アグリウェブをご覧の皆様、JA全農 耕種総合対策部 TAC・営農支援課です。
本シリーズでは、農業への新しい関わり方『91農業』についてご紹介するとともに、新しい働き手を地域の農業生産現場に呼び込む意義とポイントについてご紹介していきます。第一回のコラムでは労働力不足解消に向けたJA全農の取り組み概要をご紹介しました。ポイントは下記のとおりです。
✓ 各種統計データだけではなく生産者の肌感覚においても、農業現場での労働力不足は顕在化しています。
✓ JA全農では、農業現場での労働力不足対策として『91農業』の提唱を開始しました。
✓ 91農業とは、「あなたのライフスタイルに農的生活を1割取り入れませんか?」をコンセプトに、農業に関心を持つ方々が様々な切り口で農業に関わることを促すキャッチコピーです。
✓ 91農業の軸となる労働力不足対策の取り組みとして、「農作業請負」を進めています。
✓ 農作業請負とは、一時的に人手が必要な生産者がいる場合、JAや全農がその要請を取りまとめてパートナー企業に依頼し、パートナー企業が人材募集や労務管理をおこない、他産業や一般の方々が生産現場で作業を行うという仕組みです。
第二回目の今回は、働き手を地域の農業生産現場に呼び込む「農作業請負」の取り組みについて、生産者目線でご紹介します。
【図1】農作業請負スキーム(パートナー企業をJTBとする例)
農作業請負活用による生産者メリットと注意点
<メリット>
① 柔軟な労働力確保が可能
例えば収穫時期等、年間を通じてではなくスポット的に労働力が必要になることはないでしょうか。
農作業請負であれば必要な期間に必要な量の労働力確保が可能ですので、生産期間中の繁閑差が大きな品目における繁忙期の労働力確保に特に効果的です。
これまでの取り組みでは、季節性があり人手を要する野菜・果物の収穫・調整等の単純作業が中心となっています。
② 生産者から作業者への指示出しが不要
農作業請負は派遣契約ではなく請負契約となります。
契約上、生産者から作業者へ直接指示することはできず、パートナー企業が用意する作業リーダーに対してのみ指示が可能です(各作業者へは作業リーダーから指示をします)。
逆に言えば、生産者は作業リーダーに対してのみ作業指示を行うだけでよいため、直接雇用時と比較して作業員への指揮命令負担が軽減します。
③ 作業者の労務管理が不要
採用活動や労務管理等は労働力を確保するうえで大きな負担になります。
農作業請負であれば、人材募集から労務管理に至るまでパートナー企業がすべて行います。
④ 出来高払いによる支払い
請負契約のためパートナー企業への支払いは、「作業員がその日にどれくらいの作業成果を挙げたか」を基準とする出来高払いとなります。
<注意点>
① 農作業初心者でも可能な単純作業が原則
一日から参加可能、農作業経験は問わないという条件で作業者を集めますので、基本的には作業者の農作業レベルはバラバラです。
作業未経験の方にも参加してもらえるように、農作業請負対象作業は定植、収穫、箱詰め等の単純作業を基本としております。
② 作業者を固定化することはできない
作業者は一日から参加可能で最低作業日数等も設けておりませんので、基本的には日々作業者の顔ぶれが変わります。
ただし、作業者の中にはもともと長期間作業可能な方やリピーターの方もいらっしゃいますので、一定期間は作業者の顔ぶれが変わらなかったというケースも散見されています。
③ 作業周辺環境の整備が必要
作業者に快適に作業してもらうためには、トイレ・休憩場所・更衣室等の作業周辺環境整備が不可欠です。
これらがしっかり整備されていますと作業者の満足度が高まりリピーターの確保につながります。
④ 早めの作業依頼・事前調整が必要
ご希望の作業が農作業請負として対応可能かどうかの確認や、作業員の募集等に相応の時間を要します。
要する時間は地域特性等に左右されるため一概には言えませんが、これまでの取り組みでは「作業日の3か月前までには作業依頼する」ケースが多く見受けられます。
農作業請負利用生産者の声(一例)
これまでに実際に農作業請負を利用された生産者の声をご紹介します。
<活用することを決めたきっかけ>
・これまでは収穫期に人手が足りず全量収穫できていなかったため
・周年雇用ではなく、必要な時だけ必要な量の労働力を確保できる点に魅力を感じたため
・自分で人材募集を行うことは大変だから
・直接雇用と比較し労務管理が不要という点に魅力を感じたから
<利用前の心配>
・どのような作業者がくるか、真剣に作業をしてもらえるか非常に心配だった
・自分で作業者に指示が出せないため、作業者に正しく作業をしてもらえるか心配だった
<利用後の感想>
・繁忙期の労働力不足解消に効果があった
・労働力確保に手間がかからず自分の作業に専念できた
・予想以上に作業者が一生懸命取り組んでくれて大変助かった
・作業初心者と聞いていたが、作業品質に全く問題なく安心した
・「作業が楽しい!」といった声をもらい、普段何気なくこなしていた作業に新しい気付きを得ることができた
・作業後、「生産物を買いたい」等の嬉しい反響があった
・次年度以降もぜひ利用したい
全農からのメッセージ
JA全農は91農業を通じ、生産者へは繁忙期などの必要な時にのみ人手を確保する手段を、農業に興味がある人や将来農業を志す人へは農業を経験する場を提供していきたいと考えています。
そして、実はそれだけではない価値も生まれてきています。働き手は農作業をすることで確実にその地域のファンになってくださることがわかってきています。
例えば、農作業が終わった後もその地域の農産物に関心を持ち、自ら選んで買っていただく、ということが実際に起こっています。
農業に関わるハードルを下げることで、幅広い人々が農業に触れる機会を創出することに加えその土地のファンを一人でも多く増やすことにより、農業関係人口増加による農業現場の労働力不足を解消するだけでなく、地方創生・地域活性化も目指していきます(図2)。
【図2】91農業概念図
次回、シリーズ第三回コラムでは、実際に91農業により農作業を経験した作業者の感想や気づきをご紹介していきたいと思います。
シリーズ『JA全農が提案!"91農業"で人手不足解消へ!』のその他のコラムはこちら
本件に関するお問い合わせは「JA全農 耕種総合対策部 TAC・営農支援課 労働力担当(zz_zk_roudouryoku@zennoh.or.jp)」までご連絡ください。
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