(株式会社ウェザーマップ 寺本卓也)
こんにちは。農てんきな気象予報士の寺本卓也です。さて、先月22日に気象庁は今年の夏の見通しについて会見を行いました。
「昨年、一昨年程ではないものの、平年の夏に比べて暑く、さらに暑さは前倒しでやってきそう。」また「梅雨時期は普段雨が多く降らないような北日本で多く、西・東日本でも短い期間で豪雨になる可能性はある。」という内容でした。
そんな話は聞くだけで嫌な気分になりますが、この5月はまさに暑さが日に日に増していく傾向が出ています。田植え、茶摘みなど5月は農作業のピークを迎える大切な時期です。
私もいつも以上に農家の皆さんに寄り添った最新の農てんき情報をお届けしていきます。今月も最後までぜひお付き合い下さい。では農てんきスタートです。
降水量は少ない予想も油断禁物
1か月間予報の降水量を見ていきます。東日本・西日本は概ね晴れる傾向で、降水量は平年並みか少ない予想となっています。一方で、北海道や東北の日本海側は平年並みかやや多い予想です。
とは言え西日本・東日本は全く雨が降らないという事ではなく、頻度は少なくとも短い期間での大雨には注意が必要です。また、東北や北海道では、今月も春の嵐に注意が必要と言えそうです。
5月は「メイストーム」雨風の強さアップ
5月は晴れる日が続いた後の、1回の大雨に注意が必要な時期なんです。昨年5月28日の天気図を例にあげます。
低気圧が北海道付近と九州南部と2つあります。そして、南の海上には台風1号が近づいていますね。台風から、大雨の原料となる「暖かく湿った空気」が前線に向かって流れ込み、雨雲が発達した事で高知や鹿児島では200ミリを超える大雨となりました。
台風は平年5月に1個発生する統計で、台風シーズンの幕開け月でもあります。5月の低気圧は台風からの力が加わりやすく「メイストーム」と言われる程です。急速に発達し、強い雨や強い風が襲ってきます。
4月と比べてもさらに荒れた天気となるおそれがあるのです。天気図上に低気圧や前線に加え、台風があるような時は、嵐のサインと言えます。
春に多いひょう被害に注意
また、4月に引き続き5月は雷雨の多い時期となります。
発達した雷雲の中には、たくさんの氷の粒があります。それがぶつかりあって雷が発生する訳ですが、その氷自体もこの時期はまだ真夏のような暑さでないため、溶けずに落下してきます。それがひょうです。
すでに今年も和歌山の梅などでひょうによる甚大な被害が発生しています。寒冷前線が通過するような所ではひょうの降るおそれがあります。雨雲レーダーなどを活用しながら雷雲の動きを確認していきましょう。
短い周期で発達した雨雲襲来か
では、この先の直近の予想をスーパーコンピュータで見てみます。すると日本列島は2〜3日晴れた後に雨雲がやってくる計算が出ています。
短い周期で天気が変わり、さらに10日(土)は黄色やオレンジ色の表示で大雨・暴風となる可能性が出ています。最新の予想でこまめに確認していきましょう。
5月は日に日に暑く 全国的に高温予想
続いて、1か月予報(平均気温)は、全国的に平年より高い傾向となっています。
例年5月の前半は25℃程度とまだ初夏の陽気の所が多いのですが、後半になると30℃以上の真夏日が全国的に増えていきます。
今年の5月も日に日に気温が上がっていくため、農作物の温度管理や農作業時の暑さ対策も早めに意識しておく必要があります。
熱中症警戒アラート
まだ本格的な暑さとなる前ではありますが先月23日、今年の熱中症警戒アラートの運用が始まりました。
熱中症の危険性が極めて高くなると予想される時に発表されるものです。2020年から始まった比較的新しい情報ですが、いわゆる「暑さ版の警報」です。
暑さの警報としての役割
そもそもなぜ、この情報が始まったのでしょう?天気予報で、「あすは35℃の猛暑日です。」と知ったら、なんだか大変な暑さになりそうだなと言う感覚はありますよね。しかしながら、その暑さをしのぐために何か積極的な対策をしてきたかというとどうでしょうか。
私自身気象予報士になる前までは暑いくらいへっちゃらと思っていた人間でしたが、近年、地球温暖化の影響で熱中症搬送者は急激に増加しています。厚生労働者による熱中症死亡者数は、令和1年以降平均で1,000人を超える高い水準にあるという事です。もはや暑さは災害の時代です。
気象庁にとっても、どうすれば国民がもっと暑さの予防をしてくれるかと言う事が大きな課題でした。そこで出来たのが、「熱中症警戒アラート」です。
温度では伝わらなかった「蒸し暑さ」
熱中症警戒アラートの一番のポイントは「暑さ指数」です。今まで暑さの判断材料といえば予想気温でした。ただ、この予想気温というのは「直射日光のあたらない場所」の気温の事です。ですから遮る物のない場所、例えばカンカン照りのグラウンドで気温を測った場合、予想気温よりも高いのが当然なのです。
また、夏と言えば、息苦しいほど蒸し暑いですよね。5月でも30℃を超える日がありますが、春は空気がカラッとしているので、日陰に入るとだいぶしのぎやすいです。一方、夏は春と違い湿度が高いため、日陰に入っても蒸し暑い訳です。
そうした今まで気温では分からなかった、日差しや湿度と言った要素を取り入れたのが「暑さ指数」であり、これが熱中症警戒アラートの基準なのです。
熱中症特別警戒アラート開始
暑さ指数が33になると予想された時は、熱中症警戒アラートが発表されます。そして、2024年からは新たな情報が追加されました。
暑さ指数35が予想される時は、さらに一段階上の「熱中症特別警戒アラート」が発表されます。こちらは暑さ版特別警報という認識でよいかと思います。過去に例のない危険な暑さとされ、人の健康に関わる重大な被害が生じるおそれがあります。
どちらの情報も発表されている間は農作業も危険な状況であります。作業の変更や、時間をずらすなどの対策が必要となります。
熱中症にならないために
農林水産省HPには、農業者が熱中症にならないための対策をまとめていますので、紹介します。なかなか作業を完全にストップさせる事は現実的に難しいかもしれません。
①熱中症情報の確認、②熱中症対策の実施、③熱中症対策アイテムの活用、④もし熱中症になってしまったらどうするか。
本格的な暑さはまだまだこれからですが、今年の夏もほぼ間違いなく猛烈に暑い日が多くなる見込みです。いまからできる事を少しずつしていきましょう。
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