(イノチオ中央農業研究所 診断分析チーム)
イノチオグループでは1990年より農業生産者の支援として病害虫診断を行っております。現在は年間1,200件前後の診断を実施させて頂いております。
本シリーズでは、実際に寄せられた病害虫診断の事例を交えながら、近年の気象状況や栽培環境・栽培方式の変化などの中で注意すべき病害虫やその対策についてお話させて頂きます。
キャベツの「黒腐病」と「黒すす病」
キャベツでは、育苗期から収穫期まで様々な病気が発生します。その中で、原因が細菌や糸状菌(カビ)であるものは、細菌が6種、糸状菌17種が報告されています。
昔は定植後に圃場での発生が多かった病気でも、近年では、育苗段階から発生するケースも増加しています。気温の上昇や、栽培面積の拡大等により密植をする機会が増え、感染しやすい環境になっている可能性が考えられます。
中には症状の見た目だけでは判断が難しいものも多く、「○○病に見えるから、登録のある農薬を散布しておこう!」と対応したつもりでも、病原菌が異なる場合は、効果が見られず被害が広がってしまう恐れがあります。
今回は、近年発生の多い細菌病の「黒腐病」、糸状菌の「黒すす病」を取り上げます。症状や対策について知り、少しでも早く正確な対応ができるように参考にして頂ければと思います。
① 黒腐病
発生時期は5〜6月または9〜10月、気温がやや下がり始める頃に発生が増加します。台風などの強風や大雨の後も増加するため注意が必要です!
また、昨年は11月に入ってから、千葉県では過去10年で最大の発生率となりました。平年の発病株数1.6%に比べて、昨年は44.8%と大幅に発生が増加しました。背景には、天候が安定しない日が多くなっていることが影響していると考えられます。
主な被害作物
キャベツ、ダイコン、ブロッコリー、チンゲンサイなどほとんど全てのアブラナ科作物
症状
- 生育中全期間発生する
- は種〜発芽初期に感染した場合、子葉の水孔(葉の縁などにある小さな穴)から病原菌が侵入し、先端の凹み部分から黒変し、急速に枯死する
- 本圃では主に下葉から発生し、葉縁に葉脈から外側に広がるV字形の黄色の病斑を生じる
- 病斑内の葉脈は暗紫色に変わり、枯死する
- 被害が激しい場合は、茎まで侵され、導管部が黒変する
- 次第に腐敗して根茎内に空洞ができる事もありますが、株の崩壊や悪臭は生じない
【苗での発病】

【圃場での発病】
発生の仕組み
- 病原名:細菌 Xanthomonas campestris pv. campestris (キサントモナス)
- 感染源:土壌伝染、種子伝染、水媒伝染、害虫の食害痕、中耕作業などによる傷口
- 雨や潅水と共に病原菌が跳ね上がり、葉縁の水孔や害虫の食害痕、台風などの強風や大雨でできた傷などから感染する
- 中耕作業などによる傷口も病原菌の侵入口になる
- 病原菌は乾燥に強く、被害残渣と共に土壌中で生存するため、残渣を放置・すき込みすることで次作の感染源となる
対策
- コナガ・ヨトウムシ・アオムシなどの食害性害虫の防除
- 抵抗性品種の栽培
- 被害残渣の放置やすき込みをしない
- 種子や育苗培土の消毒
- 台風など強風や大雨の前後は、予防的に薬剤散布をする
- 土壌の排水対策をする
- 土壌処理剤(オリゼメート粒剤)を使用し、予防的防除を行う
② 黒すす病
菌の生育適温は20〜25℃のため、昨年度の病害虫診断での持ち込みは4〜6月、10〜11月に多かったです。但し、菌自体は5〜35℃で生育するため、夏季高温期にも注意が必要です!
また、近年では一部の薬剤が効きにくい黒すす病菌が報告されています。一度広がると防除が難しく、栽培環境によっては毎年発生してしまう可能性があります。苗の時期から定期的な防除を心掛けましょう!
主な被害作物
キャベツ、ダイコン、ブロッコリー、などアブラナ科作物
症状
- 葉に直径1〜3cmの円形〜類円形、内部は灰白色で周囲は黒色の病斑を生じる
- のちに病斑は黒くなり、すす状のカビを全面に密生する
- 主に下位葉での発生が多いが、育苗期には地際部で発生することもあり、苗立枯症状となる
- 結球葉に発生することもあり、深く内部を侵して腐敗する
【苗(子葉)での発病】

【苗(地際部での発病】

【結球期の発病】
発生の仕組み
- 病原菌:糸状菌 Alternaria brassicicola (アルタナリア)
- 感染源:空気伝染、種子伝染
- 潅水時に胞子が飛散し、感染が広がる
- 葉に形成された病斑上の胞子が風によって広がる
- 発病葉との接触で感染する
- 肥料切れによる生育不良
対策
- 消毒済みの種子を使用する
- 育苗中は高温多湿条件にならないように管理し、発病した株は迅速に処分する
- 育苗期間中の頭上潅水では、胞子が飛散して感染が広がる危険があるので、底面給水を行う
- 定期的な薬剤散布を行う
- 適切な肥培管理を行う
被害の拡大を最小限にするために
弊社では、顕微鏡を使用して病原菌を観察し、病名の診断、適した薬剤の提案などを行うことができます。
診断室には、見た目での判断が困難な、症状が似た病気に感染した作物が多く持ち込まれます。お客様が圃場で見た症状からの判断では「○○病と思われる」と持ち込まれても、実際に診断を行うと違う病気であることも多くあります。
また、同じ病原菌であっても症状や病名が異なることや、作物によって同じ病名でも病原菌が異なることもあるため、病気の見分けや判断はとても難しいです。
発病初期段階で診断し、迅速に最適な対策を行っていただくことで、被害の拡大を最小限に留め、次作以降の伝染源を減らすことにつながります。お悩みの症状がある場合は、お気軽にご相談ください!
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次回は【水耕栽培で発生しやすい病気】についてご紹介したいと思います。ぜひ、ご覧ください!
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