こんにちは、
農業歴36年。農テラスの山下弘幸です。現在、稼げる農業のコツをYouTube(農テラスチャンネル)で配信しています。
今回は、「農業部会を辞めたい」という新規就農者からの相談を元に、農業部会が抱える課題とその中で新規就農者が農業で「勝つ」ためのマインドセットについて解説します。
「部会をやめたい」就農者の葛藤のはじまり
「山下さん。私、出荷部会を辞めようと思うんです」
こんな相談をしてきたのは、夏秋トマトで有名なある部会に属する48歳男性農家。
この方は15年前に移住のうえ新規就農し、部会に入りました。元々、非農家だったこともあり、当初は右も左もわからぬド素人。トマトづくりもそこで学びました。
教えてくださる先輩農家が丁寧だったこととでメキメキと腕を上げ、数年後にはそれなりの収量を取るようになった。地域活動、農協活動にも力を入れ地元でやっと受け入れられたと感じ始めました。
しかし、その方は徐々にある変化を感じ取ります。栽培の指導も、地元の会合や飲み会でも、やさしく親切だった先輩農家がよそよそしくなっていると。
そして、あるとき気づくのです。「自分は地元の有力者から嫌われている」ということに。
地元民のコミュニティに存在する“見えない関係性”
地方ではその地にずーっと住んでいる地元民のコミュニティが出来上がっていて、「誰に気を使うべき」「誰の発言力が大きい」「誰が嫌われている」といった見えない序列が存在します。
地元の有力者もまたトマト農家。トマト作りが地元で一番上手と評され、一番収量も多い農家です。もちろん、周りからも一目置かれます。そうやって、田舎では目に見える形で結果を出した人が権力を得てきたのです。
地方に根付く同調圧力
この相談者は家族で移住していたため、いつも顔を合わせる先輩農家と気まずくなるのだけは避けたいと考えていました。片や、地元の権力者の周りでそれに忖度する“コバンザメ”が取り巻きをなし、田舎ではその会合でもどの場面で参加する方のメンツは決まっています。
そのような状況で彼が出した答えが、冒頭の「出荷部会を辞めようと思うんです」だったのです。そして私からの「なぜ?」に対して、「なんか、部会にいても成長しないような気がするんです。」と続けてくれました。
“私は新規で農業を始め、自分なりに調べて試行錯誤してきました。その結果作型と品種を変えることで収量が多くなることに気が付いたんです。
私は良かれと思ってそれを部会で提案したんですけど、誰も聞いてくれないんです。それどころか、「もし失敗したらどうするんだ!今までこの作型、この品種でやってきたから、これで○○市場から信頼を受けている。これまで作り上げてきた信用を無くすわけにはいかん!」と叱責を受ける始末。
それからというもの、「あいつはよそ者のくせに生意気だ」そんな空気になってしまって・・・”
農業は「こうあるべき」という思い込み
とにかく農業をやっている人は「こうあるべき」「こうでなければいけない」と思い込んでいることがたくさんあるようです。
例えば、作型ひとつとってもそうです。促成栽培やら半促成栽培、雨よけ栽培など40年前に農大で習った作型は今の気候にはそぐいません。だけど自分だけ作型を変えるわけにはいかないのです。
なぜなら、共同出荷部会に所属しているから。部会は同じ品種、同じ施肥、同じ作型で同じような栽培をするのが基本。同じJA○○、○○部会という同じブランドで出荷するからです。
部会で起きる問題の本質
実は、私は部会をやめています。
私も部会に属していた時、意見を言えばうるさい奴だと煙たがられ、「そんな部会はやめてやれ!」と思ってすぐに辞めることを伝えました。
辞める時には「辞めてもいいけど、ダメだったって言って帰ってくるなよ」と威圧されました。今どきそんな部会は少数かもしれませんが、大なり小なり全国の農協の部会で起きている事例です。
これは農協が悪いのではありません、そういう部会では、部会内の農家に問題があるのです。
農協はあくまで協同組合。農協職員は私たちが雇っている職員です。そして理事も部会長も自分たちが選出しています。一方で、部会員は出資すれば誰でもなれる。だからいろんな農家がいるのです。
部会を辞めたからこそ見えてきた視点
さて、彼の相談に対して、私の回答はこうでした。
「部会、辞めない方がいいですよ」
私のアドバイスに相談者も戸惑っていました。「え?でも山下さんは出荷部会辞めたんですよね?」と。そうです。私は入ってすぐに辞めました。
でもすぐに後悔しました。なぜなら、一人で戦うのはハードルが高いためです。
自分でパート雇って選別して梱包して出荷する。でも個人で市場に持ち込んでも系統出荷品にはかなわない。市場からの信用が違いますからね。
ただ、辞めたおかげでやることも見えてきたものもありました。
農業は“ゲーム”という視点
これまで農協共販部会は共同で、同じ時期に、同じように作り、同じブランドで出荷してきましたよね。
ただ、ブランドへの評価って買い手によって変わるんです。例えば、直接青果業者に卸す場合、“最高”品質より“安定”品質が求められることがあります。
つまり、誰を相手に勝負するかによって、勝つための戦術が変わる“ゲーム”なのです。
また、ゲームというのは「何をやれば勝ち」というルールが決まっています。例えば、サッカーや野球では点を多くとった方が勝ちです。
では農業というゲームだとして、「何をやれば勝ち」だと思いますか?
勝ち方は「誰を相手にするか」で決まる
農業ゲームで勝つ方法、すなわち「何をやれば勝ちか」は相手によって異なります。
- 卸売市場へ出荷する場合は「出荷量が少ない時にも安定して出荷できる」が勝ち
- 青果業者へ直接卸す場合は「契約で決められたことを守れる」が勝ち
- ECサイトで直接販売する場合は「お客さんとマメにやり取りできる」が勝ち
上記は考え方の一例ですが、重要なのは誰を相手に勝負するかで取るべき戦略が大きく変わるという点です。ゲームの「相手」を正しく理解できれば、勝ち方が見えるということです。
そして、「部会」が相手となるゲームでは、「収量を増やす」が勝ち方です。それが見えたのならば、部会を抜けるのではなく、部会の中で「他の農家を圧倒する収量」を目指されてはいかがでしょうか。
ちなみに「部会を辞めるかどうか」に悩んでいたこの相談者は、その後、作型を少しずらすことで定植時期の負担を軽減し、長期採りトマトの収量で圧倒的な結果を残しました。
そして今年からそのトマト部会長を務められています。
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