(イノチオ中央農業研究所 診断分析チーム)
イノチオグループでは1990年より農業生産者の支援として病害虫診断を行っております。現在は年間1,200件前後の診断を実施させて頂いております。
本シリーズでは、実際に寄せられた病害虫診断の事例を交えながら、近年の気象状況や栽培環境・栽培方式の変化などの中で注意すべき病害虫やその対策についてお話させて頂きます。
今回は、養液栽培や水耕栽培で多く発生する病気のうち、根部への感染が原因で引き起こされる病気の一部を取り上げます。
養液栽培・水耕栽培で多く見られる病気
弊社の病害虫診断室にも、養液栽培や水耕栽培の作物が多く持ち込まれます。中でも、Pythium属菌による病害の相談が多く、トマト、ミニトマト、イチゴ、レタス、セルリー、バラなど、幅広い作物で発病が確認されています。
養液栽培における根部病害の90%はPythium属菌よるものとされています。その理由は、この菌は水中を泳いで移動する遊走子により伝染するためです。養液栽培では、遊走子が根から根へと容易に移動できるため、感染までの時間が短いのが特徴です。
さらに、1つの遊走子でも発病する可能性があるほどの感染力があり、急速に広がってしまいます。
今回は養液栽培・水耕栽培で多く見られるPythium属菌について紹介します。症状や対策について知り、少しでも早く正確な対応ができるように参考にして頂ければと思います。
*養液栽培とは、土壌を使わずに、植物の生育に必要な養分を水に溶かした「養液(液体肥料)」を用いて作物を育てる栽培方法を示しています。
① トマト 根腐病
病原菌
糸状菌 Pythium myriotylum または Pythium dissotocum (ピシウム)
症状
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主に養液栽培、水耕栽培で発生する
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初めに根の一部が褐変し、進行すると根系全体の褐変や腐敗がみられる
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Pythium myriotylum の場合
地上部は日中に茎頂部が萎凋し、夜間は回復する状態が2週間〜1ヶ月ほど続き、下葉から黄化、その後、株全体が枯死する
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Pythium dissotocum の場合
株全体の枯死は発生せず、茎頂部の萎凋のみ発生する
【根傷みの様子】

【根に感染したPythium属菌】
発生の仕組み
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感染源:水媒伝染、被害残渣からの感染
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苗または土埃によって侵入し、培養液中で急速に増殖する
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遊走子が、水中を移動して根に感染する
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腐敗した根などの被害残渣に卵胞子を形成して越冬し、翌年の感染源となる
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Pythium myriotylum の場合は春〜秋に発生、生育温度は15〜42℃で、適温は36℃
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Pythium dissotocum の場合は冬季の低温時に発生し、高温時には発生しない。生育温度は5〜38℃で、適温は31℃
対策
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通路やハウス周辺を被覆する
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被害圃場では、被害残渣と共に病原菌が残る可能性があるので、装置や資材の塩素剤での消毒や蒸気消毒が有効(発泡スチロールの消毒は熱(60℃)が有効)
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使用するチューブ類は、チューブクリーンやスイーパーPなどで内部を洗浄する
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培養液のpHを5.0程度で管理すると発病が抑制されるという報告もある
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養液温度が25℃以上になると発生しやすくなるため、近年夏場の温度管理は特に重要
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予防的防除資材として、銀イオン資材『オクトクロス®』を使用する(水耕栽培)
② レタス 立枯病
病原菌
糸状菌 Pythium uncinulatum または Pythium spinosum または Pythium irregulare(ピシウム)
症状
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下葉から黄化しはじめ、株全体が萎凋して立枯症状を示す
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根が褐変し、水浸状に腐敗、茎基部がくびれる
【根の褐変】

【地際の褐変】
発生の仕組み
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感染源:養液栽培の場合、水媒伝染、被害残渣からの感染
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病原菌は被害残渣中に卵胞子で越冬し、次作の伝染源となる
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発病適温は20〜30℃。梅雨期や秋口に多発する
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定植20〜30日後のレタスで発生することが多い
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養液栽培では、養液温度が高い・酸素不足・衛生管理不十分な場合に発生リスクが高まる
対策
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養液や設備の定期的な消毒(塩素系薬剤や蒸気消毒)。上記①トマト参照
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養液温度を25℃以下に管理し、溶存酸素濃度を高く保つ
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発病株の早期除去と廃棄
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外部からの土の持ち込み防止(施設の衛生管理の実施)
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適切な肥培管理を行う
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使用するチューブ類は、チューブクリーンやスイーパーPなどで内部を洗浄する
また、レタスのピシウム病は他の萎凋病(疫病、バーティシリウム萎凋病など)と症状が似ているため、正確な病害診断が重要です。
定期的な水の検査がおすすめです!
弊社では、顕微鏡を使用して病原菌を観察し、病名の診断、適した薬剤の提案などを行うことができます。更に、水に含まれる「ピシウム属菌」や「青枯病菌」の検査を行うことができます。
※病原菌密度や病原性の有無までは判定できません
水の検査は、以下のような方におすすめします!
- 原水、排液等にピシウム属菌・青枯病菌がいるか調べたい
- 殺菌処理を行った水に、ピシウム属菌・青枯病菌がいるか調べたい
ピシウム属菌や青枯病菌が含まれている水を使用して、養液栽培や水耕栽培をしてしまうと、一気に感染が広がってしまい、大きな被害が発生する可能性があります。
疑われる症状が発生した場合には速やかに検査し対策することが重要です。また、予防として定期的に検査することもおすすめです。
もし病原菌が検出された場合でも、迅速に最適な対策を行っていただくことで、被害の拡大を最小限に留め、次作以降の伝染源を減らすことにつながります。お悩みの症状がある場合は、お気軽にご相談ください!
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次回は【症状だけでは見分けが難しい病害虫【キャベツ編】黒斑病と黒斑細菌病】についてご紹介したいと思います。ぜひ、ご覧ください!
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