(イノチオホールディングス株式会社)
イノチオグループでは1990年より農業生産者の支援として病害虫診断を行っております。現在は年間1200件前後の診断を実施させて頂いております。
本シリーズでは、実際に寄せられた病害虫診断の事例を交えながら、近年の気象状況や栽培環境・栽培方式の変化などの中で注意すべき病害虫やその対策についてお話させて頂きます。
センチュウとは?
センチュウは、大きさ数ミリから十数センチメートル、半透明で細い糸くずのような形をした線形動物です。
身近なところでは、海の中にいて魚に寄生するアニサキスはセンチュウの仲間です。また、2024年ノーベル生理学・医学賞受賞研究では、モデル生物としてセンチュウが利用されました。
足元の土壌には、植物や動物に寄生する線虫、細菌やカビなどを食べて生活する線虫など、実に多様な線虫が存在しています。
今回は、特に農業に携わる方々にとって深刻な問題となる、土壌中の植物寄生線虫(有害センチュウ)についてご紹介します。
農作物を脅かす有害センチュウとは?
有害センチュウは、植物の地下部(根)や地上部(茎・葉)に寄生し、組織に障害を与えます。その結果、収量の減少や、品質低下を招きます。さらに、この記事の後半で紹介しますが、他の病気の発生を助長させることもあります。
ここから、栽培上特に問題となる有害センチュウ3種類を紹介します。
① ネコブセンチュウ
症状
ネコブセンチュウは、その名の通り植物の「根」に「コブ」を形成します。体長は2齢幼虫で0.4 mmほど、肉眼では確認できませんが、根に形成されるコブは肉眼で容易に見つけることができます。
【トマト_コブが数珠状に連なる様子】

トマト栽培では、サツマイモネコブセンチュウに抵抗性を持つ台木・穂木(品種)を使用することがあります。しかし、近年その抵抗性を打破したサツマイモネコブセンチュウが発生し、問題となっています。
主な被害作物
ウリ科、ナス科、根菜類など
(休耕地の雑草などにも幅広く寄生します)
② ネグサレセンチュウ
症状
ネグサレセンチュウは、根の皮層に侵入して加害し、組織を破壊します。根が腐敗すると、新たに健全な根を求めて移動します。これが繰り返されることで、根系が減少していきます。特にダイコンやニンジンなどの根菜類では、根部に水疱状の斑点や尻詰まりなど品質低下を招きます。
土壌中に残った被害残渣は次作の伝染源となります。
主な被害作物
根菜類、キク、イチゴなど
【キク ネグサレセンチュウ被害】

③ シストセンチュウ
現在は北海道をはじめとする一部地域での発生ですが、長野県では日本で初めてテンサイシストセンチュウが確認されるなど、今後も注意が必要なセンチュウです。
症状
根に寄生した雌成虫の体表が、そのまま体内の卵を包むカプセル状の「シスト」となります。このシストは宿主植物から脱落し、土壌に残ります。シストは非常に強靭で、長期間の乾燥などの過酷な環境にも耐え15年以上経っても孵化することがあります。寄生されると根の機能が低下し、植物の生長が阻害されます。ばれいしょ(ジャガイモ)やダイズなどに多く見られます。
主な被害作物
ナス科(特にばれいしょ)、マメ科(ダイズ・アズキ)など
センチュウ複合病害
有害センチュウの影響は、直接的な加害だけでなく、土壌病害の助長にまで及びます。
例えば、土壌にある病原菌が存在する時、植物に有害センチュウが寄生しているほうが発病しやすくなったり、発病の程度が激しくなったりすることがあります。このような病害は、センチュウ複合病害と呼ばれます。
ネコブセンチュウ複合病害の例
- 萎凋病
- 半身萎凋病
- 青枯病
【トマト(ネコブセンチュウ、青枯病)】

ネグサレセンチュウ複合病害の例
- 半身萎凋病
- アブラナ科根こぶ病
【キク(ネグサレセンチュウ、半身萎凋病)】

【イチゴ(ネグサレセンチュウ、萎凋病)】

土壌病害の対策をしているにもかかわらず、なかなか改善しない場合、有害センチュウが病害の被害を助長している可能性も考えられます。
有害センチュウの対策
- 被害株の除去(可能な限り地下部の残渣も取り除く)
- 化学的防除(薬剤:D-D、ダブルストッパーなど)
- 土壌還元消毒
- 緑肥の栽培(センチュウの種類に合わせて効果的な作物を選定します。)
- 圃場内及び周辺雑草の除去
- 抵抗性品種の利用
土壌中の有害センチュウ密度や、圃場の特性によって対策は異なります。それぞれの圃場に対して最適な対策を行うために、まずは土壌の状態を把握することをお勧めします。事前に把握することで、適した対策を実施することができ、また、本来必要のない消毒を行っている圃場があるかもしれないという不安を解消することもできます。
圃場の状態を把握して効果的な防除を行いましょう
昨年は、トマト青枯病やトマトかいよう病、キク半身萎凋病の株から有害センチュウを検出した事例が複数見受けられました。近年の高温環境下では、有害センチュウの活動期間も長期化しているものと思われます。ご自身の圃場の状態を把握して、効果的な防除を行いましょう。
弊社では、土壌の化学性・生物性分析、土壌の有害センチュウ(ネコブセンチュウ、ネグサレセンチュウ)検査を行うことが可能です。例えば、土壌消毒後(定植前)、栽培中、作終了後など定期的に検査を行い、継続して圃場の状態を把握するなど、ご活用いただいております。
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情報配信のご紹介
イノチオグループでは、2000年頃より農作物の防除に関するお役立ち情報を皆さんにお伝えするために『防除チラシ』の作成を行っています。
「この時期はどんな病気や虫に注意が必要なのか?どの農薬が有効なのか?」
栽培時期によって異なる薬剤や、病害虫に対する予防散布などのローテーションを配信しています。また、新規登録された薬剤・肥料の紹介や、防除のポイントなども掲載しています。
配信時期は作物によって異なりますが、合計10作物以上のチラシを配信しています。毎月1日に更新していますので、ぜひご活用ください!




次回は【近年増加する土壌病害虫 ②フザリウム属菌による病害/土壌消毒】についてご紹介したいと思います。ぜひ、ご覧ください!
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