(株式会社農協観光 関谷 紀志)
はじめに
はじめまして。株式会社農協観光地域共創事業部にて主に農業分野の労働力支援に取り組んでいる関谷です。
当社はJAグループの一員として旅行事業を中心に取り組んでいる旅行会社です。この旅行事業の経験を活かし都市と地方、生産者と消費者を繋げるふれあいコーディネイターとして事業に取り組んできました。
本連載においては、当社も取り組んでいる農業分野の労働力不足について、ライフスタイルや意識の変化が多様な働き手を生み出していること、農業の労働力の現場も日々変化していることについてお送りしたいと思います。
連載を通じ、生産者の方には「このような募集方法があったのか」、応募者の方には「こんな農への携わり方があったのか」など、何かしら気づきがあると嬉しく思いますので、ぜひご一読ください。
コロナ禍を契機として
2020年の新型コロナ感染拡大に伴い、人々の行き来が制限される状況になると、もともと担い手不足や働き手不足が課題となっていた地方では繁忙期における植え付けや収穫といった作業に従事する働き手の確保に大きな影響が表れました。メディアなどで、地域や近隣の方々の協力、外国人労働者で成り立っていた現場の課題が大きく取り上げられたことは、記憶に新しい方も多いかと思います。
このような背景を踏まえ、当社では培ってきた旅行というノウハウを活かし、働き手を必要としている地域と働き手を結び付ける「労働力応援事業」に取り組むことにしました。そして、この事業に取り組む中で、農業における労働力不足の実態や農業に関わってみたいという方々のニーズを知ることができました。
本連載を通じ、農業現場における新たな働き手の確保と農業へ参入したい方々の動向について、当社の取り組んできた事例なども交えながらご紹介できればと考えたのは、そのような背景からです。生産者の方には働き手確保のヒントに、また農業界で活躍する人が少しでも増えることに貢献できればと願っております。
日本社会は労働力不足?農業は?
ご承知のとおり、日本は少子高齢化社会となっており15歳〜64歳の生産人口は減少しています。また、都市への移住による地方の過疎化も深刻であり、特に地域での人手不足は大きな課題となっています。そのような背景もあり、政府は定年の引き上げを実施するとともに、働き方改革による多様な人材の活躍の場を生み出す施策を進めています。
つまり、多くの企業では従来の日本社会では当たり前とされていた「60歳までの日本人男性をフルタイム労働の正社員として雇用する」だけでは、労働力の確保が困難になっているということであり、この点が日本社会全体の労働力不足と言われる点です。そこで「定年の引き上げ、女性や外国人など多様な人材の活躍、短時間勤務など労働環境の見直し」が図られています。働き方改革では過労死対策として残業規制などの言葉が独り歩きしている部分もありますが、そもそも労働者から選ばれる職場となるため、柔軟に労働力を呼び込むために企業が積極的に取り組むべきことなのです。
さて、一方で農業の現場はどうでしょうか。他産業以上に人手不足は深刻であり、働き方改革なんて非現実的と考えている方も多いのではないでしょうか。実は必ずしもそうとは言えない現状があります。2025年8月に農林水産省から発表された「新規就農をめぐる現状と課題(https://www.maff.go.jp/j/study/attach/pdf/250731-5.pdf)」のP.2「新規就農者の動向」に基づくと、「新規雇用就農者(農業法人等に雇われる形で就農する者)は、平成27年(2015年)以降は1万人前後で推移(抜粋)」となっています。
そもそもの農業従事者が少なく、全体的には依然として人手が足りていない実情はありますが、他産業では雇用人数が大きく下落している中で、農業においては雇用就農者数が横ばいで推移しているというこの状況は大きな意味を持っています。つまり、従来は独立就農が中心となっていた農業において、法人化等により雇用されて農業に従事するサラリーマン農家は常に一定数以上がいるのです。
時代を先取り?農業界は既に多様な働き方
また、働き方改革で掲げられる「定年引上げ、短時間労働」を農業に照らし合わせるといかがでしょうか。皆さん、少し思い起こしてください。
・統計上の生産人口は64歳、定年は60歳とありますが、農業者で60歳に引退をする人はどれだけいるでしょうか。
・繁閑のある農業ではフルタイム出勤よりも忙しい時期のみの短期雇用や短時間労働の働き手が重宝されているのではないでしょうか。
・そして地域のパートの方には男性以上に多くの女性の方や外国人の方が活躍しているのではないでしょうか。
つまり、多くの企業が頭を抱えて就業規則を見直す中で、農業界は明文化こそされていないものの、既に多様な人材による多様な働き方が根付く素地が十分にあるのです。
農業現場における労働力不足とは
さて、日本全体で労働力不足が深刻化する中で、僅かですが農業における労働者確保の兆しをお伝えしましたが、そもそも農業現場における労働力不足とはなんでしょうか。
