こんにちは、
農業歴36年。農テラスの山下弘幸です。現在、稼げる農業のコツをYouTube(農テラスチャンネル)で配信しています。
このコラムでは私の実体験をもとに『農業をビジネスとして捉える視点』についてお話します。というテーマでお伝えしていきたいと思います。
今回は新規農業者向けのお話です。しかし、すでに農業をやっている方もドキっとするようなお話です。
借金が膨らみ悩む新規就農者のリアル
「非農家から農業を始めて6年。初期投資と自然災害の影響で借金が膨らみ、返済が困難になっています。今後、どう経営改善すればいいでしょうか」
このような相談は後を絶ちません。全国を見渡せば、相談件数は年々増えている実感があります。
夢と志を持って農業の世界に飛び込んだものの、現実は厳しく、売上が思うように伸びない一方で、経費がかさみ、経営は赤字続き。心身ともに疲弊し、「あのときサラリーマンを辞めなければ」と自責の念にかられる。脱サラして初めて負債を抱え、不安で夜も眠れない・・・。
そんな状況に追い込まれた相談者に、私は率直にこう伝えました。
「あなたは“農家ガチャ”に失敗したのです」
農家ガチャとは何か?危険な“見栄”農家
“農家ガチャ”とは、私が作った造語です。新規就農者が農業研修の研修先として選ぶ農家が「当たり」か「ハズレ」かにによって、その後の農業人生が大きく左右される現象を指します。
まるでカプセルトイのように、どの農家に当たるかは運任せ。良い農家に出会えれば成功の道が開けますが、外れを引けば借金地獄が待っています。
私が特に危険視しているのが、「見栄農家(みえのうか)」と呼んでいるタイプです。
“見栄っ張り”を真似てしまうと・・・
文字通り“見栄っ張りな農家”の意味で、必要以上に高価な最新機械や肥料にこだわり、「立派な見た目こそが成功の鍵」と信じて疑わない農家のことです。
運悪くそこに研修に行った新規就農者は、それを真似てしまい、初年度から多額の投資を行ってしまうという事態に陥りがちです。
しかし、それは「投資」ではなく回収の見込みがない「浪費」や「投機」であることが多いため、設備や資材にかけた金額に見合う収益が得られず、返済に追われて経営も心も破綻していくのです。
非農家が農家になるという高いハードル
国の政策として、担い手不足を補うための支援制度はありますが、実家が農家でない非農家が農業で食べていけるようになるのは至難の業といえます。実際に、農業で生計が成り立っている方はごく一部です。
だからこそ私は、新規就農を考える人に次の3つをアドバイスするようにしています。
① 農業の前にビジネスを学ぶ
②「稼ぐ仕組み」を持つ農家のもとで学ぶ
③「お金の話ができる人」と付き合う
新規就農希望者への3つのアドバイス
① 農業技術の前にビジネスを学ぶ
一つ目のアドバイスは、「農業技術より先にビジネスを学ぶべき」ということです。
農業は産業であり、営利事業です。野菜の育て方だけを学んでも、売れなければ意味がありません。むしろ、作り方を学ぶ前に「誰に」「いくらで」「どう届ける」というビジネス設計が必要です。
相談者のような非農家出身者こそ、農業研修より先に農業における「お金の仕組み」「利益の出し方」「コスト管理」を学ぶべきなのです。
② 「稼ぐ仕組み」を持つ農家のもとで学ぶ
二つ目のアドバイスは、「“意図して”利益を出している農家を選んで学ぶべき」ということです。
研修先の農家が“運良く儲かっている”だけでは、再現性がないため不十分です。どのような販売戦略を立て、どんなターゲットに向けて、どんな手法で販路を確保しているのか。こうした“稼ぐ仕組み”を言語化できる農家でなければ、研修は意味を成しません。
もし自治体などから紹介された農家が“見栄農家”であった場合は、断る勇気を持ちましょう。自分の未来は、紹介者ではなく、自分で選ぶべきです。
③ 「お金の話ができる人」と付き合う
三つ目のアドバイスは、「お金の話が自然にできる人と付き合いなさい」ということです。農業界では“お金の話=いやらしい”とされがちです。これこそが最大の落とし穴と言えます。
投資と浪費の違い、原価と利益のバランス、キャッシュフローの重要性など、日常的にお金に関して話せる相手と付き合うことで、健全な経営感覚が養われ、あなたを正しい道に導いてくれることでしょう。
成功は「出会い」で決まる
農業を成功に導く最大の要因は“技術”ではなく“人”です。つまり、「誰を師匠に選ぶか」で人生が大きく変わります。自分で情報を精査し、信頼できる人を見極め、その人を師匠に選ぶ「判断力」が不可欠です。
“窓口ガチャ”という問題も・・・
また、窓口ガチャという別の問題もあります。研修先を紹介する自治体などの担当者が、地元の評判や生産力だけで判断し、ビジネス視点がない農家を薦めるケースがあります。この時点で「外れくじ」を引き、決断してしまうと本人にとって致命的です。
ビジネスを知らない人が農業にとって、悲劇はこの“窓口”からすでに始まっているのです。
研修先の紹介者にビジネス感覚がない、研修受け入れ農家もビジネスを知らない、これでは「泥船」に乗るようなものです。
あなたがしっかりとビジネス感覚を持たなければ、農業での成功は不可能といえるでしょう。
良い研修先に出会うために
農業研修が「人生を左右する出会い」になることは、これまでお伝えした通りです。良い研修先に出会うためにも、農業技術の前にまずはビジネスを学びましょう。
では、どうすれば“良い農家”と巡り会えるのでしょうか。良い研修先かどうかを見抜く方法、そして「ビジネス感覚を持った農家」を見極めるための視点について、実践的なアドバイスをお伝えします。
良い研修先かどうかを見抜く方法
実際に現地へ足を運ぶとき、見るべきは「設備の立派さ」ではありません。以下の視点で農家の姿勢や考え方を見極めましょう。
現地で注目すべきポイント
- 収支のバランスが取れているか
|見栄の設備ではなく経費と売り上げのバランスを考えて投資している - 作業が段取り化されているか
|動線がシンプルで、誰が見てもわかる「仕組み」がある - 農業日誌や記録を残しているか
|感覚や経験値ではなく、数字に基づき情報を管理している
研修前にすべき「質問」とその意図
- この作物を選んだ理由は?
|マーケットイン視点を持っているかを探ります。 - どうやって販売先を見つけましたか?
|販売ルートの工夫と開拓力があるかを確認します。 - 年間どれくらい利益が出ていますか。
|売上と経費が実際の「数字」として頭に入っているかを確認します。
「誰と出会い、誰に学ぶか」
夢を持って飛び込んだ農業という世界。その夢を叶えるも潰すも、「誰と出会い、誰に学ぶか」、そして「何を学ぼうとするか」にかかっています。
あなたの農業人生は、研修先によって決まります。だからこそ、就農前の正しい「判断」が重要なのです。
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