こんにちは、
農業歴36年。農テラスの山下弘幸です。現在、稼げる農業のコツをYouTube(農テラスチャンネル)で配信しています。
このコラムでは私の実体験を交えながら『農業をビジネスとして捉える視点』というテーマでお伝えしていきたいと思います。
今回は、脱サラして農業を始めた方から実際に受けたご相談を例に、「農業をビジネスとして成功させる視点」について、解説します。
脱サラ農業に向き合う本当の覚悟
相談者は、サラリーマンを辞めて農業に転身して3年目。
高付加価値作物を栽培する施設園芸への挑戦を選び、初期投資として多額の資金をかけてスタートしました。しかし、今、理想と現実のギャップに直面しています。
夢見ていた理想は、週休2日で家族との時間を大切にしながら、自由に働ける生活。現実は、休みも取れず、子どもと過ごす時間も激減。加えて、多額の設備投資の返済が重くのしかかっており、「本当にこれで良かったのか」と不安を感じている様子でした。
サラリーマンより農業の方が自由?それ、本当?
農業という世界に「あこがれ」を抱いて農業の門を叩く者は少なくありません。
私自身、サラリーマン経験がありますが、「時間」に拘束され、組織の一員としてのプレッシャーと日々背中合わせだった会社員生活の方が辛く感じました。
ただし、「農業は自由で気楽か」というとそれは誤解です。
農業はすべてが自己責任。お金も時間も、すべて自分で生み出さなければならない、厳しくもやりがいのある「自営業」なのです。脱サラして農業を始めた以上生計を成り立たせ、しっかりと家族を守っていかなければなりません。では、飛び込んだ農業の世界で、どうすれば「自由」に近づくことができるでしょうか?
私は、次の3つのアドバイスをするようにしています。見落としがちなのは「自由を得るには設計図が必要」という視点です。
① 初期投資の償還は「長期設計」がカギ
② 人件費を前提とした「休みの再設計」
③ ビジネスオーナーとしての「意識転換」
自由を得るための3つの視点
① 初期投資の償還は「長期設計」がカギ
農業に限らず、ビジネスには初期投資が必要不可欠です。資金調達の現実的な方法として金融機関からの借入があります。
農業で重要なのは、借入を「いかに早く返すか」ではなく、「いかに無理なく返すか」です。支払いはなるべく長期で組み、日々の経費(種代・人件費・光熱費など)を差し引いた後に残る利益から、現実的に返済可能な額を設定すべきです。
とくに気象等の不確定要素の影響を受けやすい農業においては、焦って短期間で返そうとすると、先々において経営も生活も破綻するような状況に陥りかねません。
② 人件費を前提とした「休みの再設計」
自営業は自由に見えて、実は自由ではありません。だからこそ「自分の時間」を守る仕組みを先に作るべきです。最初から無理のない人員計画を立て、相応の人件費を計上し、人を雇ってでも自分の時間を守る仕組みを整えましょう。
「休みの時間」というのは、単なるリフレッシュの時間ではなく、ビジネスにおいて非常に戦略的な意味を持ちます。優れた経営者は仕事から一歩引く時間を意識的にとり、そこから新たな着想を得ています。
読書で先人の成功・失敗事例を学ぶ時間、地域や異分野の人との交流の時間、アートや文化に触れる時間、内省や無意識になる時間など、経営者としての“余白”を意識的に作る、いわゆる「自己投資」の時間です。
そういった“自由”時間を作るための雇用コストを惜しまず、計画的に人材を活用できるようになることが、結果的に持続可能な農業経営につながります。
③ ビジネスオーナーとしての「意識転換」
脱サラして農業を始めるということは、単なる職業選択ではなく「ビジネスオーナーになる」決意をすることです。会社員時代に費やした努力やスキルは、すべて会社の資産になりますが、独立後に積み上げた経験や顧客との関係、ノウハウはすべて自分の資産になります。この意識の違いが、農業を「仕事」から「事業」として捉える視点を育て、未来への自己投資にもつながっていきます。
自由を得るのにも設計図が必要
相談者が見落としていた最大のポイントは、「脱サラ=自由」ではないということです。
自由とは、ただ労働から解放されることではなく、自分の時間とお金を自分の責任でコントロールできる状態を指します。つまり「自由には設計図が必要」なのです。
週休2日を夢見るのであれば、そのための収益構造や人材配置を、最初の段階から意識的に組み込まなければなりません。ビジネスオーナーとして、その休みと位置付けた2日の使い方すらも設計する必要があるのです。
次のステップで実践すべきことは?
相談者はすでに高付加価値作物に挑戦し、設備投資も行っています。今後は、次の2点がカギになります。
① 収支の可視化と利益設計
毎年の収支を見直し、変動費(資材・人件費・光熱費)と売上のバランスを可視化し、「返済可能な利益」を把握することが重要となります。
② 休みを前提とした働き方の再設計
パートナー等と分業し、繁忙期と閑散期を見極めて、地域農家との「労働力の交換制度」なども活用するなどして、持続可能な労働体系を構築することも重要です。これらの実践には、次のようなスキルが求められます。
- 経営設計スキル
|収支シミュレーションをもとに、償還計画と生活設計を行う力 - 人材マネジメントスキル
|雇用を前提とした労働力設計とチーム運営 - マーケティングスキル
|作物の価値を伝え、安定的に販売する力 - ネットワーキングスキル
|近隣農家との連携や、地域資源の活用による相互協力体制の構築
生きるために事業を持つ
「好きだから農業をやる」のではなく、「生きるために事業を持つ」。この視点があるかどうかで、同じ脱サラでも結果はまったく違ってきます。もちろん、いま農業に携わっている方も同様です。
農業は決して楽ではありません。けれども「自分で生きる力」を得るためには、これほど力強いフィールドもありません。農業はあなたの人生そのものを耕す営みなのです。
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