こんにちは、
農業歴36年。農テラスの山下弘幸です。現在、稼げる農業のコツをYouTube(農テラスチャンネル)で配信しています。このコラムでは私の実体験を交えながら『農業をビジネスとして捉える視点』についてお伝えします。
今回は、多くの農業者が一度は悩む選択肢「法人化するか、個人事業として続けるか」について、具体的な事例とともに解説します。
法人化するか、個人事業として続けるか
農業経営において「法人化するべきかどうか」という選択は、ビジネスの視点で重要な分岐点です。
一方で、法人化した方が「税金が安くなる」「補助金が取りやすい」といった断片的な伝聞が独り歩きし、判断に迷う方も多いのが実情です。
結論から言えば、事業を成長させ続ける意志があるなら、法人化を強くおすすめします。この考え方を軸に、以下の3つの視点から法人化の意味と効果について、具体的な事例を交えて解説していきます。
相談事例:法人化に悩む新規就農者
広島県に住む50代の男性。飲食業から転身し、今年からお米の生産を始めました。農地を借りるにあたり、個人で借りた方がいいのか、それとも法人を立ち上げて借りた方がいいのかで悩んでいました。
さらに、49歳以下でないと利用できない補助金の対象外となってしまったため、「補助金を含めて法人と個人、どちらがいいのか?」という点でも判断に迷っていたのです。
私のように家業が農家でそのまま親の後を継いだ場合も、「法人化」について同じようなお悩みを持たれている方は多くいらっしゃるのではないでしょうか。かつての私もそうでした。
法人化は「目的」ではなく「手段」です。以下の3つの視点から、法人化する意義について考えてみましょう。
視点1:制度と補助金の活用幅を広げる
視点2:取引の信用力を高めて事業の継続性を強化する
視点3:公私を分離し経営の透明性を高める
視点1:制度と補助金の活用幅が広がる
法人になると、農業者向けの補助金だけでなく、中小企業向けの「小規模事業者持続化補助金」や「事業再構築補助金」等も対象になります。個人に比べて補助金の上限も高い傾向にあり、選択肢が広がるのは大きな利点です。
背景として、国が法人化を推奨しているという状況があります。かつては法人設立時に多額の資本金が必要でしたが、現在は1円からでも会社が作れる時代。誰もが会社を持てる環境が整っていることを意味します。
ただし、「補助金を取るためだけ」の法人化は本質を見失いがちです。重要なのは、“稼げる農業の仕組みを作る”ために法人という“器”をどう活かすかという視点です。
視点2:取引の信用力を高めて事業の継続性を強化する
法人化により、取引先や金融機関からの信用力が高まります。
特に金融機関からすると、法人の場合は決算書類を通じて財務状況を明確に把握できるため、融資判断がしやすくなります。つまり、個人と比べて法人は、事業成長を加速させるための「成長資金」を得やすくなるということです。
また、法人は登記を抹消しない限り存続します。個人事業と異なり、法人の場合は事業の承継がしやすく、長期的なビジョンを描くことが可能となります。会社という“器”があることで、事業を未来へと引き継ぐ道が開かれるということです。
視点3:公私を分離し経営の透明性を高める
個人事業の場合、プライベートと仕事のお金が混在しやすく、経費の取り扱いや資金管理が煩雑になりがちです。法人化することで財布が明確に分かれ、事業のお金が整理されることにより、経営の透明性が高まり、健全な財務管理にもつながります。
もちろん、法人化には手間がかかるのも事実です。登記、決算、税務申告、社会保険など、管理コストや手続きが煩雑で、個人に比べて「面倒くさい」と感じる人も多いでしょう。
しかし、それでも私が法人化を選んだ理由、もっといえば法人化をおすすめする理由は“信用”が何より重要だからです。特に自治体や企業と連携する仕事では、法人であることが信頼の前提になる、すなわち法人でないと取引できないことも多々あります
まとめ:法人化は「目的」ではなく「手段」
法人化には多くのメリットがあります。しかしそれは、「補助金が取れるから」「雇用したいから」といった短期的な理由だけで決めるべきではありません。
法人化したのにお金が「借りられない」「信用されない」、そんな状態では法人化のメリットは活きません。法人化のメリットは「事業のビジョン」と「事業を成長させ続ける意志」があってこそ、有効な手段となるのです。
なお、法人化したからといって絶対続けなければいけないわけではありません。「自身の目指す姿にマッチしない」と思えば、法人をやめる選択肢も持っておく。そうした柔軟性もまた、経営者にとって大切な視点です。
行動へのアドバイス
私も法人を持っています。社会的信用を得ることを優先して法人設立しました。確かに法人化は税制面で有利に見えることもありますが、それ以上に得られるメリットは大きいと感じています。
ただし、法人化するなら、次の準備が必要です。
- 企業としての責任を自覚すること
- 社会保障や税務の知識を身につけること
- 金融機関との関係性を築き、資金調達力を養うこと
この3点が整えば、法人という“器”を最大限に活かすことができます。
法人化はあくまで「目的」ではなく「手段」です。自分の農業をどのように育てていきたいのか。その答えを持っている人にとって、法人という器は強力な味方になります。
「なんか補助金の優遇がよさそう」、「節税できる」のように世間で言われているような一時的な税制優遇や補助金に目を奪われることなく、事業を成長させ続ける「意志」と「覚悟」を持ってこそ、法人化のメリットを活かすことができるのです。
シリーズ『脳を耕せ!農業をビジネスに変える思考力』のその他のコラムはこちら
執筆者の農テラス 山下さんに経営アシストチャットで相談ができます。お気軽にご相談ください。詳しくはコチラ!
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
公開日
