下降
では、今度は台風が日本付近の東を進む時を見ていきます。すると今度は、日本付近には、大陸から乾いた冷たい北よりの風が流れ込んできます。台風一過で各地晴れるものの、気温が一気に低下する事があり作物の生育に影響が出そうです。
これらの事象が必ずしも毎回この通りになる訳ではありませんが、一つの目安として覚えておくと作物の管理に便利かもしれません。

今月は「台風」、「秋雨前線」の影響ありか
さて、ここで本題に戻り、今月の天気の傾向を1カ月予報の降水量でみていきます。すると東・西日本を中心に平年並みか多い予想となっています。この時期は台風、もしくは秋雨前線の影響なども考えられそうです。
秋雨前線の影響も
ウェザーマップ独自の長期雨予想を見てみます。今月9日には、日本付近に帯状の雨雲がかかる見込みで、各地でまとまった雨となりそうです。夏から秋に季節が変わる頃は、日本付近では異なる性質の空気がぶつかり、雨が降りやすくなります。いわゆる秋雨前線です。

10月はまだ暑い?秋の深まり遅く
続いて、平均気温はどうでしょうか。東・西日本を中心に高く、北日本も並みか高い予想となっています。しかしながら、もう少し深堀りすると今月はずっと暑い日が続くという訳ではなさそうです。

北日本は急な冷え込みも
気象庁は同日に、低温に関する早期天候情報を発表しました。今月5日頃からは寒気が流れ込む影響で、特に北日本では急激な冷え込みが予想されます。

今月は大雨と気温変化に注意
ウェザーマップ独自の16日予報を見ていきます。秋晴れは続かず曇りや雨の日が多くなる所が多く、また気温の変化も大きくなりそうです。秋雨前線や台風による大雨に加え、気温も急激に変化する予想のため、農作物の管理がとても難しくなりそうです。
その他の各地の最新の16日予想は(https://forecast.weathermap.jp/?point=A34392)ウェザーマップHPで確認する事ができます。ぜひご活用下さい。

秋の味覚ぶどうに異変
9月25日、日ごろお世話になっている福島県飯坂市のフルーツラインにある曲屋果樹園さんを取材しました。秋が旬の巨峰、シャインマスカットなどが収穫最盛期となっています。
しかし、今回もやはり問題が起きていました。

シャインマスカットの裂果
陳列されてあるシャインマスカットがB級品として販売されていました。よく見ると、実が裂けているのです。これはどうした事でしょうか?
曲屋果樹園の紺野さんにお話しを聞くと、「8月末までは実が大きく育って順調だったが、9月に入っても湿度が高く、実が割れてしまった。」というのです。実際に福島市の9月上旬の湿度は81.4%(平年9月上旬77%)とかなり高く、空中の過湿により実が水分を吸収し裂果が多発してしまったのです。

根強く残るひょう被害
また、その他のぶどうでは、ひょう被害によって収穫が困難な物もありました。こちらは、高尾という品種ですが、6月上旬に発生したひょうで枝が傷つき、さらにその後の大雨により病気がまん延してしまったのです。ほぼ全ての葉っぱにべと病が発生。ぶどうの粒は小さく収穫量も期待できないという状況との事です。
テレビや新聞では詳しく報道されませんが、取材を続けると夏前に発生した天災が秋の収穫にまで影響を及ぼしている事が見えてきます。

味は変わらない
毎回、私は言っていますが、食べてしまえば変わらず美味しいです。曲屋果樹園さんでは、裂果したシャインマスカットを500円で販売しています。
全国的に今年の夏は度重なる大雨に見舞われ、各地で農作物の栽培に影響が出ています。また来年も作って頂けるように、今回も沢山食べて応援していこうと思います。
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