(株式会社ウェザーマップ 寺本卓也)
こんにちは。農天気気象予報士の寺本です。早いもので今年も残りわずかですね。
今年は11月に入っても平年より暖かい空気が流れ込み、全国的に暖かい晩秋となりました。気になるのは、本格的な冬はいつからなのか?という事でしょう。最新の長期予報によると、今年の冬は急にやってきそうなんです。
今回も最新の1カ月予報、この冬に役立つ情報など盛り沢山の内容をお伝えしていきます。では今年最後の農てんき早速スタートです。
今月の寒さは?
11月24日発表の1カ月予報(平均気温)を見ていきます。
1週目は11月からの予報が入っているため全国的に気温が高い傾向ですが、12月に入ると強い寒気が流れ込む影響で、各地とも一気に寒くなりそうです。またこの寒気に伴って日本海側では平地でも雪が降るでしょう。
今年の秋は暖かい日が多かったため、まだ冬用タイヤに交換していない、冬支度が済んでいないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。ぜひ急ぎましょう。
日本海側では大雪の可能性
一方で、気象庁は11月22日に3か月予報を発表しました。
注目したいのは、今冬(12月〜2月)の雪の量です。すると、日本海側では雪の量が平年並みか多くなる可能性が高く、大雪となるおそれが出てきています。この冬も早めの大雪への備えが必要となりそうです。
この大雪のおそれの原因は、日本から遠い海で起きている「ラニーニャ現象」です。なぜ、そんな遠い海の出来事が日本の天気に関係あるのでしょうか?
バタフライ効果
気象学にはこんな例え話があります。「ブラジルで1匹の蝶の羽ばたきが、やがてテキサスでトルネードを発生させる。」気象学者エドワード・ローレンツの言葉です。
これは、「バタフライ効果」と呼ばれ、ほんの些細な出来事がやがて大きな影響を及ぼすかもしれないという事を例えています。「ラニーニャ現象」は、遠い南米の海の温度の変化の事ですが、それが大気にも影響を与えて、実は日本の冬の寒さや雪の量に関係してきます。
ラニーニャ現象は日本で厳冬・大雪
では、このコラムではおなじみですがラニーニャ現象時の動きをイラストで確認していきましょう。
①南米周辺の海では強い東風が吹いています。
②暖かい海水がどんどん西に蓄積します。
③インドネシア付近は普段より水温が暖かくなり積乱雲が発生します。
④積乱雲が発達する事で上昇した空気が、北の大陸へ向かいます。
⑤上空を流れる偏西風がこの空気に押し上げられ蛇行します。
⑥蛇行する事で、日本付近に寒気が流れ込みやすくなります。
結果的に、この冬日本では「厳冬・大雪」のおそれがあるとなるのです。
雪の降り方は分からない。一気に降る可能性も
また、気を付けなければいけないのは、雪の降り方です。
以前のコラムでもお伝えしましたが、近年は、急に大雪が降る、いわゆる「ドカ雪」が多くなっています。これには地球温暖化が影響している可能性が高いのではと言われています。地球温暖化が進むと、一年間に降る雪の量が減る一方で、急に一気に降る、「ドカ雪」が増えていくかもしれないのです。この冬も一気に大雪が降る「ドカ雪」となる可能性は十分にあります。
ただ、ドカ雪は突然やってくる訳ではありません。実は、天気図から十分に予想する事が可能です。
冬の天気は、縦じまの数に注目
気象予報士の間では、冬場に注目する天気図のポイントがいくつかあります。その一つが、縦じまの数です。
天気図の縦じまとは等圧線の事です。縦じまが日本列島に沢山かかるほど、風や雪が強まり荒れた天気となります。天気予報をご覧になった時は、日本列島に5〜7本以上縦じまが入っているか確認してみましょう。そんな時は日本海側を中心に警報級の暴風雪となる可能性が高いと言えます。
上空の温度で分かる。雪が降る目安
また、「雪が降り始める目安」というのもあります。
こちらも以前のコラムでお話した事がありますが、約1500メートル上空で-6℃の寒気を見ています。-6℃の寒気が日本付近にかかるような時に予想される降水は雨ではなく、市街地でも雪が降るとされています。冬が本格化すると、テレビなどで気象予報士達が「-6℃の寒気」と連呼し出すと思いますので、もし耳にしましたら、市街地など平地でも雪が降るかもというサインだと思って下さい。また最近はインターネットの情報もかなりパワーアップしています。
「今後の雪」の提供開始
近年、記録的な大雪により、車が立ち往生するなど、社会活動に深刻な影響が出ています。そこで気象庁は昨年11月に「今後の雪(降雪短時間予報)」の提供を開始しました。今までは、今どこで雪が降っているかを確認する「現在の雪」のみの提供でしたが、そこに今後6時間先の予報を盛り込んだ「今後の雪」という新たな情報に生まれ変わりました。
出かける前や、作業前に「今後の雪」を確認し、計画や日程の変更などの検討もできるでしょう。ぜひ気象庁HPを確認し、ご活用して頂ければと思います。
雪おろシグナル
また、豪雪地帯で悩まされる「屋根に積もった雪下ろしの判断に役立つ情報」などもあります。これは防災科学技術研究所などが開発したツールで、その名も「雪おろシグナル」。積もった雪の重さがどれくらいかを分かりやすく、色分け表示しています。例えば黄色は雪下ろしの基準となる1mを表し、赤色は建物が倒壊するレベルを意味します。スマホからでも確認する事ができるので、雪下ろし作業の一つの目安としておすすめです。
雪下ろし10箇条
総務省消防庁によると2021年11月〜2022年4月30日における、屋根の雪下ろし等、除雪作業中の死者は76人でそのうち9割は65歳以上としています。農業用ハウスが潰れるなどの心配もあるかと思いますが、毎年事故は減っておらず、今シーズンも注意が必要です。国土交通省は事故防止のため「雪下ろし安全10箇条」を呼び掛けています。
また、高齢化が進み、どうしても一人で雪下ろしをしなければいけないという状況の方も増えているといいます。その場合は、近隣住民に作業する事を声掛けしたり、携帯電話を持っておくと万が一何かあった際に、命を守る事につながるかもしれません。
大雪と厳しい寒さへの備えは、早め早めに進めておきましょう。
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