(イノチオ中央農業研究所 診断分析チーム)
イノチオグループでは1990年より農業生産者の支援として病害虫診断を行っております。現在は年間1,200件前後の診断を実施させて頂いております。
本シリーズでは、実際に寄せられた病害虫診断の事例を交えながら、近年の気象状況や栽培環境・栽培方式の変化などの中で注意すべき病害虫やその対策についてお話させて頂きます。
今回は、トマト編です。黄化葉巻病には十分注意しているから大丈夫!そのように思っていませんか?でも、もう一つの”黄化”が広がっているかもしれません。
本コラムでは、トマト黄化病、黄化葉巻病を取り上げます。
その黄化、本当に“苦土欠乏”ですか?-トマト黄化病(ToCV)にご用心
「トマトの下葉が黄化してきたなぁ…最近、気温が上がって果実の肥大も進んでいるから、マグネシウム(苦土)欠乏が出てきたのかな。」「うーん、肥料を葉面散布しているのに、収まらないどころかじわじわと中位葉まで広がってきているような…?」
見慣れた葉の黄化、実はマグネシウム欠乏等による生理障害ではないかもしれません。近年、国内ではトマト黄化病(Tomato chlorosis virus, ToCV)の報告が増えています。
トマト黄化病(ウイルス病)
症状
- 葉:下位葉〜中位葉の葉脈間が黄化する。えそ斑となる場合もある。
進行は緩やかで、マグネシウム(苦土)欠乏等の要素障害に類似する。
【黄化病の葉】
葉裏にはコナジラミの寄生も認められました。
【黄化病検査で陰性判定となった葉】
栽培状況の聞き取りや植物体の状態と併せて、マグネシウム欠乏症や根の病気による養分の吸収不良等の可能性が考えられました。
- 果実:直接的な症状は稀であるが、葉の光合成能力の低下により、間接的に果実品質(肥大・糖度・着色)に影響を及ぼすことがある。
主な被害作物
トマト、ミニトマト
発生の仕組み
- 感染様式:コナジラミ類による吸汁伝染
- 病原名:トマト退緑ウイルス(Tomato chlorosis virus, ToCV)
【左:タバココナジラミ成虫、右:オンシツコナジラミ成虫】
対策
① 媒介昆虫(コナジラミ類)の防除
- 開口部のネット(目合0.4mm以下)の展張
- 出入口の二重展張
- 黄色粘着トラップの設置(粘着板、粘着シート)
- 登録農薬の適切な使用とローテーション
- 栽培終了直前の有効薬剤の散布、蒸し込み
(ハウス外に飛散した害虫が周辺雑草等で繁殖し、次作の飛来源となります)
【黄色粘着トラップを設置した圃場】

② 感染株の早期発見
- 黄化病検査の実施(弊社では、PCR法を用いて実施しております)
黄化病とマグネシウム欠乏症等の要素障害は、外見だけでは判断が難しいため、積極的に検査を活用することをおすすめします。
③ 感染源の除去
- 感染株の早期除去
着果しているからと放置しておくと、二次的な被害の拡大に繋がります。 - ハウス内外の雑草、野生えトマト等の除草(無病徴感染する雑草種あり)
トマト黄化葉巻病(ウイルス病)
症状
- 茎葉:生長点が黄化し、葉巻症状を示す。 茎の節間が詰まり、萎縮する。
- 果実: 着花不良、着果不良
【生長点の萎縮・黄化】
※抵抗性品種では、感染しても典型的な葉巻症状を示さない場合があります。
【黄化葉巻病抵抗性品種における症状の例】

LAMP法による黄化葉巻病(TYLCV)検査を行った結果、陽性判定でした。
主な被害作物
トマト、ミニトマト
発生の仕組み
- 感染様式:タバココナジラミによる吸汁伝染
- 保毒すると一生ウイルスを媒介し続ける
- 病原名:トマト黄化葉巻病ウイルス(Tomato yellow leaf curl virus, TYLCV)
対策
① 媒介昆虫(タバココナジラミ)の防除
- 前述の黄化病の対策に準じます。
② 感染株の早期発見
- 黄化葉巻病検査の実施(弊社では、LAMP法を用いて実施しております)
特に収穫前に感染が拡大すると、その後の経済的損失が大きくなります。
抵抗性品種では、感染していても顕著に典型的な萎縮症状を示さない場合が見受けられます。
③ 感染株の除去
- 前述の黄化病の対策に準じます。
④ 抵抗性品種の利用
!油断禁物!
※抵抗性品種でもウイルスに感染し、他の株への伝染源となる場合があります。先述の黄化病対策も兼ねた媒介昆虫の防除は必要です。
昨今の酷暑が長期化する状況において、「高温によりトマト黄化葉巻病耐性が低下する」との報告もあります。
抵抗性品種はひとつの手段です。皆さまの圃場の状況に応じて、様々な打ち手を組み合わせた対策を講じることが重要です。
被害の拡大を最小限にするために
弊社では、トマト黄化病・黄化葉巻病が疑われる場合、PCR法やLAMP法などを活用して診断を行っています。
どちらの病気なのか、もしくは併発しているのか診断が可能です。診断室には、見た目での判断が困難な、苦土欠乏または黄化病疑いのトマトの持ち込みが増加しています。
また、黄化葉巻病に抵抗性のある品種にもかかわらず、TYLCVが陽性の検体も見受けられます。
他の病気でも同様の症状が発生する場合もあるため、病気の見分けはとても難しいです。
発病初期段階で診断し、迅速に最適な対策を行っていただくことで、被害の拡大を最小限に留め、次作以降の伝染源を減らすことにつながります。
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次回は【近年増加する病害虫 アブラナ科編 黒腐病・黒すす病】についてご紹介したいと思います。ぜひ、ご覧ください!
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