(峯農産食品株式会社 峯 淳一)
アグリウェブの読者の皆様、はじめまして。私は、北海道岩見沢市で下水汚泥を農地に還元する取り組みを進め、水稲をはじめ、秋まき小麦・大豆を生産しています。
1982年に就農して以来、良い土づくりのための堆肥づくりを進めてきましたが、冷涼な気候と、12月から積雪期を迎える北海道での堆肥づくりは失敗の連続でした。
完熟堆肥の生産に行き詰っていたその時に、下水汚泥と出会いました。
私は、現在、下水汚泥肥料を使った農産物を「じゅんかん育ち」の名前をつけて販売しています。
下水汚泥肥料の施用による土壌の改善、それに伴う安定生産と品質向上の実現はもちろんのこと、食の安全に係る認証を取得し、さらに社会全体の環境貢献に対する意識の高まりもあって、一つの「ブランド」として、多くの消費者に評価されています。
本コラムでは、下水汚泥を活用した農業の確立に至る軌跡とそれをどのようにブランド化して、消費者から高い評価を獲得するに至ったかをお伝えしたいと思います。
1.下水汚泥肥を用いた土づくり成功の秘訣
学生時代に学んだ土づくりの原点は、「循環農法」でした。「循環農法」は、地域や社会、人と土・草・家畜と繋がる壮大なスケール感を持つ、日本農業の姿だと私は考えています。
幼少の頃から、父や母が住居の便槽から糞尿を汲み取り農地に還元している姿を見てきた私は、下水汚泥の大切さを感じていたものの、就農後は、下水汚泥は使わず、堆肥製造をおこなってきました。
しかし、冬に雪が積もる北海道ではたい肥製造は難しく、腐熟を促進するため化学肥料の硫安や石灰窒素を投じても完熟しない等の失敗が続きました。
未分解のまま水田に散布し、収量減少を発生させたこともあります。
ある時、市役所下水道課に勤めていた高校時代の同級生に勧められたことで、下水汚泥と出会いました。
そこから、屋外の堆肥場で稲わらやもみ殻を混合し、何度も試行錯誤した結果、2010年頃に、冬季の4か月間に完熟した堆肥を生産することに成功しました。
下水汚泥には、食生活の違いによる地域特性があるため、もみ殻との最適な配合は地域によって変わります。この最適な配合比率が、下水汚泥肥料作成のキーポイントだったと考えます。
完成した下水汚泥肥料の導入後、化学肥料使用時に比べてミミズの増加と生息範囲の拡大がみられました。下水汚泥が土中の生物の栄養となり、土壌の質が安定化した結果です。
2.「下水汚泥」が付加価値を生んだ!
農業生産における下水汚泥を活用した堆肥の施用により、米をはじめとする農産物の10a当たり生産量は気候変動に左右されることがなく、安定的な増収効果が認められました。
また、化学肥料が低減したことにより、肥料費の節減にもつながり、収益性も向上。そして、食味評価を表すタンパク値も改善が見られ、食味も良くなりました。
その一方で、下水汚泥に重金属類が含まれるのではないか?という風評を受けることもありました。
認証取得による安全性の「見える化」
重金属に対する消費者の不安を払拭するためには、安全性を第三者から立証してもらうことが必要だと考え、私は、2019年に農林水産省の特別栽培農産物に関わる表示ガイドラインに基づく認証を取得しました。
審査過程では下水汚泥に含まれる窒素について、その全量がヒト由来のものであり化学肥料ではないことを農場現地審査で説明し、認証を取得しました。
特別栽培農産物の認証を取得したことで、安全性が「見える化」され、消費者の安心感醸成に繋がったものと考えています。
【特別栽培認証】
「じゅんかん育ち」がブランドになった!
特別栽培農産物の認証取得後、岩見沢市からふるさと納税品として下水汚泥を利用したお米(ゆめぴりか・ななつぼし)を「じゅんかん育ちブランド」として紹介することも出来ました。
ふるさと納税への出品では、食味の評価が高いことからリピーターが多くつき、評価されていることを実感します。
循環農法が自分の農業の目指す姿でしたが、結果的には、「下水汚泥を活用した循環農法」が消費者から一つの「特徴」と捉えられ、他の商品と差別化でき、それが評価されたものと考えています。
GAP認証取得による農場の信頼感獲得
さらに2020年にJGAPを取得しました。商品としてだけでなく、その商品を生み出す工程まで第三者の評価を取得し、農場への信頼を獲得したいと考えたからでした。
JGAP取得の翌年には、日本発祥の国際水準農業規範であるASIAGAPを取得しました。
ASIAGAPの審査総論では、下水道資源利用の持続発展可能な農場の仕組みと食品の安全と食品防御を備えているとして、GFSI(世界食品安全イニシアチブ)のベンチマークを得ました。
【JGAP・ASIAGAP 同時認証】】
3.下水汚泥は食糧の安定的供給の救世主へ
岩見沢市では、年間3,000トンの下水汚泥が発生していますが、汚泥利用の農業者95名で、その全量を農地へ還元し農業生産に活用しています。
輸入肥料原料の高騰から、下水汚泥利用を希望する会員が次々と増えていますが、下水汚泥は地域資源としても限られているのが現状です。
以前から、資源のない日本の農業は、循環によって形成されてきました。他の地域でも、国内資源の下水汚泥が評価され、より多くの農地に利用され、そこで生産された農産物が、食糧の安定的供給に向け大きな役割を担う。下水汚泥肥料には、そのような可能性があると思っています。
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