(MS&ADインターリスク総研株式会社 山下慶介)
本シリーズでは、農業経営を取り巻くリスクの一つとして、自然災害を取り上げてきました。特に近年、我が国では気候変動等の影響で自然災害が激甚化・頻発化しています。
この激甚化・頻発化する自然災害への備えとして、事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)の策定が有効です。
今回は、テーマである「農業分野での災害対応における連携体制の構築」の観点から、特に農業経営者間や農業関係組織の連携が必要となる「産地BCP」についてご説明します。
BCPとは
産地BCPのお話に入る前に、そもそもBCPとは何か、一般的な内容をご説明します。
BCPとはBusiness Continuity Plan(事業継続計画)の略称で、自然災害等の緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめ、中核事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段等を予め取り決めておく計画を指します。
近年、自然災害が頻発化・激甚化の傾向にあり、もしそれらに直面・被災した場合、事業を継続できなくなる可能性があります。また、現代の企業は基本的にサプライチェーンを構成する一つの事業体であることから、自社の事業停止が、他社の事業に大きな影響を与える可能性もあります。
このように、自社およびサプライチェーン上の他社を守るため、農業を含む全ての分野においてBCPの策定が求められつつあります。
BCPと防災計画の違い
BCPと似たものとして防災計画が挙げられますが、この二つには「早期復旧を目的としているか否か」という大きな違いがあります。
防災計画は被害を最小限に抑えるために災害発生〜数日程度のいわゆる初動対応と呼ばれるフェーズの活動内容を検討します。一方、BCPは平常の業務レベルに戻すために初動対応に加え、数日程度〜業務再開の復旧対応フェーズの活動内容を検討します。
初動対応フェーズの実施事項は防災計画とBCPで重複していることがほとんどです。そのため、防災計画を策定済の場合は、それに早期復旧策を追加することでBCPを概ね完成させることが可能です。
農業分野におけるBCP
農業分野においても同様、事業継続のための取り組みとして、BCP策定は非常に有効です。
農林水産省のホームページに、農業分野向けにカスタマイズされたBCPのフォーマットが掲載されています。フォーマットは、「農業版BCP」と「産地BCP(=園芸産地における事業継続計画)」の二つがあります。それぞれのフォーマットが掲載されているリンク先は下記の通りです。
- 農業版BCP:自然災害等のリスクに備えるためのチェックリストと農業版BCP
- 産地BCP:施設園芸の台風、大雪等被害防止と早期復旧対策
なお、この二つのBCPは策定する範囲や目的によって使い分ける必要があります。
農業版 BCP は「個別の農業者が自分たちの生産を継続するために策定する」ものであるのに対し、産地 BCP は「産地の構成員が協力し、産地全体で災害対策を検討するとともに、万が一構成員が被災した場合は、産地全体で復旧に向けた取組を進める」ものと理解いただくとよいでしょう。
今回のテーマである「農業分野での災害対応における連携体制の構築」を検討する際には、産地BCPのフォーマットを活用してください。

(出典:農林水産省HP「園芸産地における事業継続強化対策産地 BCP 推進マニュアル」)
農業分野におけるBCPの必要性
農業経営者や農業関係組織のみなさんにBCPを紹介すると、これまで農業者や産地の経験で災害への対応できていたから不要であると言われることがよくあります。
しかし、直近では災害が激甚化・頻発化している傾向にあり、これまでの経験では対応しきれないくらいの被害を受けたり、そもそも経験を持った方が被災してしまい、対応ができない状況になったりする可能性があるでしょう。
他にも、復旧費用の増加・生産量回復までの収入減による経済的な損失が発生することで事業が継続できなくなったり、営農再開までの供給停止が「供給者としての信用失墜」に繋がり取引を停止されたりする可能性もあります。
BCP策定の必要性は様々ですが、予め事前対策・発災後の対応事項・早期復旧策を検討する必要性は変わりません。ぜひ、ご自身の産地におけるBCPの必要性を検討してください。
農業版BCPと産地BCPは両方策定した方がよいのか
農業分野においては農業版BCPと産地BCPの二つのフォーマットがあるため、いずれかを策定すればよいと認識されている方も多くいます。業務負担の観点から一度に両方を策定する必要はないものの、最終的には「両方を策定にいただく方がよい」とはお伝えしています。
農業版BCPと産地BCPは明確な違いがあります。農業版BCPは “自身”の営農を継続するために自身で策定する文書、産地BCPは“産地”での営農を継続するために関係者が連携して策定する文書です。
検討に際して参考になる点や共通する項目はありますが、どちらかがもう片方を完全に補完する文書ではないことをご認識ください。

(出典:農林水産省HP「園芸産地における事業継続強化対策産地 BCP 推進マニュアル」)
まとめ
今回のコラムのまとめは下記の通りです。
- BCPは農業分野も含めた現在のほぼ全ての事業体で策定が求められる。
- 農業分野においては、農業版BCPと産地BCPの二つがあり、目的によって使い分ける。
- これまでの経験や勘だけでは対応できない場面に遭遇しても、BCPがあれば発災直後から復旧まで一定レベル以上の対応ができる。
特に農業分野では農業継続の観点から、“産地”を構成する農業者間および各関係組織が連携していくことが重要です。産地BCPの策定・検討方法は次回のコラムでご紹介しますので、ぜひ参照してください。
シリーズ『地域農業の災害回復力を高める連携構築』のその他のコラムはこちら
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
会員登録をすると全ての「コラム・事例種」「基礎知識」「農業一問一答」が無料で読めます。無料会員登録はコチラ!
公開日
