こんにちは。福島県南相馬市役所の森明(もりみょう)です。
このたび縁あってシリーズ「一人の市役所職員が想う。地域農業のミライ」を執筆することとなりました。
このシリーズでは、市の職員である私が、東日本大震災及び原発事故からの復興を進める市行政に携わる中で感じること、農業者や全国の自治体職員に伝えたいことを発信したいと思います。
南相馬市の農業の現状
まずは南相馬市の農業の現状に触れさせてください。
震災前に約3,000あった農業経営体は、2020年には約800にまで激減(-75%)し、減少率は全国の同時期比較(168万人→108万人(-36%))を大きく下回っています。
震災により営農休止となった田・畑は7,300haにも上り、100億円あった農業産出額も平成26年には19億円まで減ってしまいました。
南相馬市の農林水産業の復興・再生のため、これまで国や県の力を借りながら多くの復興施策を展開してきました。
震災後、令和5年度までに進めてきた(進行中)の取組みは以下のとおりです。
・31地区3,100haでほ場整備(大区画化)を展開。
・56の農業法人等に、合計67億円分の農業用機械を支援。
・米や園芸作物の生産・調製施設に91億円を支援。
この結果、震災により営農休止した面積7,300haのうち、令和4年度までに4,800haで営農が再開され、農業産出額も令和3年には35億円まで回復しているところです。
ほ場の大区画化も功を奏し、市内農業法人の経営面積は、トップ15法人の合計で1,000haを超えるまでになりました。1法人で70ha近くを担っている計算になります。
補助金はいつかなくなる
少し不安を煽るようなタイトルになってしまいました。
これまで大きな補助金など活用しながら、南相馬市の農業は復興しつつあります。
規模拡大や効率化に大きく寄与していることは確かです。
市としても大変ありがたい制度だと認識しています。
一方で、こういった補助制度は、いつか必ず終わりを迎えます。
補助金を活用して導入した農業用機械や施設も、いずれ更新時期が訪れます。
その時に自分たちで更新できるよう、今のうちからしっかりと利益を出せる状態になってほしいのです。
農業という「業」は、食料を生産する重要な「産業」であると同時に、利益を出し続けなければ継続できない「事業」でもあるわけです。
当たり前の話ではあるのですが、農業者らに補助金を紹介する際(特に前述のようなハード系の場合)、市役所としてはこの点を重く認識し、慎重になります。
農業は事業
私自身、農家の出身ではないのですが、農業者がトラクターなどを欲しがる気持ちは分かります。
マイカーやマイホームを持つのと同様、欲しくなりますよね。
使いたいときに使える「自分の」トラクターが欲しくなるのです。
でもどうでしょう。
「モノを所有する」ということの「コスト」をどの程度考えられているでしょうか。
先ほど触れたように、農業用機械もいずれ更新するタイミングが訪れますし、維持するにもコストがかかります。
置いておく場所も必要になります。持っているだけで費用が発生するのです。
一方で、近年ではシェアリングサービスを展開するメーカーも現れました。
1時間単位で24時間いつでも利用でき、使った時間に応じて料金が発生する仕組み。
専用のアプリで予約することもできます。
定期メンテナンスもメーカーがやってくれ、近所の農業者から借りるのと異なり、気を遣う必要もありません。
もちろん、トラクターを置いておく場所も不要となります。
私たち市役所職員も含め、農業者らはこういった「選択肢」があることを認識しなければならないと思います。
経営状況や後継者の有無などを踏まえた上で、いま本当に、トラクターを所有しなければならないのか。
市役所側も、本当にトラクターの所有を農業者に勧めるべきなのか。
「選択肢」で言いますと、栽培方法も同様です。
例えば水稲の場合。先祖代々、ずっと「代かき」をしてきたとしましょう。
今年も全ての田んぼで代かきをしますか。
今は代かき不要の「乾田直播」があります。
育苗も不要となります。
収穫時期も含めて、移植栽培のタイミングとはズレるため、移植と直播を行えば、年間雇用もしやすくなります。
雇用される側からすると、一時的な雇用よりも年間通じての方が好まれますよね。
経営者は、「なぜそれを選択するのか」、さらに言うと「別の選択肢を知っているならば、なぜそちらを選ばないか」ということを毎年、経営状況に照らし合わせながら明確にしておくことが必要だと思います。
農業は事業です。
お客様のために美味しい米や野菜を作るんだという想い、地域に貢献しようという熱い志は、私たち市役所職員の気持ちを更に前向きにしてくれます。
一方で、「継続して」利益を出していかねばなりません。
農業者が持続的な生産活動をしていただけないと、美味しい米や野菜を消費者に届けられません。消費者からの「ありがとう」を受け取ることもできなくなります。
そして地域の活力も損なわれてしまうのです。
はじめは「土を触るのが好き」という段階から農業を始められた方も多いでしょう。
しかし、どうか経営者のみなさん、「農業生産」で留まらず、「継続して利益を出す」ための工夫・選択をしていただきたいと強く願います。
市役所も全力でバックアップしますよ!
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