こんにちは、
農業歴36年。農テラスの山下弘幸です。現在、稼げる農業のコツをYouTube(農テラスチャンネル)で配信しています。
このコラムでは私の実経験を交えながら『農業をビジネスとして捉える視点』というテーマでお伝えしていきたいと思います。
「美味しい」だけでは売れない時代
関東に住む30代の若手イチゴ農家から、こんな相談が寄せられました。
“現在は卸売業者に安定的に出荷しています。価格は決まっており、収入も一定ですが、せっかく育てたイチゴを直接お客さんに届けて「美味しい」と言われたいという気持ちもあります。直販に興味はあるけれど、決済や発送、PRなどを考えると、なかなか踏み出せません。”
このような悩みは、多くの農家が抱えるものではないでしょうか。
共販部会や卸売市場への出荷では、自分が育てた作物が「誰に」「どこで」食べられたのかがわかりません。手塩にかけて育てた農産物が、自分の手を離れた瞬間から、その行方は見えなくなります。
消費者からの「美味しかったよ」「ありがとう」といった言葉が農家に届くことはほとんどありません。もし、農家自身の手で直接届けることができれば、農業がもっと楽しくなり、充実感を得られることでしょう。
自分が作ったものを、顔の見える相手に届けたい
しかし、いざ直販するとなれば、現実的にパッケージや発送、値段決めからクレーム対応まで、すべてを農家自身で行う必要があります。
その負担を考えると、「やっぱり今のまま、皆と一緒に共同出荷の方が気が楽かも」という安定と挑戦の狭間で揺れる気持ちもよくわかります。
「自分が作ったものを、顔の見える相手に届けたい」──この気持ちは農業の原点とも言えるものです。
一方で、直販には“向き・不向き”があるのも事実。今回の相談をもとに、直販という選択肢の本質と、取り組む際に必要な視点を一緒に掘り下げてみましょう。
直販の本質と必要な視点
アドバイス①:「誰に売るのか」を言語化せよ
-ペルソナ設定がすべての起点-
「うちの商品は誰にでも喜ばれる」と思っていませんか?これは直販で最も陥りやすい誤解です。まず必要なのは、「誰に買ってほしいのか」を具体的に定めること。これがペルソナ設定です。
例えば、「30代の子育て中のママ」「洋菓子店のオーナーシェフ」「地元を応援したいシニア世代」など、ターゲットによって価格設定、パッケージ、販促方法等のもすべてが変わります。
ペルソナ設定はただのマーケティング用語ではありません。農家が「未来のお客さまとどのようにつながりたいか」を言語化する、直販の第一歩です。
アドバイス②:「美味しい」は伝わらない
-“美味しそう”の演出こそが勝負-
「うちのイチゴは味に自信があります」と言う農家は多いですが、実際に味わってもらう前に“美味しい”ことを伝えることはできません。味覚は主観であり、相手の状況にも左右されるからです。
たとえば、チョコレートの後にイチゴを食べれば甘さを感じにくくなりますし、配送時の温度や鮮度によっても味が落ちることがあります。「味で勝負する」と言う人ほど、直販の難しさを痛感することになるでしょう。
そこで重要なのが、“美味しそう”と思わせる演出力です。SNSや動画で、「イチゴをほおばる笑顔」「朝摘みの光景」「箱を開けた瞬間のリアクション」など、“視覚”と“ストーリー”で伝える工夫が求められます。
アドバイス③:「アンバサダー」を見つけよう
-熱心な推薦者こそが最強の営業マン-
SNSも大事ですが、もっと効果的なのが“口コミの力”です。なかでも「アンバサダー」は、あなたの農作物に惚れ込み、誰にでも勧めてくれる熱心な推薦者のこと。あなたを応援し、自発的に売ってくれる存在は強力です。この関係性こそが、直販において継続的な売上を生むカギになります。
ある農家では、このアンバサダーの存在が売上の柱になっています。店頭販売をしていなくても、口コミだけで売れていく。これは単なるお客様ではなく、“営業パートナー”といえる存在です。
直販というサービス業に足を踏み入れる覚悟
直販になかなか踏み出せないと言う今回の相談者に足りなかったものは、「農業ではなく、直販というサービス業の世界に足を踏み入れる覚悟」です。
直販では、作るだけでなく、売る・伝える・関係性を育むという“全く別の職業スキル”が求められます。
- 人と話すのが好き
- 聞き上手である
- 相手の立場で考えられる
- 表情が豊かで清潔感がある
これらの素養がある人は直販に向いています。逆に、
- 人付き合いが苦手
- 無愛想
- 感情の起伏が激しい
- 商品以外に興味がない
こうした人には、直販は正直おすすめできません。
実践すべきステップ
第一に、ペルソナを設定します。次に、ターゲットが共感するSNSコンテンツを発信します。この時、実際の生活に商品がどう役立つかを伝えます。商品そのものよりも「どんな価値を届けられるか」に重きを置く必要があります。
そして、既存顧客への感謝を惜しまないことです。あながた感謝の言葉を伝えた人は、自然とファンになり、やがてアンバサダーになってくれるかもしれません。
農作物の販売に限らず、現代のビジネスは「レビュー」によって成否が分かれます。自分で「美味しいよ」と言っても響きませんが、誰かが「あそこのイチゴ、本当においしかった」と言ってくれたら、それは最大の販促になります。
消費者でもある私たちは、意外と他人の評価で買うか/買わないかを決めている節があるのです。
最後に、あなたにサービス業の覚悟はありますか?
さて、直販を実践するために必要なスキルは何でしょうか?それはサービスマインドと人間力、すなわち人と接することに楽しさを感じ、丁寧な言葉遣いと礼儀が自然にできる力です。
理想を言えばSNS運用・動画編集スキル、具体的には映える写真、ストーリー性ある文章、簡単なリール動画が作れるレベルが欲しいところです。
また、「売れない理由」を分析し、マーケティングと顧客心理を理解するスキルも重要になります。
あなたには、サービス業の覚悟がありますか?
「いやー、そんな小難しいことは私にはできないよ。」
そう思われたなら、初めから直販は止めておいた方がいいです。
直販とは、自分自身の“魅力”を届ける仕事です。味だけではなく、作り手の顔、想い、関係性が商品になる世界です。もし、あなたが「売るよりも、繋がりたい」「感謝される仕事がしたい」「自分のブランドを築きたい」と願うなら、直販は面白い世界と感じるでしょう。
もし、その覚悟がないなら、無理に踏み出す必要はありません。直販とは、“モノを売る”のではなく、“自分に惚れさせる”という全く違う営みなのですから。
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