アグリウェブの皆さん、こんにちは、公益財団法人 流通経済研究所の折笠です。
今までコラムのなかで、実践的な値上げのためのマーケティング理論について紹介してきました。しかし、ここでは利益率を少しでも高めるための値引きのテクニック、いわば値上げのための値引きについて考えてみたいと思います。ただし、前提として値引きはしないことが理想であることに変わりはありません。値引きをして売れるのは当前ですので、売上を作るために値引きを繰り返していくと、麻薬のように止められなくなってしまいます。値引きは麻薬なのです。ただ、現実問題として顧客の購買意欲を刺激するための販促や、在庫を売り切るための必要悪として値引きがあるのも事実です。そのため、ここでは、できるだけ利益率を落とさない値引きについて考えてみましょう。
① 顧客に金額を覚えられないように値引きを行う
一度、顧客が値引きの価格に慣れて、その金額を覚えてしまうと、後からそれを引き上げることは難しくなります。そのため、値引きを行う際は、顧客の頭の中の金額感、相場感を下げない工夫が必要となります。一言で言えば、値引きの価格を覚えられないようにしましょう。
それには、商品の販売価格を引き下げない形での値引きがポイントになります。具体的には、商品の販売価格はそのままに、ポイントカードへ付与するポイントで還元する、あるいは景品や商品の増量といった形での「おまけ」をつけることが考えられます。景品や増量でも価格を変えなければ、実質は値引きとなりますし、十分に消費者の購買意欲を刺激することができるはずです。景品は、商品に添付するだけではなく、ポイントのように貯めて使える形(シールやスタンプを集めてもらえるキャンペーンのようなもの)で提供することもできるでしょう。ポイントやシールを貯める形にすれば、リピート購買を促進する効果も狙うことができます。
いずれにしても、顧客の価格に関する相場感を下げないように、販売価格そのものは下げずにお得感を出すことが重要です。
② 値引きを刻んで行う
あなたは、売れ残りそうなとき、いきなり半額で販売する、といったことをしていないでしょうか?
いきなり半額のような大きな値引きをしてしまうと、本来は10%引き、20%引きで購入していた人も、50%引きされた状態で購入することになってしまいます。値引きにおいて重要なことは、30%値引きできる商品であっても、10%引きなら買う人には10%引きで買ってもらい、20%引きでないと買わない人には20%引きで買ってもらうことにあります。これを実現するためには、いきなり大きな値引きをするのではなく、時間経過に合わせて5%、10%単位で刻んで値引いていく必要があります(図1)。
図1 段階的な値引きのイメージ
また、消費者にとっては、値引き額の大きさだけではなく、値引きされている印象、つまり「いつもよりもお得に買える」感覚も重要です。安くなっているからこそ、「いま買う」必要があると認識してもらえるのです。
以上のような理由から、農産物直売所などで夕方なって大きな値引きをしている場合、少し前のタイミングから刻んで値引きしてみることをお勧めします。
ただし、残りそうなものを売り切る以外で、決まった曜日や時間で値引きをすることはお勧めできません。例えば、直売所で「毎週月曜日は米が10%OFF」という値引きを行った場合、消費者は安い月曜日にしか米を購入しなくなってしまいます。消費者に予測されにくいタイミングで値引きを考えるようにしましょう。
③ 値引きに理由を必ず付ける
顧客の頭の中の商品の価格感、相場感を下げない値引きの方法の一つとして、値引きを行うための理由をつけることがあげられます。訳アリ商品だから、〇〇周年記念だから、といった形で値引きに理由をつけることで、逆に、理由がない日には値引きを行わない理由付けにもなります。いつもの価格ではない、特別な価格であることを消費者に理解してもらえば、商品の価格に関する相場感の低下を防ぐことができます。
なお、大量陳列などによって、特売を行う場合には、合わせて商品の良さを訴求しないと、その商品への消費者の思い入れが低下してしまうという研究成果もあります(寺本,2008)。値引きに理由をつけるだけではなく、値引き販促を行う場合は、ただ安くして売るのではなく、商品の良さも合わせて訴求することが重要です。
④ 抱き合わせ戦略を考える
値引きを行う際に、商品の単体の価格をわからないように、本来は商品カテゴリーとして異なるものを一体化して価格を設定する方法が抱き合わせ戦略です。代表的なものとしては、航空券付きの宿泊プランがあげられます。抱き合わせた商品の、それぞれの単価をわからなくすることで、安価に提供しつつも、それぞれの商品の顧客の相場感の下落を防ぐことができます。具体的な抱き合わせ戦略として、農産物などでは、「旬の野菜セット」や「果実酒の漬け込みキット(果物と瓶のセット販売)」などが考えられます。抱き合わせ戦略を考えるにあたっては、色々と商品の組合せを考えてみると良いでしょう。
参考文献
寺本高,「消費者の店頭POP販促時の購買行動とコミットメントの関係」,『日経広告研究所報』,第241号,2008年
シリーズ『激流の時代を乗り越える農業経営を目指して』のその他のコラムはこちら
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
公開日