日本の農業は個人経営体(非法人の家族経営体)が主流であり、経営から生産や販売まで全てを担う後継者・担い手の問題が多く取り上げられていました。一方で農業法人も増えていく中で安定的に事業を拡大するための正社員や、繁閑に対応するパート・アルバイトのような雇用就農者のニーズも高まってきています。ここで重要になるのが農業界の労働力不足と一言で言っても、みなさんが求めている労働力は担い手からパートまで、経営体の事情に応じて多種多様、ということです。
このような背景を踏まえて、農業現場で求められる働き手について整理をしてみます。
事業承継を目的とした後継者・担い手
親族や外部から後継者を育成し将来的な譲渡などを視野に。農業委員会や求人サイトなどから独立就農をしたい希望者を募集。
事業拡大や継続を目的とした正社員
経営や生産における右腕として正社員を雇用、育成する。求人サイトや人材紹介などを活用して希望者を募集。技能実習や特定技能などの外国人材の活用も想定される。
長期的な(主に生産現場における)労働力
年間を通じて一定の仕事があり、安定した労働力確保を目的とする。求人サイトや人材紹介、人材派遣などを通じて募集。業務内容や賃金の兼ね合いにより、地域住民のパート・アルバイト、技能実習や特定技能などの外国人材活用など複数の取り組みが想定される。
中期的な労働力
収穫などの農繁期の特定作業に対して数か月間の労働力確保を目的とする。求人サイトや人材紹介、人材派遣などを通じて募集。地域住民のパート・アルバイト以外にも、リゾートバイトのように「観光×農業」などの切り口での募集も有効。技能実習や特定技能などの外国人材活用など複数の取り組みも想定される。また農作業請負などによる特定作業のアウトソーシングなどもあり、農業者のニーズに応じた方法を検討することが重要。
短期的な労働力
近年スポットワーカーとして注目を集める働き手の募集方法。特定作業のみを目的に日雇いパートやアルバイトを募集して従事してもらう。主に日雇い専門のアプリや求人サイトを活用する。
援農ボランティア
賃金や募集条件の関係で雇用が困難な生産者が地域住民や学生などの援農ボランティアを受入れる事例。当社においてもJA援農支援隊としてニーズと合致するボランティアのマッチング事業に取り組んでいます。
このように雇用主である生産者のニーズによって、労働者の活躍する場面と雇用形態は異なっていくため、自身が求める労働力について、考えを整理することが一つ大切だと言えます。
働く人たちの意識の変化
ここまで日本の労働市場や農業における人手不足について考えを整理してきました。ここで視点を働き手の方に向けてみます。果たして都市住民や一般消費者、非農家の方々は農業に関心があるのでしょうか。振り返ってみましょう。
先ほど引用した「新規就農をめぐる現状と課題」によると、新規雇用就農者のうち非農家出身は全体の87%を占めています。このことから農業以外の分野からの参入が多いことが分かります。また、昨今の令和のコメ騒動、新型コロナを通じた国産食材の重要性の見直しなどにより、消費者の農業生産に対する関心度が高まっています。加えて副業やスポットワークというライフスタイルや意識の変化により、日雇いや短時間勤務などのニーズも高まっています。
働くことに対する目的も変化が見られます。ただ食べていくために仕事をするという考えから、やりがいや社会貢献といった意義を求める傾向が表れてきています。また、旅をするように中長期の滞在をしながら色々な地域で働く働き手の存在も注目を集めています。外部環境、ライフスタイルや意識の変化により、都市住民や一般消費者、非農家の方々の農業への関心は高まっていると言えるのではないでしょうか。
当社でもこのような背景を受け、募集旅行形式による農業アルバイトツアーや援農ボランティアツアーを募集、企画してまいりました。旅行も今までのように観光をして美味しいもの食べるだけではなく、その場所でしかできない体験や経験、人とのつながりを求める層が増えてきているのです。また、将来的に就農や移住を検討している人々にとって、農に触れる貴重な機会としても捉えていただいています。
多様性を活かす現場で人を集める
このように、社会も働き手も変化をしていく時代の中では、柔軟に対応しながら労働力を確保していくことが求められています。そして、多様な人たちが働ける柔軟な環境や素地を農業現場は既に備えているのです。
本連載を通じて、ぜひみなさんと働く場所として魅力的な農業の現場について再認識をしたいと思います。この後のコラムでは、企業や学生などが農業に携わる事例や、多様な人材を受入れるための現場改善などについて触れていきたいと思います。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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