(株式会社農協観光 関谷 紀志)
はじめに
ここまでのコラムで、「働く場所としての農業の魅力」、「働き手が農業に魅力を感じていること」をお伝えしてきました。今回のコラムでは「実際に農家が働き手の受入れに取り組むには」という点でお話をさせていただきます。
人を雇うってどういうこと?
働き手を受け入れる前に、まずは労働(雇用)契約について考えてみましょう。
「人を雇う」ということは使用者と労働者が「合意」のもと、労働(雇用)契約という「契約を結ぶ」ということです。この契約を結ぶことにより、労働者は「労働力の提供」、使用者は「賃金の支払い」という当事者間での「権利と義務」の関係が発生します。なお、「契約自由の原則」があるものの、一般的には労働者よりも使用者の方が立場的に優位になることから「労働者を保護する」法律として労働基準法が制定されています。
また、労働条件や雇用条件を明確にし、双方に齟齬をきたさないために雇用契約書や労働条件通知書の作成を行い取り交わすことが求められています。この労働条件通知書において労働時間や休日、給与の計算方法や支払い方法などが明記されるよう制定されています。
また、使用者は労働者が仕事でケガや病気をしたとき(業務災害)、被災労働者へ災害補償を行わなければなりません。これを使用者の災害補償責任といいます。この災害補償は内容によって数千万単位の補償額になることから、使用者には労働者災害補償保険(労災保険)の加入が義務付けられています(個人経営の農業で労働者が常時5人未満の場合、農業は「暫定任意適用事業」に当るため労働保険加入は任意とされている(2026年3月現在))。
つまり「人を雇う」ということは、口約束で「1,000円あげるからこの仕事やっておいて」という関係ではなく、双方に義務や権利が生じ、また使用者には一定の責任が発生するということです。この点を蔑ろにすることは、双方で大きなトラブルや法的な問題を生む要因となります。
労働者確保に必要な視点
雇用関係は契約により成立すると確認をしましたが、使用者は労働条件や雇用条件を求人情報として明示して求職者(仕事を探している人)から選ばれなくてはなりません。以前のコラムでもお伝えしたとおり日本国内の労働者は減少しており、ただ求人募集を出して応募してきた求職者を自社の条件に合うか合わないかだけで採用判断していては働き手の確保がままならなくなっています。
つまり、求職者から選ばれる職場となり、働き手に合わせた職場となる必要があるということです。
では、求職者は何を基準に仕事を選んでいるのでしょうか。以前、当社が行った「求人に応募するとき重視する条件」というアンケートでは、1位が仕事内容、2位が勤務地、3位が勤務時間という結果でした。このことから、どんなに給料が良くても、自分の好きな仕事内容や通える勤務地、勤務時間でなければ、まずは選択肢に挙がらないということです。
農業における課題は、第1位にきている「仕事内容」「勤務地」「勤務時間」の露出が足りていないことではないかと分析しております。翻って、農業界の労働力確保の目先の課題はこの点であり、まずはWEBなどを駆使して求人情報を露出することで、「農業に関心のある人」、「農業に求人があることを知っている人」を増やし、仕事先としての選択肢となることが重要であると考えます。
第一回のコラムでもお伝えしたとおり、農業の働き方は時代を先取りしたような柔軟性があり、また農に触れることに生きがいを求める層の顕在化など仕事内容は魅力あるものと言えます。アンケート結果を踏まえれば、農業に興味のある求職者が、「仕事内容」、「勤務地」、「勤務時間」などで良いなと思ってはじめて、賃金などの条件へと目が移り、申込・面接と言うステップに進むということですから、賃金等では勝てないからと最初から尻込みすることはありません。
求人をしている、これから求人をしたい生産者の皆さんには、「農業の魅力を伝える求人情報」を広く公開し、一人でも多くの「農業に関心のある方」を増やすことに取り組んでいただきたいと思います。労働力確保の第一歩は、これらの情報公開からではないでしょうか。
コンビニやファストフード店に負けない職場...の意味を今一度考える
繰り返しになりますが、日本の労働者は減少をしています。単純に賃金や待遇だけで比較をすると、農業の現場はコンビニやファストフード店の条件を上回ることが大変かと思います。
しかし、仕事の魅力、働く仲間の魅力、働きがいなどの数値だけではない側面をアピールすることにより、農業で活躍をしたい人は大勢生まれてくると考えています。そのためには、「初心者は無理」、「忙しい時期だけ休みなく来てほしい」、「雨になったらすぐお休み」といった雇用主主体の考え方を一歩抜け出し、求職者やボランティアなどの働いてくれる方々に目線を合わせた訴求が有効になります。
ボランティアの受入れについて
「農業ボランティア」、「援農ボランティア」などの言葉を検索いただくと、色々な地域やJA、自治体で取り組んでいることが分かりますが、ボランティアと労働者の違いはなんでしょうか。
大前提としてボランティアは雇用契約を交わす労働者ではありません。賃金のやり取りを介さず、あくまでも本人の善意で農作業を手伝ってくれる方々になります。「賃金を払うから働いてほしい」という求人と比較してもボランティアを確保することは容易ではありません。そのため、単独の農家ではなく、地域単位でのボランティアの確保やマッチングの取り組みが目立っています。
ボランティアの方が集まってくれる背景を知る
では、無償で農作業を手伝ってくれるボランティアとはどんな人でしょうか。前回のコラムでもお伝えしたとおり、当社でマッチングをしているボランティアの多くは学生や企業に属する社員です。その他にも地域貢献や農業を応援したいという善意の方々がいます。
このような方々がボランティアで求めていることは「農家さんとのふれあい」、「農作業を通じたやりがい」、「人から感謝をされる」という点に集約されていきます。彼らの多くは農作業についてほぼ未経験ですが、少しでも「農家さんの力になりたい」という思いで農作業に取り組んでいます。
生産者側が意識すべき三点
このような前提を背景に、当社が援農ボランティアを受入れたい生産者の方にお伝えしたいことは3点です。
①感謝とふれあいの気持ちをもつこと
②未経験者でもできる作業を用意し、丁寧に指示をすること
③農業や自分のことをもっと好きになってもらい、ファンになってもらうこと
善意にこそ感謝をもって応対することにより、雇用関係だけではない、新たな支援者を生み出すことが期待されます。このようなボランティアの方々は、「農業に触れたいが生計にはしたくない」という思いもあります。以前、コラムでも触れたとおり、農業に求める価値観が多様化している象徴的なことと言えるかもしれません。
そして、ボランティアの方は、力になりたいと思ってくれていますので、ブランディングとしてアンバサダーとなり、ファンづくり、生産品の販路拡大などに繋がるヒントをもたらすこともあるかもしれません。実際、ボランティアに赴いた圃場のファンになり、今も野菜を買い続けてくれているという話も耳にします。多くの人を巻き込むことは、結果として経営にとってもプラスに働くと考えられます。
まとめ
雇用の条件面だけではない魅力が農業にはあると思われます。農業に求められていることを注視し、魅力的な職場を皆さんで作り出し、発信をしていくことで、まだまだ農業の現場は盛り上がるものと信じています。
★農協観光「労働力応援事業」★
農業に労働力を提供されたい方、労働力を確保されたい方。いずれの方も関心がお有りの場合は「ntour.agri-bank@ntour.co.jp」へとご連絡ください。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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